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ピコリーナ・カンパニーへようこそ!
千歳、土をこねる。
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晩ごはんを食べ終えて、私は立ち上がった。
「よし……いでよ、求人票!」
私の声に呼応するように、謎の荘厳な音楽が部屋中に鳴り響く。
──そうそう、この感じ。レイシアのときと全く同じ演出だ。
天井からふわりと光る紙が降ってきて、私の手の中に舞い降りる。
「手順どおり……手を3回叩いて……」
私はリィナが作った、“御神体感ゼロ”の神棚に頭を下げた。
どう見ても使い終わったティッシュ箱に紙を貼っただけだが、リィナ曰く「神格は気持ち」らしい。
「お願いします。あなたに、社運がかかってます!」
求人票をポストに差し込むと──
ぽわっ……
ポストが水色に光った。
「ピンクじゃないのです。レイシアさんのときはピンクだったのです。これは……男の人なのです!」
「ふむ、今回は男子か。楽しみじゃのう!」
神秘的な音楽がさらに盛り上がり、ポストから白い煙がもくもくと噴き出す。
煙が晴れ、そこに現れたのは──
「オラ、ヨモツと呼ばれていただ。よろしくな、姉ちゃんたち!」
私は目を疑った。
……布の服?
長髪に麻っぽい上着、草で編んだ腰紐。小綺麗にはしてるけど、どう見ても社会科の教科書で見た“縄文~弥生あたりの人”。
「え? え? はずれ引いたぁ!!」
私は思わず頭を抱える。
「この会社、設立前に終わったぁぁ!!」
「待つのじゃ、千歳!」
リィナが慌ててヨモツの首元を指差した。
「ステータスをよく見るのじゃ!」
よくよく見ると、
ヨモツ ⭐️⭐️⭐️⭐️
「……★4!?」
「レイシアさんと同格なのです! これは大当たりなのです!」
「いやいや、どう見ても原始人……」
「失礼します、ヨモツさん。ご専門はなんでしょうか?」
レイシアが丁寧に一歩前に出て尋ねると──
「オラな、村じゃ土器や埴輪を作っていただよ。腕には自信あるべ。高床式倉庫や竪穴式住居も作れるだ。卑弥呼様にも“すげぇ”って褒められたもんだ」
「……卑弥呼?」
ヨモツはリィナを指差し、
「そこの姉ちゃん、神の力あるだろ? オラ、そういうの、なんとなく感じるだよ」
「えっ……マジで弥生時代……?」
「なんかすごいのです! 時代考証は怪しいけど、なんかすごいのです!」
「いや、すごいのか? すごくないのか? わからん……」
私は頭を抱える。能力だけ見れば当たりかもしれない。でも、時代ギャップがデカすぎる。
ほんとにこの人、使いこなせるのか……?
「稲作とか、できるのです?」
佳苗が目を輝かせて聞いた。
「田んぼさえあれば育てられるだよ。立派な米ができるだ」
「今、お米が高く売れるのです。これは……金脈なのです!」
「いやいや、収穫まで一年かかるって!」
「とりあえず埴輪作るか。材料手に入れるの、手伝ってくれるべか?」
「え? あ、うん。なんなら外に“山田”って人がいるから、動員していいよ」
「おぉ、助かるだ! あと、そこの姉ちゃんも頼む!」
「私なのです?」
「んだ!」
──こうして、弥生時代から来た職人・ヨモツがピコリーナ・カンパニーに加わった。
未来は不安しかないけど……。
***
三日後。
「できただ」
ヨモツが、ちゃぶ台に埴輪を一体そっと置いた。
……うん、参考書で見たそのまんまの埴輪だ。
これ、売るの? 本当に?
「まずは世の中に知ってもらわねぇとあかんだ。そこでこれ見てくれ」
ヨモツは懐からスマホを取り出す。
「……え? スマホ使えるの?」
「佳苗が教えてくれただ。便利なもんだな、これ」
画面に映っていたのは──
「……マイチューブ?」
動画サイトにアップされていたのは、『【職人技】ヨモツと【窓際族】山田の埴輪作り【現代と弥生の融合】』。
映像には、半裸のオッサン(ヨモツ)が土をこねて埴輪を成形していく様子が映っていた。横では山田が素焼き窯の火加減を見ている。編集は佳苗だ。
──これが、なぜか世界中でバズっていた。
「再生数すごいのです……埴輪ブームが来ているのです……!」
コメント欄には「研究用に買いたい」「博物館に展示したい」「まさかの本物……?」の声が殺到していた。
「なんとこの埴輪、オークションで100万円で落札されたのです。これから梱包して発送するのです!」
「……え? この埴輪が? 100万?」
私には、土の塊にしか見えないのに──
でも、確かに売れた。
世の中、わからないものである。
昨日まで求人票が使える日を待って指折り数えていた自分が、ちょっとアホらしくなってきた。
──でも、これが起業ってやつなのかもしれない。
千歳の社会人の初仕事は土をこねることだったのは言わないでおいて欲しい。
翌日。
「なあ、これ本当に全部作るのか……?」
ヨモツが、ちゃぶ台の上に並べられた注文リストを見て呻いた。
注文数、52体。
しかも全員、商品ページにある「一体一体、職人が手作業で成形します!」という文言に惹かれて買っているので、手抜き不可。
「売れるのは嬉しいけど、まさかここまでとは……!」
私は驚きつつも、夢中で伝票をプリントしている。
「このままじゃ、発送が一ヶ月後になるのです。嬉しい悲鳴なのです……」
佳苗は、どんどん届く注文確認メールと格闘していた。
一方ヨモツは、すでに2体目の成形に取りかかっている。
「オラ、がんばるだ。埴輪ってのは心を込めてこそ意味があるもんだでな」
「いや、心は込めてくれていいけど……スピードも頼む……!」
「じゃあ、こっちは分業化するのじゃ!」
リィナが突然立ち上がり、白い紙に「ピコリーナ埴輪制作班(仮)」と書いた。
「オラが形を作る! リィナが……?」
「応援係じゃ!」
「戦力外なのです!」
「ひどくない!?」
──そんなある日。
会社の電話が鳴った。
「はい、ピコリーナ・カンパニーです……え? テレビ局? はい? 埴輪? ……え、取材!?」
電話を切った私は、口をパクパクさせながら皆を見る。
「地元テレビ局から取材申し込み……来るって……今日の夕方!」
「マジで!?」
「……服とか着替えた方がいいのですか?」
「レイシアは完璧だからそのままでいいよ……問題はヨモツ!」
「服、なんかマトモなのある!? その草スカートでテレビ出たら放送事故だよ!」
「大丈夫だ、姉ちゃん。オラ、今日は“正装”持ってきただ」
そう言ってヨモツが取り出したのは──
鹿の角がついた頭飾りと、ふんどし一丁。
「それはアカンやつなのです!」
「え、放送コードに引っかかるだか?」
「余裕で引っかかるよぉぉぉ!!」
急遽、山田のTシャツとジャージで“弥生カジュアル”に整えられるヨモツ。
そして、いよいよ玄関チャイムが鳴った──
◆
「こちらが、今話題の“埴輪で起業した会社”ピコリーナ・カンパニーさんです!」
カメラと照明がリビングに入り、取材が始まった。
「きっかけは動画サイトでのバズりだったそうですね?」
「はい。えっと、弊社では手作りの埴輪を──」
「これ全部、手作業なんですか!?」
「オラが作ってるだよ」
ヨモツがにっこり笑って答える。
「わたしも撮影と編集を担当したのです」
佳苗が胸を張る。
「実は、稲作も検討中なのです!」
「え、農業にも進出するんですか!?」
「でも収穫は来年なので、その前にやめるかもしれません」
「誤解しか生まないから変なこと言わないで!!」
「いやー、すごいですね! この埴輪、どれくらい売れたんですか?」
「先週から累計52体の注文がありまして……」
「うわっ、それは大ヒットですね! しかもお一つ100万円?」
「そうです……が、あれは初回限定のバブル価格なので、今はもうちょっと下がってます」
「いや、それでも十分すごいですよ!」
レポーターは何やら感動している様子だったが、私の脳内にはすでに**“取材効果でさらに注文殺到”**という未来予測が浮かんでいた。
──これ、あと何体作ればいいの!?
「よし……いでよ、求人票!」
私の声に呼応するように、謎の荘厳な音楽が部屋中に鳴り響く。
──そうそう、この感じ。レイシアのときと全く同じ演出だ。
天井からふわりと光る紙が降ってきて、私の手の中に舞い降りる。
「手順どおり……手を3回叩いて……」
私はリィナが作った、“御神体感ゼロ”の神棚に頭を下げた。
どう見ても使い終わったティッシュ箱に紙を貼っただけだが、リィナ曰く「神格は気持ち」らしい。
「お願いします。あなたに、社運がかかってます!」
求人票をポストに差し込むと──
ぽわっ……
ポストが水色に光った。
「ピンクじゃないのです。レイシアさんのときはピンクだったのです。これは……男の人なのです!」
「ふむ、今回は男子か。楽しみじゃのう!」
神秘的な音楽がさらに盛り上がり、ポストから白い煙がもくもくと噴き出す。
煙が晴れ、そこに現れたのは──
「オラ、ヨモツと呼ばれていただ。よろしくな、姉ちゃんたち!」
私は目を疑った。
……布の服?
長髪に麻っぽい上着、草で編んだ腰紐。小綺麗にはしてるけど、どう見ても社会科の教科書で見た“縄文~弥生あたりの人”。
「え? え? はずれ引いたぁ!!」
私は思わず頭を抱える。
「この会社、設立前に終わったぁぁ!!」
「待つのじゃ、千歳!」
リィナが慌ててヨモツの首元を指差した。
「ステータスをよく見るのじゃ!」
よくよく見ると、
ヨモツ ⭐️⭐️⭐️⭐️
「……★4!?」
「レイシアさんと同格なのです! これは大当たりなのです!」
「いやいや、どう見ても原始人……」
「失礼します、ヨモツさん。ご専門はなんでしょうか?」
レイシアが丁寧に一歩前に出て尋ねると──
「オラな、村じゃ土器や埴輪を作っていただよ。腕には自信あるべ。高床式倉庫や竪穴式住居も作れるだ。卑弥呼様にも“すげぇ”って褒められたもんだ」
「……卑弥呼?」
ヨモツはリィナを指差し、
「そこの姉ちゃん、神の力あるだろ? オラ、そういうの、なんとなく感じるだよ」
「えっ……マジで弥生時代……?」
「なんかすごいのです! 時代考証は怪しいけど、なんかすごいのです!」
「いや、すごいのか? すごくないのか? わからん……」
私は頭を抱える。能力だけ見れば当たりかもしれない。でも、時代ギャップがデカすぎる。
ほんとにこの人、使いこなせるのか……?
「稲作とか、できるのです?」
佳苗が目を輝かせて聞いた。
「田んぼさえあれば育てられるだよ。立派な米ができるだ」
「今、お米が高く売れるのです。これは……金脈なのです!」
「いやいや、収穫まで一年かかるって!」
「とりあえず埴輪作るか。材料手に入れるの、手伝ってくれるべか?」
「え? あ、うん。なんなら外に“山田”って人がいるから、動員していいよ」
「おぉ、助かるだ! あと、そこの姉ちゃんも頼む!」
「私なのです?」
「んだ!」
──こうして、弥生時代から来た職人・ヨモツがピコリーナ・カンパニーに加わった。
未来は不安しかないけど……。
***
三日後。
「できただ」
ヨモツが、ちゃぶ台に埴輪を一体そっと置いた。
……うん、参考書で見たそのまんまの埴輪だ。
これ、売るの? 本当に?
「まずは世の中に知ってもらわねぇとあかんだ。そこでこれ見てくれ」
ヨモツは懐からスマホを取り出す。
「……え? スマホ使えるの?」
「佳苗が教えてくれただ。便利なもんだな、これ」
画面に映っていたのは──
「……マイチューブ?」
動画サイトにアップされていたのは、『【職人技】ヨモツと【窓際族】山田の埴輪作り【現代と弥生の融合】』。
映像には、半裸のオッサン(ヨモツ)が土をこねて埴輪を成形していく様子が映っていた。横では山田が素焼き窯の火加減を見ている。編集は佳苗だ。
──これが、なぜか世界中でバズっていた。
「再生数すごいのです……埴輪ブームが来ているのです……!」
コメント欄には「研究用に買いたい」「博物館に展示したい」「まさかの本物……?」の声が殺到していた。
「なんとこの埴輪、オークションで100万円で落札されたのです。これから梱包して発送するのです!」
「……え? この埴輪が? 100万?」
私には、土の塊にしか見えないのに──
でも、確かに売れた。
世の中、わからないものである。
昨日まで求人票が使える日を待って指折り数えていた自分が、ちょっとアホらしくなってきた。
──でも、これが起業ってやつなのかもしれない。
千歳の社会人の初仕事は土をこねることだったのは言わないでおいて欲しい。
翌日。
「なあ、これ本当に全部作るのか……?」
ヨモツが、ちゃぶ台の上に並べられた注文リストを見て呻いた。
注文数、52体。
しかも全員、商品ページにある「一体一体、職人が手作業で成形します!」という文言に惹かれて買っているので、手抜き不可。
「売れるのは嬉しいけど、まさかここまでとは……!」
私は驚きつつも、夢中で伝票をプリントしている。
「このままじゃ、発送が一ヶ月後になるのです。嬉しい悲鳴なのです……」
佳苗は、どんどん届く注文確認メールと格闘していた。
一方ヨモツは、すでに2体目の成形に取りかかっている。
「オラ、がんばるだ。埴輪ってのは心を込めてこそ意味があるもんだでな」
「いや、心は込めてくれていいけど……スピードも頼む……!」
「じゃあ、こっちは分業化するのじゃ!」
リィナが突然立ち上がり、白い紙に「ピコリーナ埴輪制作班(仮)」と書いた。
「オラが形を作る! リィナが……?」
「応援係じゃ!」
「戦力外なのです!」
「ひどくない!?」
──そんなある日。
会社の電話が鳴った。
「はい、ピコリーナ・カンパニーです……え? テレビ局? はい? 埴輪? ……え、取材!?」
電話を切った私は、口をパクパクさせながら皆を見る。
「地元テレビ局から取材申し込み……来るって……今日の夕方!」
「マジで!?」
「……服とか着替えた方がいいのですか?」
「レイシアは完璧だからそのままでいいよ……問題はヨモツ!」
「服、なんかマトモなのある!? その草スカートでテレビ出たら放送事故だよ!」
「大丈夫だ、姉ちゃん。オラ、今日は“正装”持ってきただ」
そう言ってヨモツが取り出したのは──
鹿の角がついた頭飾りと、ふんどし一丁。
「それはアカンやつなのです!」
「え、放送コードに引っかかるだか?」
「余裕で引っかかるよぉぉぉ!!」
急遽、山田のTシャツとジャージで“弥生カジュアル”に整えられるヨモツ。
そして、いよいよ玄関チャイムが鳴った──
◆
「こちらが、今話題の“埴輪で起業した会社”ピコリーナ・カンパニーさんです!」
カメラと照明がリビングに入り、取材が始まった。
「きっかけは動画サイトでのバズりだったそうですね?」
「はい。えっと、弊社では手作りの埴輪を──」
「これ全部、手作業なんですか!?」
「オラが作ってるだよ」
ヨモツがにっこり笑って答える。
「わたしも撮影と編集を担当したのです」
佳苗が胸を張る。
「実は、稲作も検討中なのです!」
「え、農業にも進出するんですか!?」
「でも収穫は来年なので、その前にやめるかもしれません」
「誤解しか生まないから変なこと言わないで!!」
「いやー、すごいですね! この埴輪、どれくらい売れたんですか?」
「先週から累計52体の注文がありまして……」
「うわっ、それは大ヒットですね! しかもお一つ100万円?」
「そうです……が、あれは初回限定のバブル価格なので、今はもうちょっと下がってます」
「いや、それでも十分すごいですよ!」
レポーターは何やら感動している様子だったが、私の脳内にはすでに**“取材効果でさらに注文殺到”**という未来予測が浮かんでいた。
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