千里さんは、なびかない

黒瀬 ゆう

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うまく言葉にできなくて

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 「一緒に行こうよ」
 「え?」
 「や、これ一人で行くのハードル高いからさ。ダメ?」


 今宮が焦るように手帳を開く。


 「空いてるけど……、千里さんが良いなら」
 「やった、決まり。じゃ、今日からよろしくね先生。てことで、連絡先交換しよ。私がQRコード見せるね」
 「え?」


 え? って。アンタ、クラスグループ入ってないでしょ。誰も今宮のこと追加してなさそうだし、個人間で交換するしかない。


 「これから色々相談するでしょ」
 「あ、そっか……はい」


 何だか嫌そうだが、見なかったことにしよう。
 友達に追加されました、という通知と一緒に、「今宮」の名前と犬のアイコンが出てきた。


 「可愛い。ダックスフント? 飼ってるんだ」
 「うん、今3歳なんだ」


 意外だ。動物とか、興味なさそうなのに。
 何はともあれ、これでいつでも連絡が取れるようになった。初めてこんなに長く話したけど、本当に何考えてるかわからない。これで打合せとか出来ているのだろうか、と要らぬ心配をしてしまう。


 「……ふざけてるって思ってるだろうけど、本気なんだ」


 鬱陶しい、重たいヘルメットのような髪を見つめる。


 「私、どうしても和泉君にピアノ弾いてもらいたいの。だから、本気。本気で目指してる。これから色々教えてほしい」
 

頼れるのは、今宮しかいない。恥を捨て頭を下げる。

 
 「や、そんな。頭下げられるほどのこと出来ないと思うけど……形はどうであれ、本に興味を持ってくれるのは嬉しいし」

 
 照れくさそうに今宮が頬をかく。そしてそれと同時、夕方からWORLDの冠番組が始まることを思い出す。
 大変だ! 今日は和泉君の回。


「んじゃ、土曜日ね!」


 思わぬ長居をしてしまった。私は一段飛ばしで階段を駆け降りる。あんな奴だけど、協力な助っ人を手に入れた。それだけで、何だかワクワクし始めていた。


 土曜日は現地待ち合わせになり、開場五分前に着くと長蛇の列が出来ていた。すごい列だ。お年寄りから子供まで、幅広い。フードコートも併設されていて、カレーのいい匂いが漂っている。


 今宮は早めに来て並んでくれている。スマホを片手に早足で前へ前へと進んでいくと、本を読んでいる頼りない背中を見つけた。


 「おはよ。並んでくれてありがとね」
 「早起き、慣れてるから」


 今宮は本を閉じると、壁側によりスペースを開けてくれた。
 ……私服、もっとダサいかと思ってたけど、そうでもなかった。無地の黒シャツに、ジーンズという超シンプルな服装だが、今宮に似合っていた。実は、英字Tシャツにダメージジーンズなんて履いてきたらどうしようとビクビクしていた。


 そこで私は、あることに気づく。


 「変装しないでいいの? マスクとかさ」


 大人気作家の零だ。ここじゃきっと、知らない者はいないくらいだろう。しかし今宮は、何食わぬ顔で平気でペットボトルの水を飲んでいる。


 「顔出し一切してないから、良いんだ。多分みんなのイメージと違うし、性別も非公開」
 「なるほど」


 そうか? ファンなら顔を見れて嬉しいものでは? なんて考える私は幼いのだろうか。
    まもなく開場でーす! と、スタッフの声が聞こえて列がわずかに動き始めた。


 「人多いから、体調悪くなったら言ってね」


 と、今宮が言った。あれ? そんな気遣い出来るのか。ちょっと意外。確かに今日は暑い。九月に入ったのに、残暑がまだまだ続いている。


 私は「小銭をすぐ取り出せた方が便利!」というネットのアドバイスを見て、用意してきた首から下げるポーチを取り出す。ちなみにWORLDのライブグッズである。まさか私生活で使う機会が来るとは。


 「出店はしたことあるの?」
 「うん、3回くらい。まだ中学生だったから、兄に手伝ってもらった」
 「へー。てかお兄さんいたんだ。本、売れた?」
 「有難いことに」
 「中学生なのに、すごいね」
 「小説サイトでも宣伝してたから、運が良かった」
 「小説サイト?」
 「うん。お昼にでも教えるよ。千里さんも、書けたらそこで発表してみるのもアリだよ」


 小説のことになると、今宮は別人のように喋る。あ、えっと、とかモジモジしているのが嘘みたいだ。


 「やっぱりミステリーが好きなの?」
 「うん。でも、初恋上級者は別。ノリで書いただけだから、全然自信なくて。意外とウケてびっくりした」


 ノリであれが書けるのか。下手したらとんでもない嫌味なヤツの発言である。
 そんなことを話している間に、入口が見えてきた。簡単な荷物検査を終えたら、やっと入場だ。
 ホールは写真で見るよりもはるかに広かった。スマホでダウンロードしていたマップを早速見比べる。
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