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悪魔姫、化粧で世界を回す
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ミナエモン温泉が完成してから一カ月がすぎたあたり。
「オカリナよ。妾はついに魔導具を完成させてしまったぞ!」
「いつもズボラでやる気のない姫様が、30話手前にしてやっと悪魔姫らしいことをしてくれるんですね!」
「言い方が少し気にくわんが、見よ――これこそ“進化の魔導具”じゃ!」
私は胸を張って箱を開ける。
中から現れたのは、小瓶と筆がぎっしり詰まった奇妙なセットだった。
「なんですかこれ?」
「化粧道具じゃ。悪魔姫ブランド第一号――“ミナエモンコスメ”じゃ!」
「はぁ……」
「魔導ファンデーション、血色の口紅、闇影アイライナー、光羽パウダー、薔薇香水、眉用魔筆、頬紅、化粧落としの聖水、真実の鏡――と、説明する気はあるのじゃが、どうも聞く気がなさそうな顔をしておるな?」
「はい。私にはサッパリです。正直こんなの開発してる暇があるなら修練した方がいいと思ってます」
「オカリナならそう言うと思った。――見せた方が早いな」
私は手を二回叩いた。
「姫様、失礼します」
クラリが頭を下げて入室してきた。
「見ての通りクラリじゃ。人間の娘で歳は十七」
「今さらですね」
「よいか。今この状態を“すっぴん”という。そして、この魔導具を使えば――」
私はクラリの頬に筆を滑らせる。粉がふわりと舞い、藍色の瞳に淡い光が宿った。
鏡に映るクラリは、まるで別人のようだった。
「……別人ではありませんか」
「その通り。魔力がなくとも、美は作れるのじゃ。外見は、人の行動を変える」
「で、何の役に立つんです?」
「男が騙されて貢ぐようになる。金を使えば経済が回る。女も貢がれたいから化粧品を買う。経済がさらに回る。作ったのはダークエルフのアルトじゃが、発明料と売値の二割は妾の懐に入る。大儲けじゃ!」
「はぁ。金より修練の方が姫様にとって大事かと思いますが」
「このミナエモン城を半壊させたのは誰じゃったかの?」
「……素晴らしい発明です、姫様!」
「手のひらくるっくるじゃな」
⸻
そんなわけで、村に化粧品屋を作ってみた。
かなり高値で置いたので遠慮されるかと思いきや――それでも売れた。
どの時代、どの世界でも、美への欲求は止まらぬらしい。
だが予想外だったのは、この化粧品。女よりも男によく売れたことだった。
「何故じゃ?」
私は玉座で頭を悩ませると、
「化粧をしなくても見た目が良い女性しかミナエモン領にいないからです。そもそも化粧などしなくてもこの領地の女性はモテます。むしろ見た目なんかより夫をたてる、家庭を大事にするといった内面を重視されております」
「何その優しい世界」
死ぬ前は見た目が良くないと、女としてスタートラインにすら立てなかったというのに!
偏見だったっていうのか!
「男に売れている理由。例えばこの薔薇香水。頭に塗ると髪が再生すると言われています」
「育毛剤じゃあるまいし生えるわけないじゃろ」
「血色の口紅を塗ると出世すると言われています」
「全然使い道間違っておるではないか。まぁ良い。信じるものは救われると言うからのぅ」
「救われたのは城の修復代金だけでしょうね」
しかし、意外な展開に話が進んだ。
ミナエモン城の修復中に1人の使者がやって来た。何故か仮面をつけている。
「化粧道具という魔導具。あるだけ我が国に輸出してもらいたいのですが」
声からして女性だが、この使者はナチュラル王国の更に北にある国から化粧品の話を聞いて、治める女王の正式な使者としてやって来たらしい。
「なんでもティンカーベル国から来たらしいですが、女王を中心に女性が優位な地位にある国みたいです」
オカリナがこっそり言ってくる。
女性は鞭を常備、仮面をつけて暮らしているとか。男性は奴隷状態。どこか怪しい店にありそうな国なのはわかった。
「どこまで噂を聞いたかはわからぬが、我が領地では今ではほとんど売れておらぬぞ。在庫品をどうするか頭を悩ませている状況じゃ」
「ならば是非我が国に売って下さい!」
「一応理由を聞いても良いか?」
「我がティンカーベル国は女王陛下を中心に栄えて来ました。男に鞭を打ち、働かせてきました。しかし、それが快感すぎて結婚適齢期を過ぎてしまい」
使者は仮面を外すと、
「みんな老婆になってしまいました。これでは国家の存続が危ういのです」
「……なるほど、女王中心の国でも、やはり美は必要というわけか」
「その通りです! そこで、貴国の化粧魔導具をぜひ輸入し、女性たちに見た目だけでも若返りの希望を与えたいのです!」
「なるほど……経済的にも、外交的にも悪くない話じゃな。わしの懐も潤うし、念願の城にお風呂を作ることもできるな」
「はい、ぜひお願いしたいのです!」
オカリナが小声で耳打ちする。
「姫様……向こう、ちょっと怖い国かも知れません」
「ほう……それも一興じゃな。まぁ、化粧道具の在庫を捌ける口実にもなるし、進化の魔導具よ、国外進出じゃ!」
こうしてミナエモンコスメは、ティンカーベル国へ輸出されることになった。在庫は数え切れないくらいあったので私の懐は豊かになってきた。
男の欲望で経済を回すだけでなく、女性たちの美容と自信も救う、悪魔姫の“魔導経済計画”はさらに拡大していく――はずだったのだが。
しばらくして。
玉座でうたた寝をしていた時にオカリナが、
「姫様。ティンカーベル国が代金を支払ってこなくなりました」
「は?」
「オカリナよ。妾はついに魔導具を完成させてしまったぞ!」
「いつもズボラでやる気のない姫様が、30話手前にしてやっと悪魔姫らしいことをしてくれるんですね!」
「言い方が少し気にくわんが、見よ――これこそ“進化の魔導具”じゃ!」
私は胸を張って箱を開ける。
中から現れたのは、小瓶と筆がぎっしり詰まった奇妙なセットだった。
「なんですかこれ?」
「化粧道具じゃ。悪魔姫ブランド第一号――“ミナエモンコスメ”じゃ!」
「はぁ……」
「魔導ファンデーション、血色の口紅、闇影アイライナー、光羽パウダー、薔薇香水、眉用魔筆、頬紅、化粧落としの聖水、真実の鏡――と、説明する気はあるのじゃが、どうも聞く気がなさそうな顔をしておるな?」
「はい。私にはサッパリです。正直こんなの開発してる暇があるなら修練した方がいいと思ってます」
「オカリナならそう言うと思った。――見せた方が早いな」
私は手を二回叩いた。
「姫様、失礼します」
クラリが頭を下げて入室してきた。
「見ての通りクラリじゃ。人間の娘で歳は十七」
「今さらですね」
「よいか。今この状態を“すっぴん”という。そして、この魔導具を使えば――」
私はクラリの頬に筆を滑らせる。粉がふわりと舞い、藍色の瞳に淡い光が宿った。
鏡に映るクラリは、まるで別人のようだった。
「……別人ではありませんか」
「その通り。魔力がなくとも、美は作れるのじゃ。外見は、人の行動を変える」
「で、何の役に立つんです?」
「男が騙されて貢ぐようになる。金を使えば経済が回る。女も貢がれたいから化粧品を買う。経済がさらに回る。作ったのはダークエルフのアルトじゃが、発明料と売値の二割は妾の懐に入る。大儲けじゃ!」
「はぁ。金より修練の方が姫様にとって大事かと思いますが」
「このミナエモン城を半壊させたのは誰じゃったかの?」
「……素晴らしい発明です、姫様!」
「手のひらくるっくるじゃな」
⸻
そんなわけで、村に化粧品屋を作ってみた。
かなり高値で置いたので遠慮されるかと思いきや――それでも売れた。
どの時代、どの世界でも、美への欲求は止まらぬらしい。
だが予想外だったのは、この化粧品。女よりも男によく売れたことだった。
「何故じゃ?」
私は玉座で頭を悩ませると、
「化粧をしなくても見た目が良い女性しかミナエモン領にいないからです。そもそも化粧などしなくてもこの領地の女性はモテます。むしろ見た目なんかより夫をたてる、家庭を大事にするといった内面を重視されております」
「何その優しい世界」
死ぬ前は見た目が良くないと、女としてスタートラインにすら立てなかったというのに!
偏見だったっていうのか!
「男に売れている理由。例えばこの薔薇香水。頭に塗ると髪が再生すると言われています」
「育毛剤じゃあるまいし生えるわけないじゃろ」
「血色の口紅を塗ると出世すると言われています」
「全然使い道間違っておるではないか。まぁ良い。信じるものは救われると言うからのぅ」
「救われたのは城の修復代金だけでしょうね」
しかし、意外な展開に話が進んだ。
ミナエモン城の修復中に1人の使者がやって来た。何故か仮面をつけている。
「化粧道具という魔導具。あるだけ我が国に輸出してもらいたいのですが」
声からして女性だが、この使者はナチュラル王国の更に北にある国から化粧品の話を聞いて、治める女王の正式な使者としてやって来たらしい。
「なんでもティンカーベル国から来たらしいですが、女王を中心に女性が優位な地位にある国みたいです」
オカリナがこっそり言ってくる。
女性は鞭を常備、仮面をつけて暮らしているとか。男性は奴隷状態。どこか怪しい店にありそうな国なのはわかった。
「どこまで噂を聞いたかはわからぬが、我が領地では今ではほとんど売れておらぬぞ。在庫品をどうするか頭を悩ませている状況じゃ」
「ならば是非我が国に売って下さい!」
「一応理由を聞いても良いか?」
「我がティンカーベル国は女王陛下を中心に栄えて来ました。男に鞭を打ち、働かせてきました。しかし、それが快感すぎて結婚適齢期を過ぎてしまい」
使者は仮面を外すと、
「みんな老婆になってしまいました。これでは国家の存続が危ういのです」
「……なるほど、女王中心の国でも、やはり美は必要というわけか」
「その通りです! そこで、貴国の化粧魔導具をぜひ輸入し、女性たちに見た目だけでも若返りの希望を与えたいのです!」
「なるほど……経済的にも、外交的にも悪くない話じゃな。わしの懐も潤うし、念願の城にお風呂を作ることもできるな」
「はい、ぜひお願いしたいのです!」
オカリナが小声で耳打ちする。
「姫様……向こう、ちょっと怖い国かも知れません」
「ほう……それも一興じゃな。まぁ、化粧道具の在庫を捌ける口実にもなるし、進化の魔導具よ、国外進出じゃ!」
こうしてミナエモンコスメは、ティンカーベル国へ輸出されることになった。在庫は数え切れないくらいあったので私の懐は豊かになってきた。
男の欲望で経済を回すだけでなく、女性たちの美容と自信も救う、悪魔姫の“魔導経済計画”はさらに拡大していく――はずだったのだが。
しばらくして。
玉座でうたた寝をしていた時にオカリナが、
「姫様。ティンカーベル国が代金を支払ってこなくなりました」
「は?」
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