とがびとびより、ロニーの物語

ヒトヤスミ

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光道真術学院【マラナカン】編

三十九

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速度を増ながら突進してくる怪物を待ち受ける白の騎士、つまりイルシオニスタは慌てるという素振りを微塵も見せない。
 人造の怪物は、イルシオニスタの眼前で高く飛び跳ねあがり、空中で体を丸め回転しながらイルシオニスタ目掛けて落下。
 待ち受けるイルシオニスタが片手を前に出した。
「きなさい相棒」
 掌に現れる片刃の剣、それはまるで日本刀。両の掌でそれを構える。
「ギャー――――――!」
 叫び声をまき散らしながら落下してくる人造の怪物は既にイルシオニスタの眼前にまで迫る。しかし彼女は微塵も慌てずに手に持つ刀を一閃。
 まるで無重力空間での出来事、怪物の軌道が軽やかに変化し、誰もいない方向にある壁に大音量を伴い激突。
「早く、立ち上がりなさい。あまり無駄な時間は取りたくはありませんので」
 ガラガラと音を立て、崩れた壁の欠片を覆いのけ誇り舞う中から怪物が姿を見せる。
 怪物が大きな口を開け始めた。不穏な光が口内に集まる。
「バアアアアアアアアアアアーーー」
 怪物の口から光があふれる。真直ぐにイルシオニスタへと。だが彼女は軽やかに飛び難なく躱す。
 しかし怪物も次に移るのは早い、膝を曲げ極限まで力をためた渾身の跳躍、そのまま飛び蹴りの体勢、怪物の蹴りがイルシオニスタを吹き飛ばす。
 後方に吹き飛ばされるイルシオニスタ、だがその顔に攻撃を受けた苦悶の表情は無い。
 攻撃を受けた瞬間、彼女の光道魔術によって力はすべて削がれた状態になっていた。吹き飛ばされた彼女は壁に激突する直前、後方に転回、まるで壁が地面かの様に膝を曲げ着地、そこから今度はイルシオニスタが怪物に向かい飛んでいく。
 待ち構える怪物が左の拳をイルシオニスタ目掛けて突き出した……突き刺さるはずの拳が空を切る、現在の怪物に考えるという事が出来るとは考えられないのだが、その本能からか空を切った拳をまじまじと見つめている。
「どこを見ているのです?」
 頭上から聞こえる声に反応、瞬時に突き上げる拳……それも空気をなぞるだけで終わる。
「そこではないですよ」
 右から聞こえる声。
「逆ですよ逆」
 左から聞こえる声。
 続く四方八方からの声に僅かばかり残る知性が崩壊し、その場で暴れ狂う。
「……終わりです」
 ザシュっという音がした後、怪物が真っ二つに裂ける。
 左右の身体が血をまき散らし反対方向に崩れ落ち、後に残るは刀を下げ悲し気な瞳を浮べるイルシオニスタのみであった。
 少しばかりの沈黙が場を支配する。
 もとはただの民間人、二度と元に戻ることは無いとは言えあまりにも悲しい終わり方。捉えられた生徒達は檻の中で、ロニーとマクシミリアンはそれぞれの場所で祈り捧げた。
「茶番はおわりよ、出てきなさい卑怯者」
 口を開いたのはマクシミリアン、何処からか見ているであろう彼に投げかける。
「これは困りましたねぇ。あれをこんなあっさり片づけてしまうとは予定外です。流石、最年少で一桁騎士団に入団しただけはありますね【モダンアビリティ・世界最高の才能】の看板も偽りではないという事でしょうか。さてどうしたもんでしょうか……あまり使いたくはなかったのですが仕方ありません」
 未だに姿を見せないクラウディオがそう言うと、指を鳴らしたのだろうパチンッという音が聞こえた。
 すると二つに裂かれた怪物であったものから煙が噴き出る。
「今度は何だよ……次から次にせわしない」
 ロニーの言葉に周りも異論はない、三人はそれぞれそれから距離を取り身構える。
 裂かれた左右の身体から出る白煙は徐々に人の形に変化し、二人の若者が現れた。
 現れた二人の若者は、何処か不思議そうな顔を浮べ周りを見渡した。次にそれぞれが自身の腕や足をさする、それはまるで自分の存在を確かめている様にも見える。気が済んだのか、二人とも手や首をポキポキっと鳴らし片や足をゆっくりと動かし始めた。
「おい、こいつらは誰なんだ?」
 ロニーがあげた声にどこからか応えが返る。
「聞かれて答える立場でもないんですけどね、別に居ですけど。まぁ、一言で言うならば、彼らがこの国の未来とも言える存在ですよ」
「殺人マシーンってわけか?」
「勘違いしないでくださいよ、私を含めたシェフィールド家は人殺しを望むような変態ではありませんよ、でも平和を願うだけの馬鹿とは違うとだけは言っておきましょう」
「願うことが悪なのか?」
「いえ、別に。ただ願うだけで永遠に今の幸せが続くと思っている無知蒙昧な輩と違い、私達は今そこにある危機に対して真摯に向き合っているという事ですよ」
「力なきものを見捨ててもか?」
「それはしょうがないのいでは?どんな美麗字句をあげつらってもこの世界は弱肉強食、貴方はこの世界のすべての人が等しく幸福な世界を想像できますか?」
「……」
 黙り込むロニーをよそ目にイルシオニスタが声をあげた。
「馬鹿なことを。あなた方の想像する危機というものがどういう物か知りませんが、その危機の為に私達(一桁騎士団)が居るのです。やらかしたことの言い訳としては稚拙としか言えないですね」
「ふふふっ、あーはっはっはっ」
 不気味に響き渡るクラウディオの笑い声、その笑い声には無知に対する侮蔑のニュアンスを含んでいた。
「なにが可笑しい!」
 イルシオニスタの怒りが空間に伝播するがクラウディオが意に介すことは無い。
「何を言うかと思えば、一桁騎士団?笑わせますね。一世代前の騎士団がそこの男一人に壊滅状態にさせられた位の力で良く言えますよ」
「!」「!」「!」「!」「!」「!」
 衝撃の台詞に、マクシミリアンとイルシオニスタ、そして囚われている生徒達のすべては言葉を失う。
「……」
 全ての視線がロニーに集まるも彼の表情に変化はない。
「彼が喋らないというなら、これ以上は無粋というもの、それに彼らの準備も整ったようですので二回戦目と行きましょうか」
 煙から現れた若者二人は不気味にロニーたちを見つめていた。
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