felice〜彼氏なしアラサーですがバーテンダーと同居してます〜

hina

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第一夜 酒と涙に溺れた日

「別れて当然だと思う。だってまだ27才でしょ?もっといい人いるよ。」
「茜、やめて。」
「だって本当のことでしょう。現実は恋だの愛だのじゃなくて、条件が合う人と結婚してるよ。だからマッチングアプリとかお見合いとかだから流行ってるんじゃん。」

午後8時、バーホワイトにて。
陽菜は七海と穏やかに美味しい食事と酒を嗜みながら圭に話を聞いてもらい、七海の心の傷を癒すはずだった。
しかし先客で匠と同伴をしていた茜につい話してしまったことで、大変なことになってしまった。

「茜、確かにそうやって結婚する人もいるだろうけど。言い過ぎ。」
「ごめん、私トイレ。」

正論を吐く酔っ払った茜に楯突いた陽菜の隣で、七海は涙を溜めながらトイレに去って行ってしまった。
そんな七海に茜は逃げたと小言を言っていて、陽菜はただ正直な茜相手に本気で怒りそうになった。

「結婚には、いろんな価値観があるからね。そういう茜ちゃんは、結婚に夢を持ってないの?」

二人の只ならぬ険悪な雰囲気に割って入ったのは、相手にせずお酒を堪能している匠ではなく、忙しく仕事をする圭の傍で暇そうに話を聞いていたマスターだった。

「持ってない。私は一生結婚しない。」

そう断言する茜に、陽菜は茜の持つ辛い過去を思い出し話をした相手が間違っていたと気付かされた。

茜は幼い頃に虐待を受け、児童相談所に保護されて高校卒業をするまで孤児院で育った。
学生時代は勉強を頑張り奨学生として県立の看護学校に入り、一人で強く生きてきたのだ。
ホスト遊びで夢を見ているのも、辛い過去からの逃避行だといつか陽菜に話してくれた。

しかし酔っていたとしても、傷心な七海に深追いさせる言葉は許すことができない。
陽菜は少し冷静になり、今はとりあえず場所を移動してまた後でバーに来ようと決めた時、茜は陽菜に言った。

「陽菜だって一生結婚する気ないでしょう?優良物件から逃げて、バーテンダーと同棲してるんだから。」

茜の一言は、陽菜の胸に突き刺さった。
そして陽菜はつい圭を見たが、圭はグラスを拭きながら俯いていた。

そのまま茜の一言に返答はできぬまま、茜は匠と店を出て行ってしまった。
お互い気分が落ち込んだ陽菜は七海と話が弾まず、それからあまり飲まずに七海と別れ自宅に帰った。


陽菜は一人ソファーに横たわりながら、カーテンを開けている窓から見える夜空を見つめていた。
茜の言った最後の言葉が木霊するかのように心の中に響いていた。
親友を慰めるつもりが共倒れしてしまった。

ー私は大好きだった人を傷付け、居心地の良い場所で生きている。本当に自己中で薄情な女だ。

陽菜は自嘲しながら、途中で買ってきた缶ビールを一気飲みした。

こうやって結局現実から逃げている自分も嫌になる。
しかしお酒は飲めば飲むほど、悩める思考を停止させてくれた。


気が付くと陽菜はそのままソファーの上で寝てしまっていた。
早朝目が覚めると身体の上に、毛布がかけられていた。
そして昨日飲み明かしたビール缶もリビングから跡形もなく片付けられていた。

「圭?」

ー今日は家に帰ってきてるのだろうか。
名前を呼んで少し時間が経ってから、圭は寝間着のままリビングに現れた。

「おはよう。風邪引いちゃうから、こんなところで寝ちゃダメだよ。」
「圭。」

陽菜はソファーから起き上がると、すかさず圭に抱き着いた。
圭はそのまま隣に座り、横で身体を寄せながら陽菜の頭を優しく撫でた。

「昨日は大変だったね。」
「…七海大丈夫かなぁ。」
「心配だよね。でも俺ははるちゃんのことも心配。」
「え?」

陽菜は向き合うと、圭は不安そうに自分を見つめていた。
昨日は明らかに大切な友人達を傷付けたのは自分であるのに、そんな自分を心配してくれる心優しい圭に陽菜は胸が熱くなった。

「茜の言ったこと聞いてたよね。気にしないでね。私は圭のおかげで幸せだよ。」

陽菜は正直にそう言うと、頬が赤くなり圭から目を逸らした。
圭は横で目を細めて優しく微笑み、陽菜の身体を抱き締めた。

「俺も幸せだよ。はるちゃん。」

ー私だけがこんなに幸せでいいのだろうか。
陽菜は罪悪感に否まれながらもしばらく居心地の良い胸の中の暖かさに浸った。

自分と圭の関係に、名前はない。
ただお互い居心地が良くて、幸せを感じている。
決してそれ以上の関係を求めない。

ホスト遊びで心を満たす茜も、愛より夢を選んだ七海も、自分の選択した人生を自分が満足できればいいのだろう。
そう二人の生き方を認めて正直に仲直りしたい気持ちを胸に抱きながら、陽菜は圭の胸の中でまた眠りについた。
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