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第4章:祖父から聞いた驚愕の話
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『さっき・・・』と言いかけたか否か覚えていないくらいの速さで『座れ』と祖父に促されました。言われるがまま祖父の隣に腰を下ろした私に、祖父は次のように語りかけました。
『じいちゃんもなぁ、最初はよく分からなかったんだが、京二と同じくらいの歳になったくらいから、あの日記に書いてある事が夢に出てくるようになったんだよな』
『日記』という言葉を聞いた瞬間に、私の背筋はゾッとする何かに包まれ鳥肌が立ちました。日記を見たこと、そこに書いてあったよく分からない文章を見たこと、春休みに起きたあの日の出来事を、祖父には話したことがなかったはずですが、全てわかっているようでした。『いや、じいちゃん・・・』私が言いかけると、『いや、わかっとるから大丈夫だ。でもな、』そう言って、祖父は私の話を遮って続けました。
『元々はワシの日記だったんだ。戦後の学校ってのは、読み書きを特に集中して教え込まれてな。その一環で学校から配給されたのがあの日記帳なんだ。でもな、戦争が終わるまで竹槍の持ち方しか知らなかった坊主頭のワシだったから、日記を書きなさいと言われても大したことが書けなかったんだ。先生には随分と叱られてな。ははは。だから、ワシの日記は大体が走り書きなんだ。』
そうだったのか。だからじいちゃんの日記はほとんど走り書きのような。つぶやきのような、どうでもいいようなことしか書いてなかったんだ。
だとしたら。だとしたらだ。
『ああ、そうなんだ。』
祖父は私の心を読んでいるかのように、例のあの文章について説明し始めました。
『あれはワシが書いたもんじゃないんだ。突然いつものように日記帳を開いたら書いてあった。元々はなかったページにだ。そんで、最初はなんだかよく分からなかったから放っておいたんだ。次の日になると、1日分のページにびっしりと日記が書かれていた。』
『次の日にはまた違う内容でびっしりだ。先生には褒められたなぁ。でも、内容が不気味だから、おかしくなっちまったんじゃないかって親が学校に呼ばれてな。』
そこまで話すと、祖父はタバコを取り出しました。祖父は昔からタバコが好きでした。薄紫色のポロシャツの胸ポケットからマッチ箱を出すと、手慣れた様子で祖父はタバコに火をつけました。
『京二は怖がりだったよな?』
咥えタバコで祖父は片目でこちらを見ながらそう言いました。
『う、うん。』
『だからな、一応話しておいた方がお前のためになるかと思ってな』
2回吸って1回吐くというのが祖父のタバコの吸い方の癖でした。
『あの日記はな、あの日記はどうも気味が悪いんだ。じいちゃんも苦手な日記を書かなくて良くなったんだが、あの日記が勝手に書かれるようになってから妙なことが起きた。あの日記に書かれた話が夢に出てくるようになった。しかもな、夢ってのは大体ぼんやり浮かんで、シャボン玉みたいにパッと目が覚めるだろ?それが違うんだ。最初から最後まで、日記に書かれた話が始まって終わるまで、鮮明に自分の体験として夢で出てくるんだ。それに、、』
喋りながらタバコを蒸かしたからか、祖父は少しむせていました。
『それにな、話が全部おっかない話ばかりでな。まあ、おっかないって言っても幽霊とかそういうことじゃない時もあるんだが、あんまり気持ちのいいもんじゃない話ばかりなんだ。』
ということは、これから自分がそのような体験をしなければいけないのか、私は真っ暗闇で道に迷ったような、大きな不安に包まれました。
『それから?それからどうなったの?』
『おお、やっぱり気になるか?』祖父は少しイタズラっぽい顔で私を見ながら、『あの文章はな、謎かけになってるんだ。』と根元まで燃えたタバコを灰皿に押し付けながら言いました。
『あの日記に書かれているたくさんの話は、あの文章のヒントになっているんだ。それを頭の中で繋がったと思った瞬間に目の前がパァーっと明るくなって、それまで書かれていた話は全部日記から消えちまった。夢に見るのもその頃からなくなったんだ。』
要はこういうことです。
学校の配給でもらった日記に突然変な文章と変な話が勝手に書かれ始めた。その日記に書かれた話は夢に出てきて擬似体験することになった。擬似体験の中でヒントを掴んで文章の意味を理解した時に目の前が明るくなった。その後は夢に見ることは無くなった。
にわかに信じられない話でした。そんなことがこの世の中にあるのだろうか、私の頭の中には祖父の話を疑うことの方が、その時の思考を埋め尽くしていました。
『だったらじいちゃんが教えてくれれば』
そう言った私の右手を押さえて、『それはダメだ!』と祖父は語気を強めた。途端にビクッとした私に、押さえた右手から手を離し私の肩に手をかけて、『それはお前が自分で見つけ出さないと意味がないんだ。見つけられなければずっと彷徨うことになる。』そう祖父は私に言って聞かせました。
『じいちゃんが京二に伝えられるのはここまでだ。それと、この事は誰にも相談したらダメだ。自分から相談したら謎が解けても元には戻らないんだ。ただ、あの日記を京二のあとに、自分から読むようなもの好きが居たら別だ。今度はそいつが謎解きの番になるんだ。その時は京二は役目を終えるんだ。』
その日の夕食は私の好きなハンバーグでした。祖父は日本酒を煽って酔っていたので、さっきの和室での話を切り出すような雰囲気ではありませんでした。食事の最中、祖母から高校進学について何か聞かれたような気がしましたが、正直何を聞かれて何を答えたのか覚えていません。
高校に進学すると、部活に勉強に忙しくてなかなか祖父母と会う機会はありませんでした。高校2年の10月、祖父が亡くなりました。あの日に日記の秘密について話をしてから、祖父と対面したのはその時が初めてであり、最後になってしまいました。
祖父の四十九日が終わってすぐ、私は夢を見ました。それからずっと。そして今も。
『じいちゃんもなぁ、最初はよく分からなかったんだが、京二と同じくらいの歳になったくらいから、あの日記に書いてある事が夢に出てくるようになったんだよな』
『日記』という言葉を聞いた瞬間に、私の背筋はゾッとする何かに包まれ鳥肌が立ちました。日記を見たこと、そこに書いてあったよく分からない文章を見たこと、春休みに起きたあの日の出来事を、祖父には話したことがなかったはずですが、全てわかっているようでした。『いや、じいちゃん・・・』私が言いかけると、『いや、わかっとるから大丈夫だ。でもな、』そう言って、祖父は私の話を遮って続けました。
『元々はワシの日記だったんだ。戦後の学校ってのは、読み書きを特に集中して教え込まれてな。その一環で学校から配給されたのがあの日記帳なんだ。でもな、戦争が終わるまで竹槍の持ち方しか知らなかった坊主頭のワシだったから、日記を書きなさいと言われても大したことが書けなかったんだ。先生には随分と叱られてな。ははは。だから、ワシの日記は大体が走り書きなんだ。』
そうだったのか。だからじいちゃんの日記はほとんど走り書きのような。つぶやきのような、どうでもいいようなことしか書いてなかったんだ。
だとしたら。だとしたらだ。
『ああ、そうなんだ。』
祖父は私の心を読んでいるかのように、例のあの文章について説明し始めました。
『あれはワシが書いたもんじゃないんだ。突然いつものように日記帳を開いたら書いてあった。元々はなかったページにだ。そんで、最初はなんだかよく分からなかったから放っておいたんだ。次の日になると、1日分のページにびっしりと日記が書かれていた。』
『次の日にはまた違う内容でびっしりだ。先生には褒められたなぁ。でも、内容が不気味だから、おかしくなっちまったんじゃないかって親が学校に呼ばれてな。』
そこまで話すと、祖父はタバコを取り出しました。祖父は昔からタバコが好きでした。薄紫色のポロシャツの胸ポケットからマッチ箱を出すと、手慣れた様子で祖父はタバコに火をつけました。
『京二は怖がりだったよな?』
咥えタバコで祖父は片目でこちらを見ながらそう言いました。
『う、うん。』
『だからな、一応話しておいた方がお前のためになるかと思ってな』
2回吸って1回吐くというのが祖父のタバコの吸い方の癖でした。
『あの日記はな、あの日記はどうも気味が悪いんだ。じいちゃんも苦手な日記を書かなくて良くなったんだが、あの日記が勝手に書かれるようになってから妙なことが起きた。あの日記に書かれた話が夢に出てくるようになった。しかもな、夢ってのは大体ぼんやり浮かんで、シャボン玉みたいにパッと目が覚めるだろ?それが違うんだ。最初から最後まで、日記に書かれた話が始まって終わるまで、鮮明に自分の体験として夢で出てくるんだ。それに、、』
喋りながらタバコを蒸かしたからか、祖父は少しむせていました。
『それにな、話が全部おっかない話ばかりでな。まあ、おっかないって言っても幽霊とかそういうことじゃない時もあるんだが、あんまり気持ちのいいもんじゃない話ばかりなんだ。』
ということは、これから自分がそのような体験をしなければいけないのか、私は真っ暗闇で道に迷ったような、大きな不安に包まれました。
『それから?それからどうなったの?』
『おお、やっぱり気になるか?』祖父は少しイタズラっぽい顔で私を見ながら、『あの文章はな、謎かけになってるんだ。』と根元まで燃えたタバコを灰皿に押し付けながら言いました。
『あの日記に書かれているたくさんの話は、あの文章のヒントになっているんだ。それを頭の中で繋がったと思った瞬間に目の前がパァーっと明るくなって、それまで書かれていた話は全部日記から消えちまった。夢に見るのもその頃からなくなったんだ。』
要はこういうことです。
学校の配給でもらった日記に突然変な文章と変な話が勝手に書かれ始めた。その日記に書かれた話は夢に出てきて擬似体験することになった。擬似体験の中でヒントを掴んで文章の意味を理解した時に目の前が明るくなった。その後は夢に見ることは無くなった。
にわかに信じられない話でした。そんなことがこの世の中にあるのだろうか、私の頭の中には祖父の話を疑うことの方が、その時の思考を埋め尽くしていました。
『だったらじいちゃんが教えてくれれば』
そう言った私の右手を押さえて、『それはダメだ!』と祖父は語気を強めた。途端にビクッとした私に、押さえた右手から手を離し私の肩に手をかけて、『それはお前が自分で見つけ出さないと意味がないんだ。見つけられなければずっと彷徨うことになる。』そう祖父は私に言って聞かせました。
『じいちゃんが京二に伝えられるのはここまでだ。それと、この事は誰にも相談したらダメだ。自分から相談したら謎が解けても元には戻らないんだ。ただ、あの日記を京二のあとに、自分から読むようなもの好きが居たら別だ。今度はそいつが謎解きの番になるんだ。その時は京二は役目を終えるんだ。』
その日の夕食は私の好きなハンバーグでした。祖父は日本酒を煽って酔っていたので、さっきの和室での話を切り出すような雰囲気ではありませんでした。食事の最中、祖母から高校進学について何か聞かれたような気がしましたが、正直何を聞かれて何を答えたのか覚えていません。
高校に進学すると、部活に勉強に忙しくてなかなか祖父母と会う機会はありませんでした。高校2年の10月、祖父が亡くなりました。あの日に日記の秘密について話をしてから、祖父と対面したのはその時が初めてであり、最後になってしまいました。
祖父の四十九日が終わってすぐ、私は夢を見ました。それからずっと。そして今も。
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