悪魔姫は世界征服よりも昼寝がしたい!

みずほたる

文字の大きさ
6 / 42

普通においしい、それが最強の魔法

しおりを挟む
「姫様。グルメマスターの子孫が見つかりましたので、お目通りの許可をお願いします」

昼過ぎ、オカリナが一人で姿を現した。

「もちろん。で、その子孫とやらは?」

「厨房におられます。なんでも先代グルメマスターの名誉を回復したいと」

そういえば、カレーが辛いと理由で街を滅ぼしたんだった。

……前の私、理不尽すぎるよね。まぁ、それで悪魔姫って呼ばれるようになったんだけど。

厨房から漂う香りに、思わず鼻をくすぐられた。カレー独特のスパイスの匂いが、まるで過去の因縁を呼び覚ますかのように私の感覚を刺激する。

「おまえか! おまえが初代グルメマスターの最高傑作『カレーのお殿様』を辛いとイチャモンつけたせいで、我が家系は没落したんだ! しかも街を殲滅したおまけつきで!」

コックの格好をした中年男性が玉座の前に現れ、怒鳴り散らす。

……街の破壊はオマケ扱いなのか。

「姫様、無礼極まりない発言。殺してもよろしいですか?」

「基本、オカリナが連れてくる人は、私に恨みがある人しかいないから仕方ないじゃない」

「おい姫様とやら、俺の話を聞け。そして食ってもらおう。この我が家に伝わるカレーを!」

食堂に案内され、皿に盛られたカレーを目の前に置かれる。

「感想を言え!」

「感想っていうか……具材は溶かしちゃったの?」

「具材だと?」

「芋とか人参とか……まぁ、色々あるんだけど」 

「なんだそれは!」

「え? まさかカレールーを煮込んだだけ?」

「カレールーを一から作ったんだ!」

私は一口すする。

「あぁ……やっぱり」

「やっぱりって何だ!」

「カレールーだなー、って思っただけ」

オカリナに、材料の調達を頼むメモを渡す。

そして、忘れていた絶望のオーラをひとしきり解放した後、静かに笑う。

「さて、グルメマスターの子孫とやら、妾が本物のカレーを振る舞ってやろうではないか」

しばらくして、オカリナが野菜、肉、そして貴重な米を揃え、味の査定に村人数人も呼ばれた。

「申し訳ございません。金貨をかなり使ってしまいました」

「構わぬ」

私はエプロンを身につけ、調理台に立つ。

手際よく材料を切り、鍋に入れると、香ばしい匂いが厨房中に広がった。

「さて……これでよし。カレールーはお主が作ったものを使用する」

鍋を前に、グルメマスターの子孫に差し出す。

「食え。これが妾の作る本物のカレーライスだ」

青年は一瞬目を丸くしたが、恐る恐るスプーンを口に運ぶ。

「……う、うまい……?」

「うむ、普通においしい」

「そうじゃ。具材を足しただけの簡単なものじゃが、味は均整が取れておる。別物に感じるじゃろう?」

青年は肩を落とし、膝をついた。

「……完敗です……。代々伝わる我らのカレー道は、ルーしか見ていなかった」

「フフン。これが妾の力量じゃ。全てを見通す悪魔姫の力の一端かもしれぬな」

オカリナはハンカチを握りしめ、目に涙を浮かべていた。

「魔王様……オカリナ、今まさに至福の時を過ごしております! 姫様の手によって、全てが完璧に整えられている……!」

その言葉に、私も微かに笑みをこぼす。 

「……感激しすぎではないか、オカリナ」

「しかし、姫様……オカリナ、もう泣きそうです! 天に召された魔王様、どうか見ていてください! この瞬間こそ、至高の調理の極み……!」

厨房の他の者たちも目を見開き、スプーンを止めた。

悪魔姫の力が、ここに示された瞬間だった。

「さて、料亭の主には『ヒメさまんじゅう』ではなく、この新しいメニューを提供するよう進言せよ。村人たちはヴィオラに材料補充と販売準備を頼むのじゃ。それと米の生産方法も調査せよ」

「かしこまりました、姫様!」

こうして、姫様の作る“普通においしいカレー”は村中で評判となり、街を滅ぼされたグルメマスターの子孫も、ようやくその名誉を回復したのだった。

そしてオカリナは厨房の隅でハンカチを握りしめ、涙と笑いで震えながらつぶやいた。

「姫様……このオカリナ、今、生きててよかった……至福……!」

悪魔姫と忠実な側近が織りなす、日常の一コマ。

小さなカレー一皿で、世界はちょっとだけ丸くなったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 2月15日付で、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。 ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。 引き続きよろしくお願いいたします。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...