felice〜彼氏なしアラサーですがバーテンダーと同居してます〜

hina

文字の大きさ
4 / 35
第一夜 酒と涙に溺れた日

しおりを挟む
「別れて当然だと思う。だってまだ27才でしょ?もっといい人いるよ。」
「茜、やめて。」
「だって本当のことでしょう。現実は恋だの愛だのじゃなくて、条件が合う人と結婚してるよ。だからマッチングアプリとかお見合いとかだから流行ってるんじゃん。」

午後8時、バーホワイトにて。
陽菜は七海と穏やかに美味しい食事と酒を嗜みながら圭に話を聞いてもらい、七海の心の傷を癒すはずだった。
しかし先客で匠と同伴をしていた茜につい話してしまったことで、大変なことになってしまった。

「茜、確かにそうやって結婚する人もいるだろうけど。言い過ぎ。」
「ごめん、私トイレ。」

正論を吐く酔っ払った茜に楯突いた陽菜の隣で、七海は涙を溜めながらトイレに去って行ってしまった。
そんな七海に茜は逃げたと小言を言っていて、陽菜はただ正直な茜相手に本気で怒りそうになった。

「結婚には、いろんな価値観があるからね。そういう茜ちゃんは、結婚に夢を持ってないの?」

二人の只ならぬ険悪な雰囲気に割って入ったのは、相手にせずお酒を堪能している匠ではなく、忙しく仕事をする圭の傍で暇そうに話を聞いていたマスターだった。

「持ってない。私は一生結婚しない。」

そう断言する茜に、陽菜は茜の持つ辛い過去を思い出し話をした相手が間違っていたと気付かされた。

茜は幼い頃に虐待を受け、児童相談所に保護されて高校卒業をするまで孤児院で育った。
学生時代は勉強を頑張り奨学生として県立の看護学校に入り、一人で強く生きてきたのだ。
ホスト遊びで夢を見ているのも、辛い過去からの逃避行だといつか陽菜に話してくれた。

しかし酔っていたとしても、傷心な七海に深追いさせる言葉は許すことができない。
陽菜は少し冷静になり、今はとりあえず場所を移動してまた後でバーに来ようと決めた時、茜は陽菜に言った。

「陽菜だって一生結婚する気ないでしょう?優良物件から逃げて、バーテンダーと同棲してるんだから。」

茜の一言は、陽菜の胸に突き刺さった。
そして陽菜はつい圭を見たが、圭はグラスを拭きながら俯いていた。

そのまま茜の一言に返答はできぬまま、茜は匠と店を出て行ってしまった。
お互い気分が落ち込んだ陽菜は七海と話が弾まず、それからあまり飲まずに七海と別れ自宅に帰った。


陽菜は一人ソファーに横たわりながら、カーテンを開けている窓から見える夜空を見つめていた。
茜の言った最後の言葉が木霊するかのように心の中に響いていた。
親友を慰めるつもりが共倒れしてしまった。

ー私は大好きだった人を傷付け、居心地の良い場所で生きている。本当に自己中で薄情な女だ。

陽菜は自嘲しながら、途中で買ってきた缶ビールを一気飲みした。

こうやって結局現実から逃げている自分も嫌になる。
しかしお酒は飲めば飲むほど、悩める思考を停止させてくれた。


気が付くと陽菜はそのままソファーの上で寝てしまっていた。
早朝目が覚めると身体の上に、毛布がかけられていた。
そして昨日飲み明かしたビール缶もリビングから跡形もなく片付けられていた。

「圭?」

ー今日は家に帰ってきてるのだろうか。
名前を呼んで少し時間が経ってから、圭は寝間着のままリビングに現れた。

「おはよう。風邪引いちゃうから、こんなところで寝ちゃダメだよ。」
「圭。」

陽菜はソファーから起き上がると、すかさず圭に抱き着いた。
圭はそのまま隣に座り、横で身体を寄せながら陽菜の頭を優しく撫でた。

「昨日は大変だったね。」
「…七海大丈夫かなぁ。」
「心配だよね。でも俺ははるちゃんのことも心配。」
「え?」

陽菜は向き合うと、圭は不安そうに自分を見つめていた。
昨日は明らかに大切な友人達を傷付けたのは自分であるのに、そんな自分を心配してくれる心優しい圭に陽菜は胸が熱くなった。

「茜の言ったこと聞いてたよね。気にしないでね。私は圭のおかげで幸せだよ。」

陽菜は正直にそう言うと、頬が赤くなり圭から目を逸らした。
圭は横で目を細めて優しく微笑み、陽菜の身体を抱き締めた。

「俺も幸せだよ。はるちゃん。」

ー私だけがこんなに幸せでいいのだろうか。
陽菜は罪悪感に否まれながらもしばらく居心地の良い胸の中の暖かさに浸った。

自分と圭の関係に、名前はない。
ただお互い居心地が良くて、幸せを感じている。
決してそれ以上の関係を求めない。

ホスト遊びで心を満たす茜も、愛より夢を選んだ七海も、自分の選択した人生を自分が満足できればいいのだろう。
そう二人の生き方を認めて正直に仲直りしたい気持ちを胸に抱きながら、陽菜は圭の胸の中でまた眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

25cmのシンデレラ

野守
恋愛
デパートに靴を買いに来た梨代は、自分の足に合う25センチのサイズが無くて落ち込んでいた。そこで偶然起こった暴漢騒ぎ。とっさに靴を投げて助けた男性は、まさに梨代が買おうとしていたブランドのメーカー「篠塚製靴」に勤める篠塚だった。しかも篠塚グループと呼ばれる現代財閥の御曹司だとか。 後日お礼として非売品の靴を届けに来た篠塚は、梨代にとある仕事の依頼を持ちかけて……。 御曹司が庶民を体験⁉ 王子様の「逆」シンデレラスト―リーが始まった! と思いきや、事態はあらぬ方向に。

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

素直になっていいの?

詩織
恋愛
母子家庭で頑張ってたきた加奈に大きな転機がおきる。幸せになるのか?それとも…

処理中です...