千里さんは、なびかない

黒瀬 ゆう

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やっと見つけた王子様

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 中学3年生、ゴールデンウィークの5月4日のことだった。


 当時の私は、受験生だと言うのに、パジャマのまま真昼間からベッドの上でスマホをいじっていた。無課金で何とかレベル100までいったパズルゲーム。我ながらよく頑張ったと思う。三年間で頑張ったことを聞かれたら、きっとこのことを答える。


「あんた、いつまでゴロゴロしてるの! お母さんこれから出かけるから、きちんと宿題済ませとくのよ!」
「はいはい」


 お母さんは気の抜けた返事をする私を見てため息をつき、ドアを閉めた。弟は昨日から友達の家に泊まっているし、お父さんは釣りに行ってしまった。引きこもりは私だけ。仕方なく起き上がり、机の上に置いただけの宿題をパラパラとめくる。そして閉じる。その間わずか2秒。


 春から強制的に通わされた塾では、私が一番成績が悪い。A、B、Cとクラス分けがされているが、ずっと下のCクラス。中には一つ下の中学2年生の子もいるのに、それに焦りも感じない。もちろんクラスでもバカな部類に入る。そしてそれを気にしたこともなかった、本当に終わってる。千里花凛《せんりかりん》=頭が悪いという図式がみんなの中に出来ていると思う。苦手な数学で、30点以上取ったことがない。


 こんなどうしようもないのに、愛嬌だけはあるから成績表は3をつけてもらえることがあった。特に若い男の先生になんかは、テキトーに仲良くしておけば余裕だ。逆にしぶといのが、お母さんと同い年くらいの女性教師。笑顔で話しかけてもびくともしない。


 部活は手芸部に入ったけれど、手先が器用でないため飽きて幽霊部員のまま引退した。確か2、3回しか顔を出していない。こうして振り返ると、本当にどうしようもない。


 高校なんてどうでも良いし、家から電車で30分ほどの、悪い意味で有名な私立を希望していた。てか、そこしか行けるところがない。お母さんは呆れて、バイトで定期代を出しなさいと言っただけだった。


私、将来どうなるんだろ?  15歳なのに、何だか廃人みたいだ。こんな人生で良いのかな。


 そんなことを考えながら、冷凍パスタをレンジに突っ込む。その時、テーブルに置いていたスマホが震えた。相手は多分、あの子だろう。画面に表示される電話マークと、「サナ」の名前を見て心の中でビンゴ、と呟く。


 「あ、もしもし花凛!? 今日空いてる!?」


 開口一番これだ。この時点で、少し嫌な予感がした。なぜならサナが急いでいる。サナが急いでいる時は、本当にしょーもない。か、本当の本当にピンチな時だ。声のトーンからして、今日は前者だ。


 サナは幼稚園の頃からの幼馴染。背が高いのだが、本人はそれを気にしている。私からみたら、ジーンズやスキニーが似合ってカッコイイのに。おまけに顔立ちも大人っぽい。休日はメイクを施していて、黒髪のロングヘアを胸元で揺らす姿は、中学生には見えなかった。


 成績は中の上と言ったところか。私よりかなり勉強が出来るのに、ずっと仲良くしてくれる。抜群に綺麗で優しい、最高の親友。


 気が乗らない時は適当に嘘をついて断っていたが、今日は暇だ。しかもゴールデンウィーク。せっかくの連休。ずっと引きこもってばかりじゃ、つまらない。たまには付き合うか。


 「うん、まあ」
 「本当に!? 良かった~! 実は今日有楽町でやるライブ、たった今ドタキャンされて。もし良かったらどうかなって。席めちゃくちゃ良いの! ほら、花凛和泉君かっこいいって言ってたじゃん? 夜公演だから、十六時待ち合わせで考えてるんだけど……」


 いや、カッコいいって言っても消去法だったから……とは口が裂けても言えない。


 サナは、周りもドン引きするくらいのオタクだ。


 WORLDという五人組男性グループを応援していて、私もしょっちゅうライブ映像や番組なんかを見せられている。興味は微塵もない。みんな同じ顔じゃん。


 まだまだ無名のグループだから、ライブ会場はキャパ数百人の狭い箱。厄介なのが、特典会だ。たまに「知り合い◯人呼んでくれたらツーショ・サイン」と、こっちからしたら迷惑極まりないものをやっている。この人数も、多ければ多いほどサービスが豪華になるみたいで、友達の多いサナも最初は色んな子に声をかけていた。おかげでバックハグチェキを手に入れたみたいで本人は大喜びだったが、やはり疎ましく思われたようで、段々とサナとつるむ子は減っていった。


 「一緒にいると、厄介なことに巻き込まれる」。クラスの女子のほとんどが、そう思っている。おかげで浮いた存在だが、本人は全く気にしていないようだ。


 私もこの被害者の一人だが、それでも一緒にいる理由なんて一つしかない。サナが好きだからだ。


 「えー? 特典会ないよね?」
 「ないない! 本当にライブだけ!」
 「じゃあ行こうかな。どうせ暇だったし」
 「本当に! ありがとうちょー助かる! じゃあ、十六時駅待ち合わせで! 良い席だから、オシャレしてきてね」
 「はいはい。また後でね」


 電話が終わり、とっくのとうに温め終わっていたパスタのフィルムを剥がす。16時まで、あと4時間。オシャレも何も、付き添いだしなあ。そんなことを考えながら、テレビを付けたのだった。
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