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戦前のお勉強

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 「という事ででね?僕は本格的に仕事を辞めようとかと思っているんだよ」

 「は!?そんなんで構わないのですか!?いわゆる・・・その・・・ナニをすれば通れなくなるかもなのですよ!?」

 「ふっ。それこそだよ。僕は、みどりさんと一緒に居られるなら戦国で骨を埋めてもいい!そう思う」

 あぁ~あ・・・田中さん遂に拗らせてしまったか。まぁ人の恋はそれぞれ。別に否定はしないし、それはいい事だけど、何故今なんだ!?もう少しで戦が始まるしなんなら今のトイレのドア・・・長篠城なんだよ・・・。

 オレは現状の事を田中さんに伝えた。田中さんはリニューアル後に忙しさのあまり戦国に行きたいとは言ってなかった。というか、オレの家にかなりの荷物を持って来て、置いてあるのは知っている。

 「って事はあの家にいっぱい持って来ているのが・・・」

 「引っ越しのつもりだよ。お袋や兄貴にも手紙を出した。それに・・・みどりさんへの手紙も渡してくれてるんだろう?」

 そう。毎日毎日手紙をオレに渡して来たのだ。みどりさんへの手紙だ。それをオレは竹中さんの配下の1人・・・権右衛門さんという、名前がいかにも!って人に岐阜に行って渡してもらってたのだ。

 この権右衛門さん。ずっと竹中家に仕える人だそうで、いつかの美濃攻めの時竹中さんは隠居してたらしいのだが、それでも外の世界の情報を得るため、その竹中さんの目の役割をしたのがこの人だそうだ。1日8里を走り回ってたそうだ。

 1里が約4キロだから毎日32キロ走ってた事になる。体力お化けとはこの人の事だろう。だからか、みんなの前では権右衛門という名前だけど『韋駄天』と呼ばれたりする人だ。

 「権右衛門さんに毎日お願いしてますよ。まぁもう少しで三方ヶ原の戦いが始まるのでそれが落ち着いてからですね。別に田中さんが戦国で骨を埋めるというのは否定しません」

 「そうか・・・。分かってくれてありがとう」

 田中さんは戦国行き確定か・・・。オレも覚悟を決めないといけないな。



 9月15日・・・史実とされている日ならば9月29日に長篠城へ山県昌景と秋山虎繁(信虎)が約3000人で攻めてくるとされている。

 今、里志君に最後の勉強をしてもらっている。

 「でね?何回も言うけど最近では定説が変わってるんだよ。これも賛否あるんだけど、油のないところに火はたたないって言うだろう?俺は両方似た事があったのだと思うんだ」

 「というと?」

 里志君はオレにも分かりやすいように丁寧に教えてくれた。

 当初、武田は隊を3つに分けて進軍を開始した。まぁこれが通説だ。だが、里志君の言い分は、まず、9月29日に山県昌景が北諏訪に向かった。これは上杉謙信を撹乱させるためだと思うと言っていた。

 そして北諏訪で方向転換し、伊那に踵を返し大島城 城代の秋山虎繁と合流して兵が3000人になったらしい。

 その軍勢のまま信濃、遠江の国境の青崩峠もしくは兵越峠を越えて遠江の北側に侵入するのではと言った。

 「なら、武田本隊はどなるの?」

 「武田は少し前に甲相同盟を締結。後ろの脅威がなくなった。だから、武田本隊は10月3日に躑躅ヶ崎館を出発、富士川沿いの駿州往還を南下して駿河ににむけて進軍したんだ」

 それから更に説明してくれた。

 駿河に入り、興津というところで同盟した北条軍から約2000の援軍と合流。そのまま東海道を西へ進軍し、駿河の国衆等の軍勢も合流し合計2万2千にまで軍勢は膨れ上がる。そして、そのまま高天神、掛川城の東、田中城まで進軍する。

 「でも、これが新しい説だよね?」

 「そうだよ。長篠城に話は戻すけど、まず歴史では一応長篠城は争う素振りは見せたと言われているけど、武蔵の話を聞いた限りでは菅沼なんとかって人は既に内通してるんだろう?」

 「うん。あれは間違いない。奥平って人の父も内通してるけど、その息子はオレや竹中さんが現れた事によって思い留まっていると思う。というか、かなり好戦的な人らしい。オレはまだ会っていないんだ」

 「そっか。けど、それは危ない。味方に敵が潜んでいるようなものだ。武蔵は危なくなればすぐに戻って来いよ?」

 「そのつもり。慶次さんや小川さんっていう甲賀村の人達にも最悪、逃げてもオレが責任を取り今後の生活の面倒も見るって言ってるし」

 「へぇ~!知らない間に一丁前になったな!まぁ続けるぞ」

 そのまま更に里志君が教えてくれた。

 武田本隊は浜街道を進軍し、10月10日に大井川を渡り徳川領に侵攻を開始した。

 「って、これが新たに言われている説なんだ。俺達が習った三方ヶ原の戦いは兵を3つに分けて遠江、三河、美濃に同時侵攻したって習っただろう?」

 「そうだね。この前ネットで見た記事もそれだった。けど、ページの管理者が違うサイトを見ればさっき里志君が言ったのと同じ事を言ってる人も居た」

 「そうなんだよ。どれが正解なのかは分からないんだ。だからこれが起きればこれをすればいいという答えがないからアレコレ言いにくいんだよな」

 確かにそうだ。里志君が戦国に未だに行き来できるならvs武田とかなるだろうけどオレしか行けないからな・・・。

 「まぁこれは俺の考えだけど・・・あの武田の事だ。本隊じゃないにしても駿河、遠江の国境の田中城に武田の兵を置かないってのはあり得ないと思う」

 「なんで?」

 「武田信玄は戦国一と言われるくらいの戦上手。多分織田信長よりも。その信玄が一抹の不安も見逃すはずもない。要城の高天神、掛川城を落とすのは骨が折れる。だからせめて、出張って来ないように・・・もしくは調略くらいは仕掛けたんじゃないかなと思う」

 「なら、どの説に関しても二俣城は・・・」

 「確か城代は中根正照って人だっけ?かなり徹底抗戦したけど、後の武田家当主となる武田勝頼に落とされる。その中根正照って人は家康の救援を信じ籠城しているんだ」

 「見た。それこの前ネットで見た!信長さんは再三に渡り、浜松で迎え打てと言ってたのに、なんならオレにまで『タヌキにくれぐれも早まった真似をするでない!と伝えておけ!』と手紙が来たくらいだからね。まぁまったく読めなかったんだけど」

 「あれ?信長さんって楷書体教えてなかったけ?」

 「教えたよ!なんなら書店で小学生が習うレベルの参考書まで何冊も渡したさ!けど、あの人興奮すればミミズが張ったような字になるんだよ。多分あの手紙書いた時も興奮してたんだろうね」

 「ははは!面白い人だな!まぁ、その二俣城の救援のために信長さんの言いつけを無視して家康が出張る。そこで、運悪くというかなんというか・・・家康が武田の動向を探るため威力偵察していたところ、馬場信房隊と遭遇」

 「そう!それも見た!まずは本田忠勝と内藤信成って人が頑張るが劣勢となり退却するんだったよね。所謂・・・一言坂の戦いだね」

 「そうそう。これでこの2人は見事、殿(しんがり)を果たして家康を浜松城まで帰陣させている。信玄からは、家康に過ぎたるものが二つあり 唐の頭に本多平八と言われるみたいだな。ちなみに例の有名な脱糞はこの時の話と言われているからちゃんと確認してくれよ!?」

 いやいやそこかよ!?確かに脱糞は有名だけどオレはそもそも長篠なんだけど!?

 「いやオレ・・・長篠なんだけど・・」

 「ここからは笑いはなしだぞ?長篠は敵に内通している人が少しでも居るなら間違いなく内乱になる。武蔵が現れたからそうなったのだとしても間違いなく歴史が変わる事になる。現に内通しているなら山県昌景が長篠に来る理由がないからな。新しい説でも本来の説でも長篠城は武田に落とされてるからな」

 「じゃあどうしろと?」

 「武蔵は既にあっちの世界で人を・・・殺めたんだよね?大丈夫だったか?」

 「吐いたり、その後インフルエンザになったりとしたけどPTSDになったりはないかな」

 「ふっ。適性があったんだね。それは良かった。銃は肌身離さず持っておく事、危なくなれば戻る事を徹底しておけ!バイトリーダーの田中さんが現れて色々してるみたいだけど俺達の居る世界の歴史は変わっていない。あれほど電気を量産してもだ。だからこれは間違いなくパラレルワールドだと俺は思う」

 「オレは結構前から思ってたけどね」

 「もう!2人でなにをそんなに白熱してるの!?」

 「あ、有沙!」

 「野郎2人でそんな歴史の事言って・・・オタクみたいだよ?」

 いやいやキツイ言葉だな・・・オレの生死を分けるかもしれないんだぞ!?

 「そう言うな!武蔵には大事な事なんだぞ!」

 「ふふふ。大丈夫だよ!私が更にまたいっぱい爆弾作ったし、パラレルワールドだっけ?つまり私達の居る歴史とは違うようになるんだったら好きにさせてもらうよ!はいこれ!合田君専用の爆弾だよ!火薬量が多いから長篠城がどんな作りか分からないけど、投擲して投げてね!ちゃんと導火線も長めにしてあるから!」

 ここでも気にしないのは有沙さんだ。多分1番適性が高いのがこの有沙さんだろうな。
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