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会議は踊る
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テストの時期も終わると、学校では文化祭に向けてお祭りムードが高まってきていた。
だが、一年二組では重苦しい空気が流れていた。
「えー、皆さん、文化祭の出し物について話し合って三日目ですが、今日中に! 今日中に決まらないと我がクラスは出し物無し! 三年生の特進クラス同様に自由研究や絵や詩等の個展展示になります!」
壇上で熱弁をふるっているのは文化祭実行委員の小松 和也だった。
こうして放課後のホームルームでは毎回話し合いが行われていたが、意見がまとまらず未だに出し物が決まっていなかった。
他のクラスではすでに準備に取り掛かっている所もあり、かなりまずい状況だった。
「じゃあやりたい出し物がある人ー、挙手!」
『・・・・・・』
しかし、クラスの生徒は誰一人と手を挙げず、水を打ったように静まり返っていた。
もう一人の文化祭実行委員、小宮 里穂は黒板にチョークで皆からの意見を書こうとスタンバイするも、今日も一文字も書けずに終わりそうだなと諦めの表情を浮かべていた。
「分かりました。皆さんの気持ちはよーーーーく分かりました。一年二組の出し物は『個展』と書いて委員会に提出しよう。今日が締切なんだ、文化祭で良い思い出が作れなくても皆俺達を恨まないでくれよな」
和也が用紙に個展と書きなぐり、教室を出ようとした時、冬真が立ち上がった。
「本当にそれでいいのか?」
そして冬真は壇上に上がると教卓に手をつき、いつもの学級委員の様に仕切り始めた。
「本当に個展になって、誰も作品を出さないと困るだろ? 個展を本当にやりたい人は手を挙げて」
冬真がそう言って手を挙げる者は誰もいなかった。
「ふん、じゃあ、出し物をやりたいって事でいいんだな?」
冬真は黒板に文字を書いた。
これは冬真が中学の時からずっと学級委員をやってきたテクニックでもあった。
意見が出にくいクラスの場合はそれを逆手に取り、誰も手を挙げなさそうな選択肢から挙手させる。
そうすれば消去法で後者が必然と選ばれるという手法だった。
『飲食系、お化け屋敷系、劇』
「まず、良くある文化祭の出し物として大きくこの三つに分かれるだろう。他に思い付くのがあれば遠慮なく意見を述べてくれ」
トントンと黒板を叩きながら冬真は言った。
「他に無いようだな。次、多数決だ。飲食系をやりたい人手を挙げて」
そうして冬真は多数決を取り、票が一番多かったのは飲食系だった。
「おおお、あれだけ決まらなかったのに、ものの五分で飲食系に決まったぞ」
「氷室君、超カッコイイ・・・・・・」
和也と里穂は冬真の手腕に感動していた。
「さて、ここからが本題だ。飲食の何を売りたいか、だ」
飲食と言っても、かなりの幅広さがある。
ここが正念場だった。
「やりたいのがある人は居るか?」
「えー、なんだろう」
「迷うー」
クラスはざわつくばかりでこれといった意見が出ずにいた。
「はあ・・・・・・、これは何日も話が決まらないだけはあるな。なかなか手強いクラスだ」
流石の冬真も手こずっている様子を見て、陽太は冬真に目配せを送った。
陽太は隣の席のほのかの肩を叩いた。
「ねえ、月島さんは文化祭で何食べたい?」
陽太はニコニコと笑いながらほのかに問いかけた。
ほのかは食べたい物と聞かれて暫し瞳を閉じ、憧れの文化祭の食べ物を想像した。
【アイス】
【たこ焼き】
【お団子】
【焼きそば】・・・・・・
ほのかはまるで無尽蔵に湧き出る泉の様に食べたい物が思い付けた。
それはもうスケッチブックのページが足りなくなるくらいだった。
「おお、月島さん凄いな。食欲魔神みたいだな」
陽太はほのかには分からないようにこっそりとそう言った。
冬真はほのかの食べたい物を逐一黒板に書いていった。
そして、食べ物の種類が二十を超え、スケッチブックのページが足りなくなり、スペアのスケッチブックを取り出した時、ほのかはやっと黒板に自分がスケッチブックに書いた食べ物が書き連ねられている事に気が付いた。
ほのかはいたずらっ子の様に笑う陽太の顔と、笑いを堪えた様な微妙な顔をする冬真の顔を交互に見て、更には周りが笑っている様子にほのかは恥ずかしさが込み上げ、堪らずスケッチブックで顔を隠した。
「これだけあればこの中から選べばいいだろう。まあ、いくつかは予算的にと回転効率からこの辺とこの辺は削った方が良いだろう」
冬真はほのかが適当に出した食べ物の内、現実的に難しいと思われるステーキやらパフェやらすき焼きやらジンギスカンやらローストビーフ等を黒板から的確に消していった。
「はいはい、お団子とか良くない? 他のクラスでやってなさそう!」
「お団子なら色んな味出せそうだね」
いくつか絞り込み、やっと他の生徒から意見が出てきた。
「それなら、あんみつとかも一緒に出来そうじゃない?」
「飲み物はお茶とかラムネとかを出して茶屋って感じ良くない?」
冬真は出てきた意見を全て拾い上げ黒板に書いていった。
「なんかコスプレとかしたくない? 着物とか」
「普通の着物だけだとありがちじゃん」
「和物だし、妖怪とかは?」
「ふむ、妖怪茶屋ってところか・・・・・・」
冬真が皆の意見をまとめ、そう呟くとクラスから「おおー」と言う声が上がり、クラスの出し物は上手く回り始めた歯車の様に、あれよあれよと『もののけ茶屋』に決まってしまった。
「じゃ、ここからは文化祭実行委員に任せる」
冬真はバトンを渡す様に和也の肩を叩いて言った。
「ああ、ありがとう! 流石は学級委員、手馴れてるな。もういっその事俺の代わりに文化祭実行委員もやらないか?」
「それは断る」
冬真は一刀両断する様にそう言うと和也は残念そうな顔をした。
「まあ、学級委員として、出来るだけ手助けはするが・・・・・・」
冬真はちらとほのかと陽太を見た。
いつもだったら余裕で文化祭実行委員の仕事も掛け持ちしていたが、冬真は今年少し違っていた。
「他にもやる事があるからな」
そう言って冬真は壇上から下りた。
「月島さんのお陰でなんとか出し物が決まって良かったね」
陽太がほのかにそう言うと、ほのかはまだ恥ずかしそうにしていたが、【文化祭すごく楽しみ】と書いて笑った。
これから準備で忙しくなりそうだが、皆と沢山の楽しい思い出が作れたらいいなとほのかは文化祭に期待と夢を膨らませた。
だが、一年二組では重苦しい空気が流れていた。
「えー、皆さん、文化祭の出し物について話し合って三日目ですが、今日中に! 今日中に決まらないと我がクラスは出し物無し! 三年生の特進クラス同様に自由研究や絵や詩等の個展展示になります!」
壇上で熱弁をふるっているのは文化祭実行委員の小松 和也だった。
こうして放課後のホームルームでは毎回話し合いが行われていたが、意見がまとまらず未だに出し物が決まっていなかった。
他のクラスではすでに準備に取り掛かっている所もあり、かなりまずい状況だった。
「じゃあやりたい出し物がある人ー、挙手!」
『・・・・・・』
しかし、クラスの生徒は誰一人と手を挙げず、水を打ったように静まり返っていた。
もう一人の文化祭実行委員、小宮 里穂は黒板にチョークで皆からの意見を書こうとスタンバイするも、今日も一文字も書けずに終わりそうだなと諦めの表情を浮かべていた。
「分かりました。皆さんの気持ちはよーーーーく分かりました。一年二組の出し物は『個展』と書いて委員会に提出しよう。今日が締切なんだ、文化祭で良い思い出が作れなくても皆俺達を恨まないでくれよな」
和也が用紙に個展と書きなぐり、教室を出ようとした時、冬真が立ち上がった。
「本当にそれでいいのか?」
そして冬真は壇上に上がると教卓に手をつき、いつもの学級委員の様に仕切り始めた。
「本当に個展になって、誰も作品を出さないと困るだろ? 個展を本当にやりたい人は手を挙げて」
冬真がそう言って手を挙げる者は誰もいなかった。
「ふん、じゃあ、出し物をやりたいって事でいいんだな?」
冬真は黒板に文字を書いた。
これは冬真が中学の時からずっと学級委員をやってきたテクニックでもあった。
意見が出にくいクラスの場合はそれを逆手に取り、誰も手を挙げなさそうな選択肢から挙手させる。
そうすれば消去法で後者が必然と選ばれるという手法だった。
『飲食系、お化け屋敷系、劇』
「まず、良くある文化祭の出し物として大きくこの三つに分かれるだろう。他に思い付くのがあれば遠慮なく意見を述べてくれ」
トントンと黒板を叩きながら冬真は言った。
「他に無いようだな。次、多数決だ。飲食系をやりたい人手を挙げて」
そうして冬真は多数決を取り、票が一番多かったのは飲食系だった。
「おおお、あれだけ決まらなかったのに、ものの五分で飲食系に決まったぞ」
「氷室君、超カッコイイ・・・・・・」
和也と里穂は冬真の手腕に感動していた。
「さて、ここからが本題だ。飲食の何を売りたいか、だ」
飲食と言っても、かなりの幅広さがある。
ここが正念場だった。
「やりたいのがある人は居るか?」
「えー、なんだろう」
「迷うー」
クラスはざわつくばかりでこれといった意見が出ずにいた。
「はあ・・・・・・、これは何日も話が決まらないだけはあるな。なかなか手強いクラスだ」
流石の冬真も手こずっている様子を見て、陽太は冬真に目配せを送った。
陽太は隣の席のほのかの肩を叩いた。
「ねえ、月島さんは文化祭で何食べたい?」
陽太はニコニコと笑いながらほのかに問いかけた。
ほのかは食べたい物と聞かれて暫し瞳を閉じ、憧れの文化祭の食べ物を想像した。
【アイス】
【たこ焼き】
【お団子】
【焼きそば】・・・・・・
ほのかはまるで無尽蔵に湧き出る泉の様に食べたい物が思い付けた。
それはもうスケッチブックのページが足りなくなるくらいだった。
「おお、月島さん凄いな。食欲魔神みたいだな」
陽太はほのかには分からないようにこっそりとそう言った。
冬真はほのかの食べたい物を逐一黒板に書いていった。
そして、食べ物の種類が二十を超え、スケッチブックのページが足りなくなり、スペアのスケッチブックを取り出した時、ほのかはやっと黒板に自分がスケッチブックに書いた食べ物が書き連ねられている事に気が付いた。
ほのかはいたずらっ子の様に笑う陽太の顔と、笑いを堪えた様な微妙な顔をする冬真の顔を交互に見て、更には周りが笑っている様子にほのかは恥ずかしさが込み上げ、堪らずスケッチブックで顔を隠した。
「これだけあればこの中から選べばいいだろう。まあ、いくつかは予算的にと回転効率からこの辺とこの辺は削った方が良いだろう」
冬真はほのかが適当に出した食べ物の内、現実的に難しいと思われるステーキやらパフェやらすき焼きやらジンギスカンやらローストビーフ等を黒板から的確に消していった。
「はいはい、お団子とか良くない? 他のクラスでやってなさそう!」
「お団子なら色んな味出せそうだね」
いくつか絞り込み、やっと他の生徒から意見が出てきた。
「それなら、あんみつとかも一緒に出来そうじゃない?」
「飲み物はお茶とかラムネとかを出して茶屋って感じ良くない?」
冬真は出てきた意見を全て拾い上げ黒板に書いていった。
「なんかコスプレとかしたくない? 着物とか」
「普通の着物だけだとありがちじゃん」
「和物だし、妖怪とかは?」
「ふむ、妖怪茶屋ってところか・・・・・・」
冬真が皆の意見をまとめ、そう呟くとクラスから「おおー」と言う声が上がり、クラスの出し物は上手く回り始めた歯車の様に、あれよあれよと『もののけ茶屋』に決まってしまった。
「じゃ、ここからは文化祭実行委員に任せる」
冬真はバトンを渡す様に和也の肩を叩いて言った。
「ああ、ありがとう! 流石は学級委員、手馴れてるな。もういっその事俺の代わりに文化祭実行委員もやらないか?」
「それは断る」
冬真は一刀両断する様にそう言うと和也は残念そうな顔をした。
「まあ、学級委員として、出来るだけ手助けはするが・・・・・・」
冬真はちらとほのかと陽太を見た。
いつもだったら余裕で文化祭実行委員の仕事も掛け持ちしていたが、冬真は今年少し違っていた。
「他にもやる事があるからな」
そう言って冬真は壇上から下りた。
「月島さんのお陰でなんとか出し物が決まって良かったね」
陽太がほのかにそう言うと、ほのかはまだ恥ずかしそうにしていたが、【文化祭すごく楽しみ】と書いて笑った。
これから準備で忙しくなりそうだが、皆と沢山の楽しい思い出が作れたらいいなとほのかは文化祭に期待と夢を膨らませた。
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