48 / 59
第48話 天使族の里
しおりを挟む
俺と殿下、そして父上は、三人でつんのめるようにしてドアを潜った。するとドアの向こうは、どこまでも続く草原。そして遠くにポツポツと見える建物、白い神殿。異世界の俺なら、「まるでスイスのよう」と表現するだろう。どこまでも牧歌的で、幻想的な世界。
振り返ると、丘の上にポツンと立つ白い扉。とてもシュールだ。
「…ここが楽園」
「僕も、幼い頃一度来たきりだけどね」
俺たちは用心して進む。幸いなことに、転移スキルは扉を越えても生きているようだ。妨害される恐れがないとは言えないが、いざという時は二人を連れて王都まで跳ぶことが出来る。いや、王都に一直線に帰るのはマズいのか?だけど面が割れたらどこに跳んでも同じか。
逡巡していて気が付いた。楽園の内部は、門のある山岳地帯とめちゃくちゃ座標が離れている。王都の方がずっと近いくらいだ。いやむしろ、ここは———
「いる」
前方を警戒していた二人が立ち止まり、剣の柄に手を掛ける。慌てて彼らの視線の先を追うと、大きな白い鳥が飛んでいる。いや、人。天使族だ。
「やばっ、拘束!」
俺は咄嗟に魔眼を放った。天使族は空中でピシリと動きを止める。
「飛翔!」
地面に激突する前に、メレディスが飛翔を掛けて相手を浮かせる。
「駄目だ、メイナード。騒ぎを起こしては」
殿下が俺を嗜める。つい出来心で扉に入っちゃった上に、ビビって天使族を拘束してしまった。マズったな。ホントごめんなさい。
捕まえてしまったものは仕方ない。メレディスが飛翔で浮かせて引き寄せた天使族を鑑定すると、こんな感じだった。
名前 クラーク
種族 天使
称号 3 of Wand
レベル 68
HP 1,360
MP 2,040
POW 136
INT 204
AGI 136
DEX 204
属性 光・火
スキル
ヒール Lv6
ファイアーボール Lv6
棒術 Lv6
E トーガ
「しょっぱ!」
俺は思わず声を上げてしまった。「しっ」と殿下に注意されて慌てて黙る。今日の俺はやらかしっ放しだ。黙ってクラークのステータスを手帳に書き写し、殿下に手渡す。
「ふむ…」
彼は審判のスキルで、クラークを尋問に掛ける。質問を投げかけ、相手のリアクションから隠された意図まで読み取るスキル。クラークは拘束で動けないが、まばたきだけで行けるようだ。
「一旦連れ帰り、記憶操作の工作員に委ねるか。しかし、魔力の残滓が厄介だ…」
殿下がぶつぶつと物騒なことを呟いている。
現在楽園に隠棲する天使族は三十四名。天使族は少数民族と聞いていたが、そんなに少ないとは思わなかった。しかもそのうちのほとんどが、彼と同等の実力だという。そりゃそうだ、こんな平和なところで暮らしてたら、レベルを上げようがないもんな。というわけで、もういっそ三人で天使族全員を制圧しちゃえばいいんじゃね、ということとなった。
殿下が光学迷彩の結界を張り、逐一転移を繰り返しながら、魔眼で捉えた天使族を一人一人行動不能にしていく。何だかFPSみたいでワクワクするな。殿下からは「迂闊なことをするな」という鋭い視線、メレディスからは「無茶をしては」という心配げな視線を感じるが、気にしたら負けだ。そうこうしている間に家や畑を回り、男女三十名を捕獲した。最重要人物は、神殿にいるという。
「———あんまり会いたくなかったんだけどね」
殿下はふとため息をついて、「さ、行こうか」と促した。
振り返ると、丘の上にポツンと立つ白い扉。とてもシュールだ。
「…ここが楽園」
「僕も、幼い頃一度来たきりだけどね」
俺たちは用心して進む。幸いなことに、転移スキルは扉を越えても生きているようだ。妨害される恐れがないとは言えないが、いざという時は二人を連れて王都まで跳ぶことが出来る。いや、王都に一直線に帰るのはマズいのか?だけど面が割れたらどこに跳んでも同じか。
逡巡していて気が付いた。楽園の内部は、門のある山岳地帯とめちゃくちゃ座標が離れている。王都の方がずっと近いくらいだ。いやむしろ、ここは———
「いる」
前方を警戒していた二人が立ち止まり、剣の柄に手を掛ける。慌てて彼らの視線の先を追うと、大きな白い鳥が飛んでいる。いや、人。天使族だ。
「やばっ、拘束!」
俺は咄嗟に魔眼を放った。天使族は空中でピシリと動きを止める。
「飛翔!」
地面に激突する前に、メレディスが飛翔を掛けて相手を浮かせる。
「駄目だ、メイナード。騒ぎを起こしては」
殿下が俺を嗜める。つい出来心で扉に入っちゃった上に、ビビって天使族を拘束してしまった。マズったな。ホントごめんなさい。
捕まえてしまったものは仕方ない。メレディスが飛翔で浮かせて引き寄せた天使族を鑑定すると、こんな感じだった。
名前 クラーク
種族 天使
称号 3 of Wand
レベル 68
HP 1,360
MP 2,040
POW 136
INT 204
AGI 136
DEX 204
属性 光・火
スキル
ヒール Lv6
ファイアーボール Lv6
棒術 Lv6
E トーガ
「しょっぱ!」
俺は思わず声を上げてしまった。「しっ」と殿下に注意されて慌てて黙る。今日の俺はやらかしっ放しだ。黙ってクラークのステータスを手帳に書き写し、殿下に手渡す。
「ふむ…」
彼は審判のスキルで、クラークを尋問に掛ける。質問を投げかけ、相手のリアクションから隠された意図まで読み取るスキル。クラークは拘束で動けないが、まばたきだけで行けるようだ。
「一旦連れ帰り、記憶操作の工作員に委ねるか。しかし、魔力の残滓が厄介だ…」
殿下がぶつぶつと物騒なことを呟いている。
現在楽園に隠棲する天使族は三十四名。天使族は少数民族と聞いていたが、そんなに少ないとは思わなかった。しかもそのうちのほとんどが、彼と同等の実力だという。そりゃそうだ、こんな平和なところで暮らしてたら、レベルを上げようがないもんな。というわけで、もういっそ三人で天使族全員を制圧しちゃえばいいんじゃね、ということとなった。
殿下が光学迷彩の結界を張り、逐一転移を繰り返しながら、魔眼で捉えた天使族を一人一人行動不能にしていく。何だかFPSみたいでワクワクするな。殿下からは「迂闊なことをするな」という鋭い視線、メレディスからは「無茶をしては」という心配げな視線を感じるが、気にしたら負けだ。そうこうしている間に家や畑を回り、男女三十名を捕獲した。最重要人物は、神殿にいるという。
「———あんまり会いたくなかったんだけどね」
殿下はふとため息をついて、「さ、行こうか」と促した。
10
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる