【完結・R18BL】手乗りスライムのロームと僕〜スライムを拾ったら、なぜか侯爵令息に溺愛されました?!【御礼SS追加】

明和来青

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キースの婚活

チェックメイト ※

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 日課の剣の稽古が清々しい。愛するジャスパーの寝顔にキスを落としてから、昨夜の痴態を思い浮かべながらひたすら剣を振るう。煩悩など掻き消さない。今夜はどうやって責めようか。ああ、体のキレが違う。

 時間も良い頃合いだ。てきぱきとシャワーを浴びて身支度し、可愛いハニーを迎えに行く。途中、侍女が俺を咎めるような目で何か物言おうとしていたが、気にしない。そういうのは後にしてくれ。俺はこれから、最後の勝利宣言に向かうのだから。

「ちょうど朝の鍛錬が終わったところだよ。さあ、本邸へ行こう。父上と母上が待ってる」

 ジャスパーは、事前に用意させていた衣装に身を包んでいる。昨日散々可愛がったせいか、少し表情は冴えないが、そんな物憂げな君もこの上なく愛らしい。いつもは慎ましやかで目立たない格好をしているが、こうして髪を編み込んで着飾ると、どこに出しても恥ずかしくない貴公子だ。着せたばかりだが、早く剥いてしまいたい。

 急な展開に戸惑うジャスパーを、俺は足早に本邸へエスコートする。戦いは常に先手必勝だ。考える隙を与えてはならない。

「僕に任せて。君は隣で微笑んでいればいいから」

 緊張して不安そうなジャスパーに、俺は微笑んだ。



「父上、母上、入ります」

 ダイニングの扉が開き、テーブルの向こうに、父上と母上が待っている。俺はジャスパーを隣に伴い、高らかに宣言する。

「ご紹介します。彼が僕の伴侶、ジャスパーです」

「え?」

 隣から、気の抜けた声が漏れる。ちらりと見遣ると、目玉をこぼれ落ちんばかりに見張るジャスパー。ははは、昨夜ゆうべ契りを交わしておいて、今更だ。あまりに可愛くて、思わず家人の前でベロチューしてしまった。すっかり腰の抜けた彼を、ぎゅっと抱き留める。これでジャスパーは、公私共に俺のものだ。



「———キース」

 背後から、母上の低い声が聞こえる。

「はいっ、母上」

「お前、そのザマは何なのです」

「どうかなさいましたか」

「どうかではないわッ!!!」

 母上が激昂している。だがもう遅い。俺の勝利は成った。

「…どう見ても、ジュール君の同意を取り付けたようには見えないのだが?」

 父上がおずおずと口を挟む。

「はい。本懐は遂げましたので、同意はこれから」

「アホかーーー!!!」

 耳をつんざく母上の雷鳴。

「本懐ってお前、同意もなく他所様のご子息を攫って来て、手ェ出してんじゃねぇぞこのボンクラ息子!!!」

「嫌だなぁ母上。僕たちはちゃんと愛し合ってますよ。ねぇ、ジャスパー?」

「あ、愛?」

 ジャスパーが目を白黒させている。嫌だなあ。ロームを譲り受けてから半年、散々愛を育んで来たじゃないか。ベッドで。

「あー、ジュール君。君、息子に騙されて連れて来られたんじゃないのかね。コイツは昔からどうもそういうところがあって」

 母上の親衛隊にボッコボコにされて、最後不意打ちで彼女を陥落させた父上が言うことではない。父上、俺は父上似ですよ。

「今度という今度は性根しょうねを叩き直してくれる!そこへ直れ!!」

「ええと母上。僕はこれから愛を確かめ合って、同意を取り付けなければなりませんので。じゃあジャスパー、行こう」

「うわっ」

 正々堂々だとか正統派ラブロマンスだとか、母上の寝言に付き合っている暇はない。これでちゃんと顔合わせは終わった。ジャスパーをさっさとお姫様抱っこ。長居は無用だ。

「それでは失礼します!」

 俺は風を切って本邸を後にした。



 身体が羽のように軽い。ジャスパー一人を横抱きにして、今なら記録が出せるんじゃないかと思うほどのダッシュで、続きの間まで戻る。彼をそっとベッドに下ろし、最後の仕上げだ。

「えっと…」

 未だに状況が飲み込めないジャスパーの前にひざまずく。

「ジャスパー。順番が前後してごめんね。君には全て準備が整ってから、申し込みたかったんだ」

 俺はベストの胸ポケットから小箱を取り出し、

「どうか、僕の伴侶になってくれないかな」

 彼の目の前で、それを開いた。中には、俺の瞳の色のタンジェリンガーネットをあしらった、白金の指輪。もちろん、彼の瞳の色の揃いのリングも用意してある。

「は、伴侶って…」

 チェックメイト。外堀は全て埋めた。ご実家や寄り親の辺境伯家にも同意を取り付け、親にもさっき顔合わせして。婚約誓約書、婚姻誓約書、それに伴う必要書類も既に取り寄せ済みで、後はジャスパーがサインするだけ。そして来年の卒業記念パーティーで着るための礼服や、結婚披露宴の会場、日程、招待客の選定と招待状などの手配なども、全て終わっている。もちろん、この屋敷のクローゼットは既に彼の衣装で埋まっている。改装も使用人の配置も済ませた。

 義理堅く責任感の強いジャスパーのことだ。ここまでお膳立てされて、ノーとは言えまい。身体の距離はここ半年、特に「通信実験」を始めた年末からは、しっかりと詰めたはずだ。昨日も涙を流しながら俺を受け入れて、とろけるほど愛し合った。まさか拒否されるということはないだろうが、念には念を入れる。万が一にも取りこぼすわけにはいかない。

 顔を真っ赤にして、え、でも、あの、などと固まっているジャスパーの薬指に、俺はさっさと指輪を通して、耳元で囁いた。

「…嫌?」

 そしてそのまま、再びベッドに縫い付けた。



 着せたばかりの服を脱がせ、美しく編み込まれた髪のリボンを解き。昨夜付けた印が残る肌を暴き、ひたすらキスを繰り返す。

「ん、ふっ、キース、んちゅっ…」

 もう我慢などしない。性急にジャスパーを求める俺に合わせ、ロームは手際良くジャスパーの中を解し、受け入れる準備を整える。俺は前だけをはだけ、猛ったペニスを取り出すと、一気に貫いた。ああ、これで君は俺のもの。完全に俺のものだ。何か言いたそうな彼の唇を塞ぎ、本能のままにひたすら腰を振る。やがて彼も、俺の背中に腕を回し、いやらしく脚を絡め、俺の律動に合わせて甘美なダンスを踊る。

「キ…ああああっ…!!♡」

 媚肉をわななかせ、彼はまた絶頂を迎える。俺もきつく締まる彼の中に、熱い愛を注ぐ。

「愛してるよ、ジャスパー。僕の最愛」

 可愛い、気持ちいい、そういった言葉は何度も口にした。だけど、愛の言葉は初めてだ。何重にも囲い込まなければ、愛も告げられない小心な男。君はこんな俺に、失望しただろうか。しかし彼は、

「キース様…僕も、お慕いしています…」

 静かに涙を流しながら、俺に口付けた。

 それから俺たちは、二人の愛の巣で甘い蜜月を過ごした。愛し合っては休み、愛し合っては休み。そして時折軽食を挟み、バスルームで身体を清め、清めたそばからまた睦み合う。

 使用人たちは、全て事前に指示してある。彼らは俺の恋の成就を、快く祝ってくれた。俺たちの前に姿を見せないように配慮しつつ、軽食のワゴンにはさりげなく「おめでとうございます」「お幸せに」などというカードが置かれており、クローシュの中には、祝いの席で供される料理や花がさりげなくしのばせてある。

 俺はこの世の春を謳歌していた。もちろん、翌日訪れる地獄も込みで。



「ゴルァぁ!今日という今日は、お前の腐った性根しょうねを叩き直してくれる!!」

 母上が鞭を鳴らす。剣の稽古の相手という名目だが、剣はとっくに弾き飛ばされ、俺はメタメタのギタギタだ。リーチが違うのだから仕方ない。だが「戦場ではリーチなどと甘ったれた言葉は通用しない」らしい。それにしても、鞭は痛い。地味に流血大惨事だ。これだから、騎士学園のメスゴリ…女生徒には勃たなかったのだ。

 彼女は元々細剣の達人だが、馬上ではハルバード、その他一通りの武器に精通している。しかし結婚後はもっぱら鞭だ。なぜか。それは父上が彼女をめとる際、剣術勝負と見せかけて卑怯な手を使ったからだ。リーチの短い武器で戦うと、どうしても間合いが狭くなる。刺突スターブ中心の細剣は特にそうだ。父上は、側近の女騎士たちにボッコボコにやられつつ、何とか母上との直接対決の権利をもぎ取り、彼女の最も得意とする細剣勝負で挑んだ。そして彼女が刺突を仕掛けた瞬間、自分の剣を投げ捨てて、彼女の背後を取って唇を奪った、らしい。これは我が家と隣国とで、甘いラブロマンスとして語り継がれているが、当人からすると相当に屈辱だったようで、その後彼女は鞭術べんじゅつに磨きを掛け、まず剣を弾き飛ばしてから一方的に嬲る、という戦術を取るようになった。なお、なぜ鞭かというと、スカートの下に常に装備できるからである。ドレスのスリットからは、他にも短剣や投げナイフなどが見え隠れするが、見てはいけない。

 母上の教育は体当たり、基本鉄拳制裁だ。女とは可憐でか弱いもの、男たるもの女より強くなければ。可愛い末姫を手放したくなかった祖父王が、無茶な洗脳を課した結果、母上は「男の子はどれだけ苛烈に鍛えても良い」という非現実的な教育理論を抱くに至った。そしてそれは、それは武のケラハー家わがやのそれとぴったり当てはまった。不幸だったのは、彼女が大陸一の猛将であったということだ。

 俺や兄上は、度々教育的指導という名の血祭りに上げられた。しばしば父上も。もちろん、我が家には優秀な治癒師も控えている。だが、臨死体験を伴う教育とは一体何だろう。兄上はすっかり母上から距離を取ってしまい、彼は慈母のような年上の義姉上と結婚した。そして俺は、ジャスパーを選んだ。決して女が嫌になって男にした、ということではないが、彼の穏やかな人柄に惹かれたのは、母上の教育の結果と言えなくもない。

 この場にサーコートでたたずんでいる父上は、彼女の抑止力であり、また見せしめに付き合わされている。乙女に不埒を働いた男に目に物を見せてくれる。隠れて外堀を埋め、半ば騙し討ちのように婚約を結んだ俺に、彼女は父上への過去の怒りを上乗せして、俺を血の海に沈めているというわけだ。

「キース様!」

 しかし朦朧としている耳に、ジャスパーの足音と声が聞こえた。

「ジュール君。今、息子の性根を叩き直してる所なの。迷惑かけて、本当にごめんなさいね」

 母上は、ジャスパーに猫撫で声を向けた後、ヒュパァン!と鞭を唸らせる。

「オラァ!お前ぇよぉ、惚れた男ォ泣かしてんじゃねぇぞォ!!」

「は、母上ッ…」

 いや、確かに昨晩もその前も、気持ちよくあんあん泣かせたが。大団円じゃないか。一体何が気に入らないんだ。

「ジュール君。カトリーナがこうなったら止められんのだ。しばらく辛抱してくれ」

 父上はジャスパーを匿って、何やら吹き込んでいる。そろそろ止めてくれないか。しかし、

「待ってください!ぼ、僕もキース様のこと、お慕いしてますからッ!!」

 ジャスパーはそう言って駆けてきて、血まみれの俺を抱き起こし、まばゆいほどの魔力を込めて、完全回復パーフェクトヒールを掛けた。

「ジャスパー…」

 母上から守るように、体格に恵まれた俺をしっかりと抱き抱えるジャスパー。俺は不覚にも惚れ直してしまった。散々彼を組み敷いて、可愛い、嫁だと思っていたが、彼も立派な男だ。王子様に憧れる女の気持ちが、ちょっと分かった気がする。



 そこでその場は解散。各々おのおの身支度を済ませて、改めて本邸で朝食会となった。

 母上のジャスパーに対する好感度が、振り切れていた。彼の完全回復の余波が両親まで及び、父上の古傷まで癒やし、母上の肌はもちもちのピチピチに若返ったらしい。だがしかし、それだけではない。愛する男を、身を挺してかばう純愛。細身の貴公子のような出立いでだち。俺から見ても、まるで姫を救う王子様のようだったが、未だに恋に恋する乙女のような母上のハートに、ズギュンと刺さったらしい。

「逃すなよ、絶対逃すなよ」

 彼女は血走った目で、何度も俺に確認を取って来た。俺とて逃す気はないが、いつかジャスパーを横取りされるのではないかと、別の危機感を抱く羽目になった。なお、母上の機嫌が直ったことで、父上も一安心している。彼は母上さえいれば、後は割とどうでもいい人だ。だがこちらも、母上の関心がジャスパーに移るのではないかとそわそわしている。俺たちは似た者親子だ。

 その後、屋敷に併設する騎士団の施設に出向き、幹部とも顔合わせしておいた。俺としては、ジャスパーは特に仕事をせずとも、嫁として別邸に居てくれればそれで良いのだが、彼自身が納得しないだろう。何しろ彼の能力を遊ばせておくのも勿体ない。ジャスパーは、早速働く意欲を見せていた。俺は「彼は俺の婚約者なので、くれぐれも変な気を起こさないように」と再三釘を刺し、彼を誘き寄せた表向きの名目「就職活動と面接」は、これでひとまず終了した。



 一週間後、学園に戻った俺たちは、ケネス殿下に婚約の報告をした。皆、俺がジャスパーの囲い込みに動いていたことは承知していたので、誰も驚かなかった。驚いていたのはジャスパーくらいか。

 婚約を公言しても、俺やジャスパーに横槍を入れる馬鹿は後を絶たなかったが、俺はその度に障害の芽をきっちりと叩き潰しておいた。都度、ジャスパーが俺から逃げようとするのには手を焼いたが、毎回捕獲監禁して理解わからセックスするのが恒例となった。

 あのプロポーズの時、何故母上があそこまで怒り狂っていたのか、俺は後から知ることとなった。プロポーズよりも先に初夜を済ませたため、ジャスパーは俺が他の女と結婚する前に身を退こうとして、乗合馬車の場所を侍女に尋ねていたそうだ。あの侍女は、母上が別邸に捩じ込んで来た、俺の乳母で母上の側近。俺がジャスパーに不実を働いたと判断して母上に報告したため、あのような大爆発に及んだということだ。

 ああ、ジャスパー。あの時君が見せた物憂げな表情は、俺を想って傷付いていたからなのか。何と健気な。たまらん。可愛い。その後、同様の思い違いが起こるたび、俺が燃え上がったのは必然と言えよう。

 そんなこんなで、俺は無事に彼をつまとして娶ることとなった。その前後のあれこれは、また別の機会に。

 我が人生に一片の悔いなし。俺たちのラブラブライフは、これからだ!



✳︎✳︎✳︎

これで婚約までのストーリーは完結です。
次回からは、後日談の後日談を投稿する予定です。
読んでくださって、ありがとうございます!
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