5 / 23
シークエンス 005
しおりを挟む本部長と呼ばれた年配の男性が車を停め、ハンドルから手をはなす。
「到着だ。降りなさい」
え?
ここって、俺の、マンション?
さっきの交番から目と鼻の先・・・
俺は戸惑う。
まだ車に乗って2分も経っていないからだ。
てっきり街中の大きな警察署に連れて行かれるものだと思っていた。
だってこのおっさん、本部長とか呼ばれてたよね?
「早く降りなさい」
年配の男性が振り返る。
「タオルはそのまま持って行きなさい」
「は、はい」
俺は車を降りる。
マンションの前で、マリ監督がニコニコしている。
「ヘンタさん、お帰りですわ」
レナが車を覗き込むと、ウィーンと助手席の窓が開く。
「お嬢さん、あまり無茶しないで下さい」
本部長がレナを見て苦笑する。
「分かってる」
レナが本部長に小さく手をあげる。
は?
お、お嬢さん?
レナはこのおっさんと知り合いなのか?
本部長の車は、何事もなかったかのように去って行った。
「あの~これって・・・」
俺があっけに取られていると、
「とりあえず上の部屋に行きますわよ!
そのままだと、ヘンタさん、風邪をひいてしまいますわ!」
俺たちはマンションの301号室(俺の家)へと向かった。
--- 映研の活動拠点・301号室(俺の家) ---
シャワーを浴びた俺は、夕方に下のコンビニで買っていた下着と、部屋にあったジャージを着る。
「一体どういう事ですか?」
俺はバスタオルで髪をワシャワシャと乾かしながらリビングのソファーに座る。
ちなみにバスタオルはバスルームに元からあったものだ。
俺の隣でレナはテレビゲームをしている。
マリ監督はテーブルで紅茶を飲んでいる。
「レナさんは本部長の上司なのですわよ」
「は?」
「正確には、上司になるのは2年後だ」
レナがゲームをしながら答える。
「は?」
「本部長は定年後にレナさんの会社に入るのですわ」
「名前だけだ」
レナがゲームのコントローラーをカチャカチャする。
「それって・・・」
「天下りですわ」
「・・・・・」
天下り?
レナの会社ってそんなにデカいのか?
いや、そんなことより、
「その本部長が、なんであんなところにいたんだよ?」
「アタシが電話した」
「電話?」
「もしかしたらの保険だ。
12時すぎに交番前に来いって。
あの男なら、なんかあった時に対処できるだろ」
対処って・・・
あのオッサン、本部長だぞ!
どれくらいエライか知らないけど。
「そんな事より、ヘンタさん!
あなたスゴイですわ!いい絵が撮れましたわよ!」
「あれが、ゼメキス・フィルムですか?」
「そうですわ!」
「俺、あの映画は、2までしか見てないんですけど、車が水に落ちるシーンなんかあったんですか?」
「あれは誤算ですわよ!
途中で止まると思っておりましたんですのよ!」
「はぁ?何言ってるんですか監督!
誤算じゃ済みませんよ!
てか、分かるでしょ!ブレーキついてないんだから!
俺、用水路で溺れたんですよ!
しかも、警察に捕まりかけたんですよ!」
「ほれみろ!あの男が役に立っただろ?」
レナが俺をチラッと見る。
なに得意がってんだよコイツ。
「いやいや、あれが、映研の活動なんですか?
あんな事して何になるんですか?」
「ガス抜きですわ」
「ガス抜き?」
「そうですわ!人生のガス抜きですわ!
それを記録として残すのですわ!」
はぁ?
なに言ってんだよ、まったく・・・
周りに迷惑かけてるだけじゃねぇか。
本気で意味が分かんねぇよ。
ま、そんなことより、
「監督!」
「なんですの?」
「ゼメキス・フィルムとかいうのは終わったんですよね?」
「ええ、終わりましたわ」
「じゃあ、俺の携帯電話と学生証を返してください」
そう!これだ!
これが目的なのだ!
俺はこの為に、火だるま&水地獄に耐えたのだ!
てか、一瞬、気を失ったんだぞ!
死にそうになったんだぞ!
早く携帯返しやがれ!こんちくしょー!
「そうでしたわね」
マリ監督が棚の引き出しから携帯電話と学生証を取り出し、テーブルに置く。
なんだよ、そんな所にあったのか・・・
俺はてっきり、金庫の中かと思って開けたんだけどファイルしか無かったんだよな・・・
まあいい!
これで何もかも元通りだ!
よし!
俺はテーブルから奪うように携帯電話と学生証をつかみ取る。
すかさず携帯電話の写真を全消去する。
「エヘヘ・・・」
思わず笑みがこぼれる。
やった。
俺の勝ちだ。
これで俺は自由だ。
俺はニヤリとしながら、マリ監督に携帯電話をゆっくりと見せる。
「それが、どうかしましたの?」
「エヘヘ、写真を消去しました」
「そう・・・それで?」
俺は満面の笑みで、マリ監督に捨てぜりふを吐く。
「これで証拠は無くなりました!
俺は、映研を退会します!」
「ふ~ん。そうですか」
マリ監督が興味なさそうに自分の携帯電話をいじり始める。
レナがゲームの手を止め、俺の方を見る。
「おい!ヘンタ!
お前、入会申込書にサインしたのを忘れたのか!?」
「へッ!あんなのただの紙切れだ!」
「紙切れ?
お前、バカだろ?」
「バカはどっちだ!」
ウヘヘ!
これで俺は、お前らとはオサラバだ!
ざまぁ見やがれ!
「まあまあ、ヘンタさん」
マリ監督が、自分の手に持っている携帯電話の画面を俺に見せる。
「それじゃ、コレは何ですの?」
え!?
画面には、大学の中庭で盗み撮りする俺が写し出されている。
斜め後ろから撮られた写真で、俺の手に持つ携帯電話の画面には、あの子がバッチリと写っている。
「そ!それって!」
俺は動揺する。
が!すぐさま俺は反撃に出る。
「それっ!盗撮ですよね!俺!許可してませんよね!」
「この写真に許可は必要ありませんわ」
「はぁ?何でですか!?」
「犯罪の決定的瞬間ですのよ!」
「へ?」
「報道のための犯罪現場の撮影は合法なのですわよ!
犯人の許可なんか全く必要ありませんのよ!」
「は?」
「それとも、この写真を被害者の女性に見せましょうか?」
「え!?」
ダ!ダメだ!
それはマズイ!
クソッ!やばい!
ミスった!
追い込まれた!
俺は・・・俺は、映研から、逃げられないということなのか?
『・・・君、終わりだよ・・・』
大学の中庭でのマンビの言葉が脳裏をよぎる。
そうか、こういうことだったのか・・・
クソー!
「そ、それじゃ、俺に、どうしろと・・・」
「次のプロジェクトが終わったら、この写真のデータを消去しますわ!」
「本当ですか?」
「ええ、消しますわ!あなたの目の前で!」
俺は少し考えるが、答えはとうに出ている。
「分かりました・・・
次は、どんなプロジェクトですか?」
それを聞いたマリ監督が、ニッ!と笑い立ち上がる。
「ペキンパーですわ!」
「は?
ペキ?何?」
「次のプロジェクトは、
ペキンパー・フィルムですわ!」
「・・・え?」
何?
なにそれ?
ペキンパーって何ーーぃ!!?
0
あなたにおすすめの小説
俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件
こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。
・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。
・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。
・物静かで儚げな美術部員。
・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。
・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。
拓海の生活はどうなるのか!?
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。
この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる