【怖い話】怪面堂書店

面堂 奈乃

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一ノ巻『穢れ祓いの仮面』

第一章 雪の降る日に

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ーこれは私が新婚旅行で南西の国へ行き、とある民族の仮面を巻き込んで起きた恐ろしく、今なお忘れられない摩訶不思議な出来事である。ー






『穢れ払いの仮面』









-あれは、少し前の冬のこと。

 その日は白くて重々しい雪が降り積る、冬の季節さながらといった感じの降雪日和だった。

 夫と付き合い始めて3年。先月私たちは晴れて夫婦となった。私はもともと保育士として保育園に勤務していたが、結婚してからは仕事をやめて専業主婦に。夫は北海道のIT企業に勤めているため、私たちは今現在北海道で暮らしている。夫は忙しく働いているにも関わらず、家事も手伝ってくれる優しい理想的な男性だ。

 この時、私は自分自身でもそのことを認識できるほど幸せの絶頂にあった。

 しかしながら北海道の冬は雪を知らない九州育ちの私にとっては、なかなか厳しいものだ。確かに夫とスキーやスノーボード等のウィンタースポーツを楽しんだり、雪を用いた美しいイルミネーションや雪像を見るのは新鮮かつ楽しいことであるが普段の日常生活を送る上では、寒くて不便と言わざるを得ない。

 「夏美」という私の名前の通り、夏以外は基本的に生きた心地がしない。今日も朝の珈琲を飲みながら雪の降り積もる窓の外の往来に目をむけ、心のどこかで遠い夏を追い求めていた。

 そんな何ら変わり映えのないある日、夫が私にある提案をしてきた。

「なあ、僕たちって結婚してから色々忙しくてどこにも行けてなかっただろ?ボーナスも入ったことだしさ、新婚旅行も兼ねて年末にどこか旅行にでも行かないか?」

「いいねいいね!大賛成!!!」
 
 私は即答した。『何気ない日常』というものは素敵なようでいて、それを感じられるのは必然的に自身が辛い境遇に陥っているときに限るのだ。そしてそれ以外の場合は決まって変化を求める。それが人間という生き物の本質なのかもしれない。

「んじゃ、どこに行こうか?」

「うーん、そうねぇ…沖縄とかどう!」

 私は明確にどこに行きたいという考えがあるわけでもなかったため、国内で暖かそうなイメージがあり、尚且つ観光地として人気のある沖縄を提案してみた。

「なあ、知ってるか。俺たちが住んでるのは北半球だ。じゃあ、南半球の今の季節はというと…そう!北半球とは反対、つまり夏ってこと!一生に一度の新婚旅行なわけだしさ、国内のありきたりな観光地じゃなくて、記念に海外旅行に行ってみないか?ここの一面雪景色の世界にも飽き飽きしてきただろ?心から楽しもうよ!」

 私は金銭的な面や現地でのことなど少々不安もあったが、夫の言う「一生に一度」という言葉に惹かれて賛成することにした。日常から離れ、暖かい場所で思いっきり旅行を楽しみたいという思いが溢れていたのも事実であったからだ。

「それじゃあ南半球のA国にしようよ!私一生に一度で良いから行ってみたいと思ってたんだ~!現地の美味しい料理、綺麗な海、そして有名な観光スポット!私の好きなものが詰まった憧れの国!」

 少し考えてから私がそう提案すると夫は、すぐに賛同してくれた。

「ははは、それは最高だね!僕も一度行ってみたいと思ってたんだ。それじゃあ…お、丁度来週の土曜日から行われるA国観光ツアーがまだ予約が取れそうだ!それで良いかな?」

「そうだね。私たちだけで行くよりもガイドさんたちがいてくれた方が何かトラブルが起きた時も安心だもんね。」

 こうして私たちの新婚旅行先はA国にあっさりと決まった。

 私たちが予約したツアーは3泊5日でA国最大の都市であるB市を中心に観光するというプランだ。その内容をおおまかに説明すると、まず1日目の昼に札幌から東京へ飛行機で移動する。そして東京からA国への10時間以上に及ぶ夜間フライトを経て、2日目の午前中にA国のB市へ到着。ホテル到着後はさっそく市内観光へと移る。3日目は日帰りツアーに参加し、温泉公園や世界遺産にも登録されているという洞窟などを巡る。4日目は終日B市内を観光。B市には世界的に有名な植物園や博物館、息を呑むような美しい夜景を味わうことのできる観光ツリー等があるため時間を余すことなく楽しめるだろう。最終日である5日目は朝方にA国のB市を出発し、その日の夜に東京経由で北海道の我が家へ帰宅、といった具合だ。だから3泊5日といえど、実質的に観光を楽しめるのは2日と半日しかないのだ。

 抑えきれないワクワクとドキドキを胸に私たちは今か今かと出発の日を待ち焦がれていた。



 そして待つこと一週間、遂に旅立ちの日がやってきた。




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