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信長の咳病

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 「ならあなたが里親的な事してるんです?」

 「あんたは本当に馬鹿な男ね?あたいの匙加減でどうにでもなるって事さね」

 この瞬間に意味を察した。

 「妹と言っても齢は14。そろそろ男を相手にさせるのも有り・・・かしらね?」

 「よしの様!!!私がそれは致します!だからいろはには手を出さないで!」

 「キャハッハッ!今しがたあたいに啖呵切ったのは誰だい?いったい誰のおかげで妹が屋根のあるところで寝て、食べれているのか分かってるのかい!?」

 意識はしなかったがかなり低い声でオレは喋っていた。

 「いくらだ?いくらで買い取れる?」

 「は!?あんたなに言ってるのさ?」

 「そのままの意味だ。オレがあやめさんといろはさんを買い取り育てる」

 「大殿の領地で人身売買は御法度!そんな事すれば互いの首が飛ぶーー」

 「オレは飛ばないよ。それ以上の利があるからだ。なんならオレは誰にも追いつけない場所に逃げられる」

 「あんた何言ってるのさ!?」

 正直オレも分からない。なんでこんな事喋ってしまったのか・・・。そこへ青筋立てた池田さんが走ってやってきた。

 「武蔵ッッ!!!居るのか!?うをっ!なんじゃこの臭いは!?臭ッ!!吐いた臭いがしておるッ!!!」

 「池田様?お久しぶりにございます」

 「よしのか。ツレを探して・・・そこに居るのか!はよう城へ来い!大変じゃ!」

 池田さんにそう言われオレはあやめさんの手を握り走って城へ戻る。店を出る前に持って来たお金は置いて出た。

 時刻はオレの腕時計で夜中の1時。そろそろ帰りたいがそんな雰囲気ではない。

 そして通された場所は最初みんなと出会った時よりも人が多い中、真ん中に寝かされている信長さんを囲むように座っていた。

 「ただの咳病と思っておったが呼吸がしんどそうにしておる。今朝には受け応えしていたが夕方くらいから苦しそうにしておる。お館様を診察した医者はヤブだったから斬った」

 「はい!?斬った!?」

 オレは聞き返してしまった。確かに見た感じかなりしんどそうにはしている。ってかそれだけの事で医者が斬られるって・・・。

 「そんなヤブの事はどうでも良い!この状況にて誰も医者が名乗り上げないのだ!観る人が居ないのだ!ワシ等では分からぬ!これは貴様の世界ではなんという病なのだ!?」

 「い、いやそんな事言われましても・・・とりあえず素人ながら診察します・・・」

 さすがに癌とかそんな類じゃないよな!?インフルとか肺炎とかか!?

 「織田様。聞こえますか?」

 「・・・な・ん・じゃ?」

 「しんどい中すいません。今から聞く事にハイなら指を一回動かしてください。イイエなら反応しないでください」

 オレがそう言うと指を一回動かした。

 「喉の痛みは?」

 トン

 「頭の痛みは?」

 トン

 「熱いですか?」

 
 「寒いですか?」

 トン

 「苦しいですか?」

 トン

 「鼻水はでますか?」


 「咳はでますか?」

 ト・・・

 こんな時でもさすが天下人だ。咳は出ない事もないが少し出るという意味が分かった。

 寒いという事はまだ熱が上がってるのだろう。苦しそうだけどヒィーヒィー言う程ではなさそうだ。痩せ我慢してることもあるかもしれないが。

 「武蔵!どうなのだ!?」

 「一度オレは戻ります。医者じゃないので断言はできませんが重篤な病ではないとは思います。薬持ってきますので暫し失礼ーー」

 「貴様逃げる気じゃないのか!?」

 「はい!?何で逃げないといけないのですか?」

 「貴様が出鱈目な事言っているだけではないのか!?」

 オレはさっきの事もあり少しイライラしていた。オレを呼び止めたのはプライドの高い佐久間さんだ。池田さんや前田さん、佐々さんや滝川さん達は静かにオレの方を見てるだけだ。残念ながら前田さん以外はオレを疑ってる目だ。

 「いい加減にしてくれ!勝手に呼び出して勝手にオレの事を言って!じゃあどおしろと言うんですか!?薬を取りに帰る!すぐに戻ります!」

 「貴様!なんちゅう口の利き方じゃ!貴様はなんぼのもんじゃい!」

 「まぁまぁ!佐久間殿落ち着いて。薬を取りに行ってくれると言うのですから待ちましょうや。そうだ!あのすまほんと呼ばれる箱を武蔵は大事にいつも持っていたでしょう?あれを我等が預かっておれば戻って来るでしょう?なぁ?武蔵君?構わないな?」

 ここで前田さんの助け舟だ。ありがたい。

 「はい。ちなみにスマートホンですよ。略してスマホです。これは前田様に預けておきます。口が悪くすいません。少しイライラする事がございまして」

 「構わん!はよう行け!」

 最後にそう言ってくれたのは池田さんだ。


 オレは急いで戻り、引っ越しした時に母ちゃんが『何かあるといけないから薬はストックしておきなさい!』と言って台所の棚に置いてある薬の棚を開ける。

 そこには優しく、

 喉が痛い時・・・トラネキサム錠、1日3回食後に1回1錠

 頭が痛い時・・・ロキソニン、1日3回食後に1回1錠。※この薬は効き目が強いから少々の頭痛や熱では飲まないように。普段はこっちのカロナールにしなさい。

 アモキシシリン・・・これは抗生物質だから他の薬と同じに飲みなさい。1日3錠、1回1錠。

 タケキャブ・・・胃が痛い時に飲む事!1日1回!間違わないように!

 カルボシステイン・・・1日3回2錠ずつ!咳止め、鼻水に効く薬!

 このように非常に分かりやすく色々、紙に書いてくれているのだ。さすが母ちゃんだ!

 オレはこの薬を箱事持ち上げ、冷蔵庫にあるゼリーを3個持ち。トイレに入る。

 「ばあちゃん!また行ってくる!信長さんが大変なんだ!」

 こんな時でもばあちゃんとの会話は忘れない。変わらず微笑んでくれてるようだ。

 オレは走ってさっきの部屋に向かう。時間にしても10分と経っていないだろう。部屋に入るとみんな俯き静かだ。

 「ほら!帰ってきた!武蔵君は逃げる男ではない!」

 「チッ。早く処置をしてさしあげよ!お館様が苦しそうだ!」

 佐久間さんは偉そうにそういうが気にすれば負けだ。オレは冷蔵庫から持ってきたゼリーの一つ、みかんゼリーを取り出して信長さんに食べさせてあげる。

 「多分食事してないと思うので辛いかもですが食べてください。何も食べずに飲めば胃がやられてしまうこともあるのです」

 「で、出鱈目な事言うでない!そんな話聞いた事がない!」

 「そうだ!そもそもそれは本当に薬なのか!?」

 外野から野次が聞こえるが無視だ。イライラと眠気も限界だ。

 信長さんは少しずつだがゼリーを完食してくれた。上半身を支えながら食べさせるのは一苦労だ。というかむしろプルプルしていた。オレの腕が。明日は筋肉痛になるだろうと思う。

 そして薬箱の中に入ってるオデコで計る体温計にて熱を計る。

 「貴様!それは鉄砲か!?」

 「はい!?体温計ですよ!?」

 「ま、待て!」

 ピッ ピッ ピピ~

 「「「ぬぁ!?!?」」」

 この声も無視だ。

 「は!?38.5度!?高熱じゃん!早く薬を・・・」

 そして、水を用意してもらいロキソニンとアモキシシリン、カルボシステインを飲んでもらう。ガヤガヤみんな言ってるがそこまで言うならお前達で看病してみろ!と言いたい。

 「とりあえず薬は飲ませました!明日の薬を小分けにして置いておきます。必ず容量を飲ませてください。容量以上に飲ませると深刻な事になるかもしれません」

 「という事は貴様はまさか帰るのか!?」

 「え?明日もバイトなのでーー」

 「お館様とそのばいとというのはどちらが大切なのだ!?」

 いやいやそりゃ居てあげたいけど居たところで何も変わらないだろ!?そもそもこんな人が居たら休まらないだろ!?

 パンッ!!

 みんながオレに詰めているところで元気よく襖が開く音が響いた。

 そこには一言で表すなら冷たい顔の女性とその横に2人の女性が立っていた。
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