異世界へ追放された魔王、勇者召喚に巻き込まれて元の世界で無双する

朔日

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どうも、暗躍です

どうも、報告です

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「ということでして…首謀者がナダル、積極的な配下は4名、他に元魔王様方が加わっているかもしれない、ということしかわからず…」

「ナダル……。クズの化身か…テニスプレイヤーの可能性もあるか?」

「ご存知なのですか?」

 役に立たなかったデカラビアを帰らせ、ザガンは玉座へ腰かけるノワールへ戦々恐々と報告していた。

 ノワールの機嫌は悪くないが、良くもない。恐らく体はどうにもならなかったのだろう。その割には不機嫌ではないが、報告内容によって不機嫌になる可能性が高い。
 そう睨んでいたのに、報告を聞いたノワールは怒らないどころか、ふっと懐かしそうに笑ってみせた。ザガンの見たことのない笑い方だ。

「いや。そう呼ばれる世界を知っているだけだ。それで? 他には?」

 まさか本当にそれだけなのか、と問い詰める黒い闇の瞳が怖い。役に立たないとはいえ最後までデカラビアを道連れにしておけば良かった。

「ええー…あーっと…、あっ! 対抗戦で宣戦布告すると」

「そうか」

 ザガンには何の話かわからないが、ノワールはそれだけで理解したらしい。

「あのー、魔王様? よろしければ教えてほしいなー、なんて…」

 ザガンの声は徐々に小さくなる。
 比較的気軽な間柄ではあるが、超えられない実力の壁もきちんと存在する。だからザガンはいつも、積極的にノワールに関わるくせに怖がる羽目になっている。

 そんな幼馴染の複雑な心はいざ知らず、ノワールは愉しげに口を開いた。

「じき、人間界で各国の代表学生が競う国対抗戦がある。通例ならば、勇者がいる年は例年よりも盛大に行われる。ナダルとやらは、そこで人間どもへ宣戦布告する気なのだろう。まあ学内対抗戦もあるらしいが、学生相手に宣戦布告するなど無意味なことはさすがにしないだろうからな」

「魔王様への宣戦布告ではないのですか?」

 反逆の意志有りで宣戦布告といえば、現魔王であるノワールに対するものではないのか? なぜ人間界へ? と、ザガンの頭は真面目な疑問で渦巻いた。

 いい加減にふざけなければ、頭の酷使で死んでしまう。ザガンは変顔でもしたい気持ちを懸命に堪えた。

 そんなザガンへ、ノワールは盛大に溜息をつく。

「良いかザガン。我は退屈だからと魔界を出て、人間界で過ごしている。刺激が足りないと考える奴らはこう思うはずだ。『魔王様が遊びに行くほど楽しい人間界なら、いつでも遊びに行けるように征服してやろう』と」

「はあ…」

 意外とノリノリで声音まで変えて説明してくれるノワールには申し訳ないが、ザガンの相槌は曖昧なものとなった。

 だって相手は反逆者なのだ。反逆者の狙いが人間界の征服と言われても……あ。

「人間界の征服は、たかがいち魔族が独断で行っていいことではない。魔王ほどの権力があれば別だが」

「まさか、人間界を征服するために、征服する気のない魔王様を退けようと?」

「そして己が魔王となり、人間界へ侵攻するつもり…と考えるのが自然だ」

「バカなの!? バカすぎる!」

 ノワールの推測を聞いたザガンは、率直に叫んでしまった。

 相手は史上最強の魔王、ノワール・ヴィルモンティーノなのだ。前世に引き続き今世でも魔王の座をほしいままにする、傍若無人な我らの王。

 そんなお方に反旗を翻すくらいなら、1人で人間界へ攻め入ったほうが早い。越権行為だろうが無謀だろうがとにかく、人間界を落としたいだけならなおさら、直接人間界を攻めるべきである。玉座が真の目的でないのなら、ノワールは絶対に敵に回すべきではないというのに。ノワールに挑むことこそ無謀である。

「まあ、バカだから歴史書なども読んでおらぬのだろう。魔界に堕ちた人間界がどうなったのか」

「あー、全部が焦土で凍土になって生物も無機物も朽ち果て…ってアレ? 魔界の空き地が広がっただけの」

「そう、アレだ」

 何気に前世からノワールとともにいるザガンは、当時のことを遠い目で振り返った。
 まだノワールがノワールでもアゲハでもなかった時代の、人間界を征服する暇潰し。

「ちまちまと戦争している間だけだったな。暇潰しになったのは」

「でしょうね」

 ザガンは思い出して溜息をついた。

 魔界へ堕ちた人間界は、魔界特有の高い魔素濃度に耐えきれず、生きとし生けるもののみならず人間界のすべてが死滅した。残ったのは人間界のあった空間のみ。草木や砂礫もない、真の意味での空き地である。

 だからこそ、正々堂々と戦って戦力を削り合っている状況のほうが余程暇潰しになったというのに…。

「飽きた魔王様が一撃で終わらせるから、冥王様にまで頭を下げることになったじゃないですか」

 ノワールの遠隔大規模魔法一撃で魔界へと沈んだ人間界。
 解放して人間界を元通りにし、魔界へ沈んだ記憶を消し去るために冥王まで働いてくれた。知られざる世界の裏歴史。

「あやつも笑っておっただろう。あれはあれで人間嫌いだしな」

 キメラの人工合成やら禁忌召喚やらで死神の仕事を増やす人間を、冥王は嫌っている。冥王は暇になった死神とお茶会をしたいのだ。残念ながら死神が暇になったことなど、過去一度もないらしいが。

「人間嫌い…。そういえばミコト様は? 彼は人間でしたよね?」

 不意にザガンは、冥王に連れて行かれた哀れな紫色の人間を思い出した。人間嫌いというならば、彼はどうなったのだろう。

「紫の肌で不老不死の人間を、人間は人間とは呼ばぬ」

「…確かに」

 ならば彼は死んだことになっているのか、元いた国ではどうなっているのか、彼は今どうして過ごしているのか……など、気になることはあったがノワールに尋ねることではないので、ザガンは黙った。どうせそんなに気になるなら調べてみろと調査を命じられるだけである。そんなものはデカラビアに任せておけば――

「魔王様。デカラビアは使い物になるのでしょうか?」

 魔界随一のスパイという割には、今回の調査では全然役に立たなかったのだが。

「……数世紀の時差ボケだとでも思っておけ」

 本来なら優秀なはずだが、というノワールの言外の優しさ。

「そういえば、闇ギルドのマスターが働けと言っていたぞ。たまにはギルドに顔を出せ」

「…承知しました」

 またの新たな指令にザガンは、デカラビアに向けた優しさをたまにでいいから自分に向けてほしいと思ってしまった。
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