【R18】定時過ぎたら下克上!〜イケメン新入社員はバリキャリ女子を溺愛したい〜

染野

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19.バラ風呂とおにぎりと①

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 立岡が明希の手を引いてやってきたのは、駅から少し離れたところにある三階建てのアパートだった。
 階段を上り、廊下を進んでいくと、立岡はその先のドアの前で立ち止まる。そして鞄から革のキーケースを取り出すと、慣れた手つきでドアの鍵を開けた。

「どうぞ、入ってください。コートは預かります」

 明希は言われるがまま、狭い玄関でパンプスとスプリングコートを脱いで、恐る恐るその部屋に足を踏み入れる。板張りの床がぎしりと鳴った。

「狭い部屋ですみません。あ、そこに座ってください。今、お茶淹れますから」
「え、あ……うん」

 ここに辿り着くまで、立岡も明希も一言も発さなかった。ただ立岡に手を引かれるまま付いてきた明希だが、ここが立岡の暮らすアパートだということくらいは分かる。でも、なぜ彼が明希を連れてここに来たのかは分からない。
 「分からない」というよりは、「分かりたくない」と言った方が正しいかもしれないけれど。

「すみません、散らかってて。先輩が来るって分かってたら、ちゃんと掃除しておいたんですけど……」
「え? あ、ううん、気にしないで」

 強引に明希をここまで連れてきたというのに、立岡はいつもと同じ調子で話しかけてくる。それにつられて明希も思わずいつも通りの返答をしてしまった。なんだか、家庭訪問にでも来たみたいだ。
 立岡がキッチンでお茶を淹れている間、明希は置かれていた座布団の上に座ってきょろきょろと部屋の中を見渡した。1Kの部屋は確かに広いとは言い難いけれど、しっかりと整理整頓されている。明希の住んでいる部屋の方がここよりもずっと広いが、洗濯物やら雑誌やらが常に散乱している状態だ。

「はい、どうぞ。熱いので気をつけてくださいね」
「あ、ありがとう……」

 少しして、キッチンから戻ってきた立岡が明希の前に熱々の緑茶が入った湯呑み茶碗を置いてくれる。それと一緒に、菓子受けに入れられたかりんとうも。

「……おばあちゃん家みたい」
「えっ!? あっ、す、すみません! 僕の家、こんなものしかなくて……! ま、待っててください、今何か別のもの買ってきます!」
「あっ、ご、ごめん! 違うの! 悪い意味で言ったんじゃなくて、懐かしいなあって思っただけだから!」
「そ……そう、ですか……?」

 ありがとう、と小さく礼を言って湯呑みを手に取る。ふうふうと息を吹きかけて少し冷ましてから、明希はごくりとそれを飲み込んだ。

「あったかい……」
「ふふっ、よかった。外、結構寒かったですしね。あ、僕お風呂沸かしてくるのでちょっと待っててください」

 そう言うと、立岡は明希を残して部屋を出て行ってしまった。一人残された明希は、湯呑みを手に立岡の去って行った方をじっと見つめる。風呂の準備をしているのだろう、シャワーの水音が聞こえてくる。

「……なんでこんなことになってるんだっけ?」
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