みんな良い子

みんな良い子

　この話を聞きながら家族全員で寝るのが当たり前になったのは、いつからだろう。
　俺と妻には1人の子供がいる。結婚して中々子供が出来ずに悩んだ時期もあったが、何とか息子が我が家に来てくれた。できない期間が長かったせいか、とにかく息子が可愛くて仕方がない。
　だが、可愛いだけで済まされないのが子育てだ。その中でも、寝かしつけというものは中々厄介である。毎晩毎晩、ひどい時は何冊も何冊を絵本を読み聞かせ、お腹や背中をさすり、今日は何をした、明日は何をしたい、幼稚園には行きたくないだの言ってると思いきや、最終的には言葉にならない声で泣いて眠りに落ちる。俺と妻は最大HPが削られる日々を過ごしていた。
　そんな俺たち子育て世代の悩みを解決したのが、とあるYouTuberが配信した「みんな良い子」である。内容は何てことはない、なんとも落ち着くオルゴールをBGMに、ウサギやネコらが主人公で、どこかで聞いたことがあるような童謡を、女性がなんとも優しく読み上げる動画だった。ママ友の紹介でこの動画を知り、半信半疑で動画をながすと、今までの苦労は嘘だったかのようにストンと息子が寝付いた。そして、まさか俺たちまでも翌朝まで爆睡であった。
　この「みんな良い子」は瞬く間に世間に広がり、子育て世代にはなくてはならないものになった。しかし、みんなが知っている動画にも関わらず、YouTuberの事も知らないし、肝心の話の内容も良く覚えていないのである。だが、間違いなくぐっすりと、親子共々眠れるのは確かであったため、誰もが深く考えずにこの動画を聴き続けていた。
　あれから、10年。世界は変わった。戦争である。本当はわかっている、自分の子供を失いたくない。だが、なぜかそれ以上に戦争に行く我が子が、誇らしくてたまらない。可愛くて仕方がなかった息子、かけがえのない息子。他の子供たちも戦争に行くらしい。あぁ、なんて「みんな良い子」なんだろうーー。