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秘蔵の書物

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 状況は悪くなる一方だ。オレからすれば馬場信春が居なくなったとて、史実と似てる風に進むのかと疑問に思いはするが。

 まず、3年前徳川家の東遠江侵攻で徳川領になってはいたが、その徳川家への忠誠は本物ではない。

 東遠江に攻めた折に、元々治めていた国衆の人達や諸将は武田軍に進んで協力してる始末だ。

 その最たる例が、天方城という城だ。

 「殿!天方城に先の今川領侵攻戦の時、今川方についた久野宗政が城代になった模様です」

 「仕方ない。ワシの求心力のなさだ。許せ」

 言葉ではこうやって言う家康さんだが、なんせポーカーフェイス過ぎて本心がどうなのかが分からない。正直、オレのことをかなり褒めてくれる人だし、かなり融通を利かせてくれはするが、オレからすれば少し不気味だ。


 更に約1ヶ月が過ぎた。11月27日の金曜の夜の事である。

 「殿ッッ!!!」

 「次はなんじゃ!!なっ!?中根!?」

 「申し訳ございませぬッ!!!武田軍の猛攻により・・・水源を断たれ城の者も奮戦しておりましたが・・・二俣城・・・開城してしまいました・・・申し訳ございません!!」

 「いや構わぬ。ワシも元から危なくなれば浜松まで退けと言うておっただろう?むしろよくぞ戻って来てくれた。これからも仕えてくれぬか?」

 「もったいのう御言葉です!反撃の時には是非某が命に代えましても・・・」

 とうとう二俣城の陥落である。オレはこの中根さんって方を褒めたいと思う。というか、褒めざる得ない。

 水さえ断たれなければまだまだ戦える雰囲気が見えたからだ。有沙さん特製のテルミットや、オレが持って来た缶詰、湯煎米、塩、醤油など色々託してたってのもあるだろうが、それでも単独でよく持ちこたえたと思う。

 そして現代の方では、里志君から意味深な事を言われている。

 『今の戦局はどうなっている?マジで!?馬場信春討ったの!?武蔵が!?やるじゃん!そうなんだ?なら暫くは停滞する感じだよな!?分かった!動きそうなら事前に言ってほしい!驚かせるような事があるんだ!だけどこれは武田も驚かせる事だから三方ヶ原の決戦が起きそうな日に教えてくれ!きっと武蔵も驚くぞ!』

 と、珍しく里志君が含みを持たせて言ってきたのだ。オレはかなり気になり夜も眠れないから教えてくれ!と伝えたのだが秘密!としか言われず今に至る。

 オレはそろそろかと思い、オレの隊と竹中隊の人達を呼び作戦会議をする事とした。

 「とうとう中根さんの奮闘虚しく二俣城が落ちました。これから少しすれば武田本隊が秋葉街道を南下してきます」

 「ほほほ。その未来の合田殿が知ってる歴史ならば・・・ですな?」

 「そうですね。もし変わってるならオレのアドバンテージ・・・いやすいません。有利性がなくなります」

 「ほほほ。元より勝てるとは思えない戦ですからね。ですが、これもまた以前と同じ・・・合田殿とならば勝ってしまうような気がするのですよ」

 「いやでもここから先はオレも作戦考えてないですよ?武田は病気で亡くなるのでその時間を稼ぐということしかーー」

 「チッ。そんな引っ込んでどうする!千載一遇の好機ではないか!俺はてっきり武田を殲滅する作戦を考えているのかと思っていたんだがな」

 「いや慶次さん!?さすがにそれは難しいでしょ」

 「ふん。まぁいい。この隊の大将はお前だ。俺はお前の護衛。竹中殿は与力だ。お前が下知する事を遂行するだけだ」

 「とにかく今は全力で待機です!それにこれから冬になり寒くなるから風邪だけはひかないように!寒かったらトレーナーとかマフラー、軍手とかあるから各々好きに使うように!小川さんは引き続きドローンで監視をお願いします!」

 「はっ!」

 小川三左衛門・・・この人は最初、合田様と呼ばれていたが気付けば我が殿から我が合田様、そして今・・・

 「我が君!眼光の鋭い者達が屯(たむろ)しておりますが!?殺っちゃいますか!?」

 「いやいや殺らないから!そこまで7キロも先でしょ!?敵の間者でもしなくていいから!」

 と、このように我が君と言われている。

 その理由としてはこの小川さんが熱すぎて熱すぎて、オレがやる事成す事全てに全力でくるのだ。

 だからその熱意に負け、当初はあやめさんにドローンを使ってもらいオレ達はオレ達で監視をしていたのだが、小川さんを自由にさせていたら四六時中オレに纏わりつかれるためこの仕事を任せた。

 ちなみにドローンの充電やなんかはソーラーパネルを使いポータブル電源を充電しドローンも充電させて飛ばしている。一応、徳川軍に隠れてだ。なんなら、佐久間さん達にも教えていない事だ。

 あの佐久間さんはオレのこと毛嫌いしてる節があるからな。だからオレもこちらから接触はしないようにしている。

 オレ達が個人で監視できるのは20キロ圏内だ。それがドローンの飛行限界だからだ。

 12月に入り、寒さはより一層進む。

 オレ達、浜松城に居る人達は石油ストーブで暖かい中過ごしている。時折り、後世に名前が残っているか分からないような人達が武田側に寝返ったと報告がある程度だ。

 家康さんもいつものポーカーフェイスで軽く頷くだけになった。

 徳川四天王の1人、例の一言坂の戦いをした本多さんはオレに銃が欲しいと強請ってくる事が多い。

 その度にもう1人の四天王・・・ベテランの酒井忠次さんが銃は嫌いだ!とか言っている。

 歳の差なのか戦い方に柔軟な本多さんと保守的な酒井さんのかけ引きは見ていて楽しいと思う。いつか、岐阜城下で作る鉄砲を個人的に贈ると伝えると、それに乗っかって酒井さんも

 「後学のため我も所望したい。合田殿は若い。これはお近づきの品だ。貰ってくれ」

 と、とある書物を渡してきた。この場所は浜松城の大広間の出来事ではあったが徳川軍の人達はオレを見て少しニヤけていた。それが何かはまだ知らない。

 部屋に戻り、事の顛末を慶次さん、あやめさんと話しているとあやめさんは顔を赤らめた。慶次さんも少しニヤニヤしながら・・・

 「あぁ。なら本多殿と酒井殿には尾張銃を渡してやらなければならないな。まぁこの書物は武蔵が未来とやらに帰って見るといいさ。ははは!」

 と、馬鹿にした目で言った。

 オレは気になりこの日はすぐに帰る事にし、帰って中身を確認する。

 「は!?なに!?この絵は!?」

 所謂・・・春画というやつだろうか・・・。五右衛門と名前のような男女が局部を接合させている絵だ。

 「これは戦国のエロ本か!?いや無理だろ!?こんなので抜けるわけねーだろ!?」

 オレの独り言が虚しく響いた。
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