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第2話
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昨夜の出来事が頭から離れず、講義の内容はほとんど頭に入ってこない。
「お~い、綾人?講義終わったぞ」
綾人は声をかけられてハッとする。
周りを見ると、既に教室は人がいなくなっていた。長い間、意識が飛んでいたようだ。
「綾人がぼーっとしてるなんて珍しいな、何かあったのか?」
綾人に話しかけたのは、同じ学部で一番仲の良い葉川 端留。
「…いや、ただ寝不足なだけ」
せっかく親友が心配してくれているが、まさか昨日見知らぬ男に痴漢されましたなんて正直に相談できるはずもなく、ついはぐらかしてしまう。
「…なら良いけど。あんまり頑張りすぎるなよ?じゃあ俺、すぐバイトあるから行くな」
「おう、また明日」
ひらひらと手を降って去っていく親友を見送った後、綾人は荷物をリュックに詰め込んで教室を出た。今日は大学が1限のみだった綾人は
(早く帰ってもう一眠りとするか)
昨日のあんな事件のせいで寝不足だ。
電車に乗り込み、自宅の最寄り駅で降りる。
改札を出て家へ向かおうとしたその時、前を横切った人が何かを落としたのに気づいた。
「あっ、落とし物…」
綾人はすぐに落とし物を拾い上げ、持ち主に駆け寄る。
「あの、すみません!落としましたよ」
「…ああ、おおきに」
「は?」
綾人に声をかけられ振り返ったその落とし主の顔を見た瞬間、綾人は驚いた。何故なら、その人物こそ、昨夜の白い男だったからだ。
その男も、綾人の顔を見た瞬間ほんの一瞬驚いた顔をしたが、すぐに何事もなかったかのように、
「ほな」
と言って去ろうとした。
しかし、綾人がそれを許すはずもなく。
その男の腕をガッと掴んで歩みを止めさせた。
「ほな、じゃねーよ。おまえ、昨日の夜のこと、忘れたとは言わせねーぞ?」
「……あはは、怖ぁ。ジブン、記憶あるんかいな」
「ああ、おかげさまでバッチリな。てことで一緒に警察行こうか。な?」
のらりくらりな感じだった男が、警察という単語が出た瞬間、慌て始める。
「け、警察!?ちょい待てや、一旦話だけさせてくれ」
「話なら俺じゃなく警察にしろ」
しばらく、お互い譲らないままの状態が続いていたが、白い男が口を開いた。
「…はぁ。こうなったらしゃあないな…。説明するから、ちょっとの間だけ眠っててくれ、な?」
「はあ?何言っ……て………」
意識が遠のき、力が抜けた綾人の身体を白い男が抱き止める。
「ふぅ。人目につきづらいとこだったのが幸いやったな」
白い男は、綾人を軽々と担ぎ上げ、どこかへ向かって行った。
・
・
「ん………」
いつの間にか意識を失っていた綾人は、人の話し声で目を覚ました。辺りをキョロキョロと見回すと、どうやら高級旅館のような広々とした和室にいるようだ。
「…せやから、俺はちゃあんと記憶消したはずなんやってば」
「しかし実際には、記憶は残っていたと」
「そこがおかしいねんで」
声のする方を向くと、その声の主は例の白い男と、綺麗な長い黒髪を後ろでまとめた、50代くらいの見知らぬ男だった。
「どこだ、ここ…」
ぼそ、と呟いた綾人の声に気づいた2人がそちらを振り返る。白い男はニコッと笑って綾人に声をかけた。
「おお、やっと起きたかいな」
「お前が眠らせたんだろうが!
…ってかお前、痴漢した挙句さらには誘拐とはなぁ?」
綾人に詰め寄られた白い男がたじろぐ。
「せやからちゃうて!その誤解を解くために連れて来たんや。俺らは…」
綾人の言葉に慌てた様子の白い男が弁明しようとするのを、黒髪の男は制止するかのように遮る。
「待て、陽助。私たちのことはそう易々と外部の者に打ち明けることはできない」
黒髪の男はそう言うが早いか、一瞬で綾人との距離を詰めると、その額に自分の指を当てた。
「うおっ!」
男の指から衝撃を感じた綾人の頭は少し後ろに退け反る。
「いてて……いきなり何だよ」
「君、この男を知っているか」
黒髪の男は先程「陽助」と呼んでいた白い男を指差し、衝撃を受けた額を押さえる綾人に問う。
「さっきも言ったけど、ソイツは痴漢ヤローだ!」
「…合っているな」
「いやいやいや、合ぉてへんわ!神榊さんまで何言うてんねん!」
陽助は、神榊さんと呼んだ黒髪の男に間髪入れずツッコむ。神榊は、そんな陽助を完全にスルーし、顎に手を当てて考え込む。
「ふむ、私の術さえ効かないとは…一体どういうことだ」
「せやから俺はちゃあんとやった言うたやんか」
「……」
2人の男がボソボソと話し合っているのを見ながら、綾人は考える_____この状況、もしかしてマズイんじゃないか、と。
(仲間がいるってのに、何も考えずに暴言吐きまくっちゃったよ、俺)
冷静に考えれば、罠を使ってまで痴漢(キス)をしてきた男に攫われて、仲間がいるアジトまで連れて来られた。というのが綾人が置かれている現状だ。
(………もしかして、消される?)
ただでさえ、綾人の身長は170cm程なのに対して陽助は190cm近くという体格差があるのに、あちらは2人で綾人側は1人。どう考えても勝てるはずがない。
(…拘束されてない今のうちに、逃げるしかないよな)
2人に気づかれないようチラリと横目で部屋内を探ると、綾人の後ろ側に襖があるのを見つけた。
(よし、あそこから逃げよう)
綾人は2人の方を見た。2人とも、話に夢中でこちらを見てはいない。
(よし、今だ!)
綾人は襖に向かって走り出した。
——はずだった。
「…は?」
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