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ハカセのXXX

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 人間誰だって、1つや2つやそれ以上、秘密があるものだ。
 恋人が居るのに別の誰かと付き合ってるとか。へそくりと呼べないぐらいの隠れ貯金があるとか。大っぴらに出来ない悪いことをしているとか。
 俺もその中の1人なんだけど、まぁこれがなかなかに辛い。所謂、他人に言えない恋心とか性癖ってヤツなんだけど。これが何と3つもある。

 ——それ全部が目の前にぶら下がってたら、ついつい手を出しちゃうに決まってるだろ?


 *


「……大丈夫、ハカセ?」
「あ、ああ……」

 時刻はええと、多分日付変更間際。真夜中の住宅街を俺とハカセは歩いていた。
 ハカセってのはニックネームで、本名は高花タカハナ博士ヒロシという。でも眼鏡かけてて生真面目で勉強熱心だから、自己紹介して3秒後にはハカセと呼ばれていた。ちなみに花についてはあまり詳しくないそうだ。
 俺らは大学2年生というある意味人生で一番楽しい日々を生きていた。ハカセは真面目に大学の講義に出て勉学に励み、俺は適当に講義に出て単位を取る。目指す所は違えども同じ道を歩いている、みたいな関係だ(ハカセに言ったら間違い無く怒られるか呆れられるだろうが)。
 何でもかんでも楽観的で楽しければOKな俺と違って、ハカセは几帳面で神経質でどこまでも誠実だった。高校までなら間違い無く別のグループに居ただろうが、大学入学直後のオリエンテーションで席が隣だった時に一目見てビビッと来た。一目惚れってやつだ。
 彼は堅物で、どちらかと言うと低ランクなウチの大学では珍しいタイプなんだが、話してみるとそこそこ冗談も言うし不思議と自然体でいられた。今じゃもう十年来の友人のようにくっついている。俺からしてみれば、だが、ハカセもそこまで険悪な態度は取ってないし、まぁ同じように思ってくれていると信じたい。
 欲を言えばもうちょっと深く踏み込みたいところではあるんだけど……それにはちょっと勇気が要る。俺だって無鉄砲に突っ込んで玉砕はしたくはない。
 その意味では、今夜はなかなか良い勝負が出来るんじゃないか。そんな予感がしていた。

「……っ、く……」
「頑張れ、もうちょっとだから」

 俺の肩に腕を回したハカセは苦しげに息を漏らし、空いた手で腹の辺りを摩っている。
 ウチの学校は3年からゼミが始まるんだが、2年の内に予備生という扱いでゼミを見学したり、先輩に混ざって予習したりする制度がある。任意参加だし途中でゼミを変えてもいい、仮入部みたいなものだ。
 俺とハカセは同じゼミに入ると決めていて、今日は楽しい楽しいプレ新歓だった。気が早過ぎるとは思うが、「先輩の奢りだよ!」と言われたら断る訳が無い。
「僕は行かない」と言い張るハカセを半ば無理矢理引き摺って居酒屋に入り、気安い先輩方とどんちゃん騒ぎをして、さぁ二次会に行こうか、というところで横を見たらハカセが真っ青な顔で潰れかかっていた。
 何でもまともに酒を飲んだのは初めてだったらしい。そもそもハカセはこういう場が苦手らしく呼んでもなかなか来ないし、俺や俺の友人と飲み食いする時は皆好き勝手に注文していて、まぁハカセは酒が苦手なんだな、ぐらいにしか認識していなかった。
 でも先輩の前じゃ……そりゃ飲まされるよな。融通が効きづらいハカセが無理に断らなかっただけ偉いと言えるだろう。だがその代償は結構でかかったようだ。

「……うっ……ごめ……」
「ハカセっ」

 苦しげに呻いたハカセが俺からよろよろと離れて行き、電信柱の横にしゃがみ込んだかと思うと嫌な声というか、音がした。
 ビシャビシャと重い水音が続き、慌ててそちらに近付く。クールだイケメンだと女達がはしゃぐ横顔は今は歪み、細く短い息を吐く口元には吐瀉物が付いていた。

「……いけない……こんな、所で…………うぶっ……」
「あー、よくある話だから大丈夫だって。全部出しちゃいな。水かけときゃへーきへーき」

 ハカセは箱入り息子だったのか、ちょっとだけ一般常識に疎い。少なくともお坊っちゃまなのは確かで、今まで学校は車で送り迎えされてたらしいから道端の嘔吐物とかも見たことが無いのだろう。
 軽い口調で言いながら、胃の中の物をアスファルトに吐き出す作業を続けている彼の背中をゆっくり摩ってやる。こういう時は我慢しちゃ駄目だ。吐けばその分酒に強くなる。お陰で俺は大分かっくらったけどピンピンしている。
 饐えた匂いが広がってちょっと危険な気持ちにはなるが、やがてハカセが静かになると先に買っておいたペットボトルの水を差し出した。数口飲んだ後、地面に流して痕跡を薄める。
 立ち上がった彼はまだふらついていたが、多少はマシになったようだ。

「……大丈夫そう?」
「ああ、すまない……」
「んじゃ行こうか」

 そう、俺はこんな状況でも全く気落ちしていない。それどころか心踊っていた。
 電車で大学に通っているハカセと違って、俺は徒歩通学だ。家から歩いて行けるからという理由だけで大学を選んだ甲斐があった。「もう終電無いっすね、あ、俺がこいつの面倒見るんで先輩らはこの後も楽しんでください、今日はごちそうさまでした、また誘ってくださいね!」という一連のフレーズは、大学生におけるマナー講座があったらまるでお手本になるぐらいスムーズに繰り出せた。
 即ち。お持ち帰りというヤツである。
 ……ああ分かるよ。男子大学生が男子大学生をお持ち帰りしてどーすんだってさ。その点は問題無い。

 なんせ俺は、ゲイだ。

 これが俺の秘密その1。これを知ってるのは世の中でただ1人だけである、そいつが言いふらしていなければ、だが。
 そう、一目惚れってのは言葉の綾でも冗談でも無く、マジなのだ。

 俺はハカセが好きだ。

 これが秘密その2。容姿も性格も、何もかもが好みだった。彼をオカズに何回抜いたか数知れない。正直お付き合いしたいし、夜のお突き合いだってしたい。
 でもそれが簡単じゃないってことも分かってる。腐女子だかBLだかならいざ知らず、リアルホモは軽蔑か嫌悪の対象と相場が決まっているのだ。ましてや相手はノンケ、告白する気はさらさら無い。
 ただ一番の友人として傍に居て、その姿を見ていたい。出来ることなら誰にも見せない顔を見て、ちょっと頼られたりしてみたい。
 その欲を今夜は見事に叶えてくれていた。俺に身体を預けるハカセは酔っている所為もあってかいつものビシッとした安定感が無く、俺が支えていないと崩れ落ちてしまいそうだった。吐きはしたが本調子ではないのだろう、チラリとみたその顔はまだどこか苦しげだった。
 ……やばい、興奮する。
 このまま組み敷いたら、告白したら、XXXしたらどうなるんだろうと、邪な妄想が首を擡げる。
 だが駄目だ。そんなことしたら今までの関係がぶち壊しになるし、何ならまだ外だし、猥褻物ナントカ罪でお縄になる可能性だってある。

「ほら、見えてきたぞー」

 せめてウチに着いてから、と思っている内に、2階建ての安アパートに着いた。大学生の1人暮らしには丁度良い家賃と設備の家だ。
 だがその外階段を昇る前、不穏な音が耳に飛び込んで来た。キュルルル……と何かが唸るような軋むような音は、俺の隣からした。
 深夜ということもあり鉄製の階段を昇る足音に気を付けていれば、ギュルルル、グルルル、と音が続いているのが分かる。
 ちらりとハカセの顔を伺うと、廊下の明かりの下、完全に血の気の引いていた。

「……ハカセ、もしかして……」
「頼む、早く……っ」

 ハカセは俺から腕を離すと自分の腹を抱えるように背中を丸める。ドクン、と俺の心臓は大きく脈打った。
 間違い無い、彼は腹痛に襲われているのだ。それもただ痛いのではなく、下っているらしい。
 確かに酒を飲み過ぎると腹を壊す時もあるが、繕うことさえ出来ずにいるハカセの姿に俺は完全に固まっていた。
 白状しよう。俺の秘密、もう1つ。

 排泄してるところを見るのが好きだ。

 大も小も普通に出してるだけで結構クる。出さないようにと必死に我慢してるところはそれだけでヌける。我慢しきれなかった姿なんて文字通り昇天しそうになる。
 ド変態にも程があるというお叱りは甘んじて受けよう。だが性癖なんだからしょうがない。それに当然ながら、他人にそのような行為を強いたことは無い。欲求を果たすのはトイレの小で並んだ時のチラ見とAVだけだ。
 しかし。しかし、である。
 幸運の女神とは本当に居て、しかも俺は知らない内にその前髪を毟り取る勢いで掴んでいたようだ。
 目の前で好きな人が腹痛に身悶えている。今にも漏らしそうなのだろう、次第に大きくなる蠕動音をバックに落ち着き無く足踏みなどしている。
 こんな光景を前にして、少しだけ魔が差すのは、許して欲しい。

「ご、ごめん、すぐ開けるから……!」

 鞄を開けて家の鍵を探すフリをする。本当はすぐ手前に見えているのだが、わざとらしく中でゴソゴソとやっていた。「あれ? おっかしーなー、何処行った……?」なんて呟きながらの名演はアカデミー賞ものだろう。
 その間にもハカセの限界は近付いているのだろう。グギュルルル、と如何にもな音を立て始めた腹を抱えたまま歯を食いしばっている。俺の演技には全く気付いていないようだ。急かさないのは焦らせてもしょうがないと分かっている育ちの良さ故だろう。
 だが暫くそうしていると、幾度目かの蠕動音の後、ブジュウ、と濁った音が聞こえた。
 はっと顔を上げるとハカセは俯いたまま目を見開き、カタカタと歯を鳴らして震えている。
 流石に意地悪し過ぎたと察した俺は鍵を取り出すと玄関の扉を大きく開いた。

「行って! すぐ右手のドア!」
「すま、ない……」

 もう素早く動くことも出来ないのだろう、やや内股で壁に手を着きながら家に入ったハカセは、よろよろとユニットバスルームに向かった。
 俺は玄関の扉を閉め、鍵を掛け、チェーンロックまで掛ける。そうして正面のカーテンが閉まっていることを確認してから——彼の入って行ったドアの前にしゃがむと、耳を近付けた。
 分かってる、本当はこんなこと良く無い。だが駄目なのだ、この身が言うことをきかない。右手なんてもう股間に伸びている。
 中からゴソゴソと衣擦れの音がする間も、ブプッ、ブピッと断続的な破裂音と、ハカセの苦痛とも開放感とも取れない吐息が聞こえて来る。ガスだけにしては水っぽい音だ、漏らしてしまっているのかもしれない。
 それから後は、酷いものだった。

 ブビビビビッッブバーァッ!!
 ブチチチッブリリリリッボトトトトッ!
「……ぁ……ぅ、んん……っ!」
 ブリッ、ブリュリュリュリュブビビビビッ!

 相当我慢していたのだろう、ガス混じりの排泄音は扉越しにもはっきり聞こえて来る。
 合間には喘ぐようなハカセの呼吸音も混じっていて、俺は股間を扱きながら眼を閉じて中の光景を想像する。
 小さな洗面台と足を曲げてようやく入れる湯船の間にある便器にハカセが座っている。恐らく前傾姿勢で腹を抱えているのだろう。足の間に下ろした汚れた下着を見ているのかもしれない。
 その白い尻からけたたましい音を立てながら次から次へと汚泥が落ちて行く。白かった陶器はすぐに茶色で埋まってしまう。本当はハカセだって恥ずかしいだろう。友人の家で大なんて出来るだけ避けたいのが人心だ。しかも見るからに安く薄い壁では防音に期待出来ない。だが暴飲暴食の所為か、最初の勢いは衰えたにせよ排泄は止まらない。

 ビチャビチャビチャ……ブビッ!
 ブリュッ、ムリュリュリュ……ビチチッ……
 プスー……ムチッ、ムチッ……ドサドサドサッ!

 便秘でもしていたのだろうか、下痢が一息吐いた頃、重い音が幾つも続く。
 これでは気分が悪くなるのも当然だろう。吐息も力むような、張り詰めたものが断続的に繰り返される。
 そこで便器がいっぱいになったのか、一旦水を流す音がした。本当にちゃんと全部流れたのか、音からでは不安になる。事実、ウチのトイレは水流がイマイチ悪く、大をした時ちょっぴり"お残し"する場合があるのだ。
 だがそもそも今回の場合、まだ終わっていなかった。

「んん……っ、ぅぁ、ふ、ん……っ!」
 ブチュ、ブリュリュリュリュ!
 ブビィ……ビチビチビチ……ビチャッ!

 再び音は水っぽくなり、先程の塊が栓をしていたのだと想像する。
 後は緩急を付けながら汚泥が便器を叩く音がして、ようやく終わりが近付いているようだった。
 カラカラとトイレットペーパーを巻き取る音がする。これだけの量をあんな勢いで出していたら、きっと尻孔は酷く痛んでいるだろうし、捲れ上がってしまっているかもしれない。そもそも跳ね上がった分も含めてべったりと汚れてしまっているのだろうし、ウォシュレットなんて物はウチに無い。ペーパーを取る音は何度も聞こえた。
 完全に排泄音が消え、身支度をしているらしい衣擦れが聞こえてくると俺は眼を開けドアの横を退いた。服の中、具体的に言うと股間にぐっちょりと濡れた感覚がある。ズボンが厚手の所為で染みてはいないが、数回イってしまっていた。

 最高だった。
 目の前で見れなかったのが唯一の難点だが、音だけというのも想像力が掻き立てられていいものだ、寧ろ視覚が遮断される分集中されるのかもしれない、なんて賢者モードらしく哲学者のようにこの状況を振り返ってみたりもする。録音しておけば良かった、と後悔するも流石にそれは彼に悪いとすぐさま否定した。俺は紳士なのである。
 さて、この下半身をどうにかしたいがこの部屋はワンルームであり、仕切りとなるような扉は無い。ハカセが出て来たらパンツを替える俺を目の当たりにすることになる。本来男同士なのだから気にすることも無いのだが、白いモノで汚れたパンツというのは駄目なやつだ。俺には良い言い訳が思い付かない。どう考えても避けるべきだ。
 とりあえず新しいパンツをその辺の山(洗濯済み)から掴むとポケットに入れた。後は彼と入れ替わりでバスルームに入って着替えればいい。

 ……だがどうしたことだろう。ハカセはなかなか出て来ない。
 汚れた下着を洗っているのかと一瞬思ったが水音は聞こえない。動いてはいるようだが音だけでははっきりとは分からなかった。
 最悪のケースは、中で意識を失っている状況。幾ら楽観的な俺でも急性アル中がヤバいことは知っている。トイレ中は血圧だか何だかが上がるっていうし、立ち上がろうとしてそのままぶっ倒れて、とか洒落にならない。
 散々迷った後で小さくノックすると、珍しく戸惑ったような声で返事があった。手を洗っているらしい水音がした後、ドアが細く開く。

「大丈夫か?」
「……すまない……その、本当に、申し訳無い……」

 途端にむあっとした悪臭が広がる。換気扇はいつも付けっ放しだが追い付かないのだろう。だが俺にとってはご褒美だ。
 肩を落としたハカセの顔は上気し、心なしかこの短時間でやつれたようだ。眼鏡の奥の双眸は何だか潤んでいる。形の良い眉は寄せられ眉間に皺が寄っているが、不安と戸惑いと恐縮を露わにしたこんな表情は見た事が無い。おまけに一向にドアの外に出て来ようとしない。恥ずかしいのだろうか。

「謝んなくていいって。腹痛かったんだろ?」
「そ、その……汚して、しまったんだ……洗っていいものか、分からなくて……」

 俺は気にするなと笑い飛ばそうとしたが、ハカセは震えた声で続ける。
 恐る恐るドアが開かれ、彼が隅っこに寄ると何故そんな反応を取っているかが分かった。
 俺は温度調節機能のある便座を買う金は無かったが、座った時に尻が冷たいのが嫌で便座カバーを付けていた。その後方、3分の1程にべったりと茶色のシミが付いている。更に便座の前には足拭き用のマットも置いていて、こちらにも転々とシミが落ちていた。
 ……ん? だがちょっと待って欲しい。
 床のマットは服を下ろす時に漏らしてしまったのだろう。だが便座の方は、腰を上げていなければあんな風には汚れない。跳ね返りではなく、まるで斜め上からぶちまけられたかのように……
 ぶちまけたのか。腰を下ろそうとして、その途中で尻が緩み、迸ってしまった。よくよく見れば便器のタンクや後方の床はやけに綺麗だ。ズボラな俺がこんな風に掃除する訳がない。つまり汚した後、自分で拭ける所は拭いたが、布に染み付いた分はどうしようもなかったと。俺、名探偵かな?

「あーいいよ、買い換えるから。どうせ百均のだし」
「……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「だからそんなに謝んなくていいって。それよりハカセは大丈夫か? その、着替えとか必要だったら……」
「……っ! ぁ、あ、あ……!」

 様子がおかしいと、もっと早くに気付くべきだった。
 ハカセはユニットバスの隅に立ち、身を縮こませながら小さく震えていた。後から思えば尋常ではない脅えようだったのだが、その時の俺はさっさと着替えたいのもあったし、単純にハカセが落ち込んでいるとだけ思っていた。
 だがその肩にポンと手を置いた瞬間、ハカセの双眸からぽろぽろと涙が零れ落ちる。俺が呆気に取られる前で、短い声と共にショロショロと小さな音がした。
 俺が混乱し動けないでいる数秒の内に、ハカセの足元に小さな水溜まりが出来ていた。
 俺は彼の濡れた股間やズボンと、呆然としたまま涙を落とし続けるその顔を見ながら、また息子が起き上がる気配に頭を抱えていた。


 *


 シャワーを浴び、俺の部屋着を着たハカセはようやく眠りに着いたようだ。
 小便まで漏らして壊れてしまったのか、その顔にいつもの聡明さはまるで無く、無理矢理シャワー浴びろ、これ着ろ、ちゃんと頭乾かせと面倒を焼いた俺の言う事に臆したように従っていた。俺とハカセの体格が似ていて良かった。実際は身長は同じぐらいで、ハカセの方が細いのだが。
 ちなみに俺はハカセがシャワーを浴びている間に無事着替えた。今度は事前にきちんとティッシュにヌいたから問題は無い。
 その後ハカセは床で寝ると言い張って聞かなかったから、「じゃあ俺も床で寝る」と対抗したら渋々ベッドに横たわった。それから1時間程、声を殺して泣いていたようだが今は静かに寝息を立てている。
 まぁ無理も無い。友人の家で下痢して、トイレ汚して、目の前で漏らしたんだから。
 だがどうにも様子がおかしかった。連れて来るまでは据え膳だと喜んでいたのだが、今では最早そんな気はしない。
 眠るハカセの横顔はいつものように、いや、いつにも増して綺麗だ。でもさっき落ちた涙が忘れられない。
 あれは彼の秘密の一端なのだろうか。そう思うととても愛おしくて、とても痛々しかった。綺麗だからと欲しくなった薔薇に不用意に手を伸ばしたら、茎に棘があった上に、毛虫まで乗って来たような感覚。俺ったら詩人だね。
 ……そう茶化さなければ、やっていけないぐらい。俺はハカセに触れるべきではないと思いつつ、惹かれていた。

 ——手を出した代価が、重くても。
 諦める気は無いとその頬に軽く口付けをして、俺は座布団を並べただけの床に寝転がった。
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