山櫻学園

英歩

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その筋の人

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「……は?」


「だからサァ、お前、目障りだっつってんの。井森のこと、お前悪りぃとか思ってねーの?」

「しれっとした顔しやがって、ムカつくわ」

「てかなんでお前桜川先輩と同室なわけ?どんな手使って取り入ったんだよ編入のくせに」


うわー、、、ど、どうしよう。
これか。緑原先輩が言ってた春樹先輩と同室になって色々言われるかもっていうのは……

僕よりずっと背が高い3人の生徒に突然囲まれて、押されるように校舎の裏手に連れてこられてしまった。
ありがちすぎる……


あれから双子の雪村たちとは嬉しいことに仲良くなって、特に同じクラスの英太郎とはほとんど一緒に行動していた。緑原先輩たちが言ってたボディーガードがなんとかって話も、高校で初めてできた友達に浮かれて正直忘れてた。
今日は英太郎が珍しく風邪で休んでいて、僕に絡むきっかけを待ってた彼らがその隙をついてきたってことなんだろう。


「双子とつるんでるらしーじゃん?今日はぼっちみたいだけど?」

「井森の件、どうやって責任逃れしたのか俺たちに教えてくんねーかなぁ」


どうしよう……3人に囲まれると、さすがに逃げ道がない。
ここまで真っ向から悪意をぶつけられたこともない自分は、言い返す言葉で煽ってしまいそうでそれも怖い。
でも、僕だって何もしてないのにいちゃもんつけられて呼び出されて変に目立って、酷くないか?
それが、春樹先輩と同室ってだけで?
それだけのことで、そんなに人のこと嫌えたり、悪く言えたりするもんなの?どうなってんの自分らの頭?
そんな思いが頭をぐるぐるして、
気がつくと、震えながらも口に出していた。

「あの、それ、なんで僕が悪いとか思わなきゃいけないんですか?
責任逃れも何も、井森って人のことは、何もなかったって証明してくれる第三者がいたから僕は何も処罰されてないんです。
春樹先輩が同室なのは最初から決まってたことで、僕にはどうしようもないし」


わかってたけど、はいそうですかとはもちろんならず、僕の言葉に3人が一気に食ってかかってきた。


「はぁ?!やっぱこいつ一回締めないとわかんねーみてぇだな!」

「こいつ!!桜川先輩のこと、春樹先輩とか言いやがった!」

「態度もその目も調子に乗ってんじゃねーぞ!」


か、完全に八つ当たりじゃないか!ただの!


「何が悪いんですか?!じゃあ、あんたらもそう呼べば良いだろ!」


「震えてるくせに偉そーな口聞きやがって!」

「二度とそんなこと言えなくしてやる!」


しまった、火に油を注いでしまった。
ああ、大人しく謝って逃げてりゃ良かった。

僕は与えられるであろう衝撃に耐えられるようにギュッと目を閉じて歯を食いしばり、顔の前に手をかざすくらいしかできなかった。

が、いつまで経っても衝撃は来ない。


……?


不思議に思ってビビりながらも目を開けると……


いつの間に現れたんだろう。
ニコニコと満面に笑みをたたえた眼鏡の耕助先輩が顔面蒼白の3人と向かい合い、1人は拳を掴まれていた。


「騒がしいから様子を見に来たら。君ら、何してるの?」

「な、んだよてめぇっっ!!」


拳を掴まれている1人がもがいて体勢を変えようとした。でもうまく動けないみたいで


「ばかよせ!!そいつ、2年の栗原だぞ!
加門に喧嘩売るな!」

「っっ?!!こいつが!?」


「んふふ、俺のこと知ってんの?」


耕助先輩はふわりと、不敵な笑みを浮かべて首を傾けた。黒いくせ毛が揺れて、耕助先輩の眼鏡ごと、瞳を半分ほど隠す。


「……んじゃ?わかってるよな?
これ以上何かしたら、どうなるか?」


「「……!!!!」」

「ひ、ヒィッ!!!」


人が息を呑む音を初めて聞いた気がする。
口をぱくぱくさせて後ずさっていく彼らに、耕助先輩は柔らかい声で言った。


「おーいお前ら、もうこいつに近づくなよ。
仲間にも言っとけ。栗原がミテルゾ。ってな」


そして口元だけで、ゾッとするような笑みを浮かべてみせた耕助先輩には、前に会った時の温かさが全然なかった。
鋭い氷のような、、いやもっとなんだか背中から冷えるというか、、表すとしたら、、死神、、みたいな?


「うわぁっっ、、、!!!」


彼らは気持ちいいほど一目散に逃げて行った。。。
なんだそれそんなことある?え?漫画なの?

ぽかんとしつつも、僕は自分が何もされなかったことに心底安堵した…いや痛いの嫌だもん、ほんと暴力反対!
そして先輩にとにかくお礼を……


「こ、耕助先輩、ありがとうござい、ました」


冷たい空気が残ってるのが不安で慌てて言うと、
前髪を片手でかきあげた先輩が、僕を見てふっと笑った。眼鏡の奥が優しい。
あ、知ってる顔。


「玲人、お前すげーじゃん。見直したわ。
自分より体格いい連中相手に正論言って立ち向かうとか怖かったろ?」


カッコよかったぞ、と言って頭をくしゃくしゃ撫でられた。

そうされると体の力が一気に抜けて、手の震えが止まらなくなった。もし先輩が来なかったら、きっと僕はボコボコにされてただろう。
だけど、一回は思ったことを主張しないと気が済まなかった。
進学校だし、平和主義な僕は相手もわかってくれることをどこか期待してた。

そんなバカな強がりを、耕助先輩は肯定してくれて。


そして、そのまま大きな掌に、僕の頭は引き寄せられて、気がつくと先輩の胸に頭がポスッと埋もれていた。


「……もう大丈夫だから。お前に危害が及ぶことはさせないから、安心しろ。
俺も春樹も、英太郎も祐太郎もついてる」


「……」


胸がいっぱいになって、苦しくて。何か口にすると、泣いたりとか抱きついたりとか、なんだか恥ずかしいことをしてしまいそうで。
僕は震える手で、先輩のブレザーの裾を少しだけ掴んだ。

何も言わない僕の頭をゆっくり撫でながら、耕助先輩は僕の震えが収まるまで、何も言わずにずっと一緒にいてくれた。



そんなことがあった日から、それからも、やはり度々、僕は呼び出しを受けたり、突然空き教室に引きずり込まれたりした。

でも不思議なことに、その度にどこからともなく耕助先輩がひょっこりと現れて。

相手に笑顔を見せた途端、僕に危害を加えようとした連中は大体逃げ去ったのだった。


……一体どういうことだ?


そしてそんなに皆に怯えられる彼は、一体何者なんだろう。
そしてそんな風に見られる耕助先輩は、……孤独ではないのだろうか、と。ふと気になった。
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