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第三夜 新しい命の灯火
③
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匠は茜より年が三つ下で、七歳の時に孤児院で茜と出会った。
匠は両親からネグレクトという虐待に遭い、入所時は話すこともままらなかった。
そんな匠を茜は誰よりも気にかけて懸命に面倒を見てくれたのだという。
高校を卒業し孤児院を出た匠は、職が続かず転々としていた。
そして最終的にはホストクラブに身を置くこととなった。
しかし茜はそんな匠をいつでも応援してくれていたのだという。
今もホストクラブに通い、匠が頂点を取れるよう支えてくれていた。
匠はずっと茜を慕い恋をしていた。
しかし仕事柄もあるし、今更照れ臭くて気持ちを伝えられずにいたのであった。
「赤ちゃんができたって聞いて、めっちゃ嬉しかったです。俺、ホストから足洗って昼職見つけて、茜と結婚して子供を養っていきたいです。」
そう言う匠は前を向いて、笑っていた。
しかし出勤前なのにこちらが心配になる程涙を流したため、目が腫れていた。
普段は調子が良く楽観的な匠が、そんなに感情的になるほど茜を想っていたことに陽菜は自分のことのように感動した。
「それをちゃんと茜に話さないとね。」
「でも俺の話、ちゃんと聞いてくれますかね?また今日みたいになりそうで。」
「そうだよね。茜っていつも一人で自分のこと決めるよね。」
「それに、茜の不安な気持ちも痛いほど分かるんです。俺たち、親の愛情を知らないので…。」
「そっか…。」
そう、それが茜が子供を産む産まない、匠と結婚する結婚しない以前の一番の二人の問題だと陽菜は感じていた。
これから親になろうとする二人。
母親となる茜だけでなく、匠までもが辛い過去を持っていたからだ。
「一人にだけ、今日聞いた匠くんの話をしてもいい?私だけじゃ、自信がなくて。」
「圭くんにですか?」
「うん。圭にはちゃんと両親もいて関係も良好だから、茜と匠くんが温かい家族を築けるよう助言を受けられるかなと思って。」
「分かりました。俺たちのことなのに巻き込んじゃって本当にすみません。どうかよろしくお願いします。」
匠はそう言って席を立つと、陽菜に深く頭を下げた。
陽菜はまだ自分は何もできていないからと、匠を座らせようとしたが匠は体勢を崩さなかった。
匠はまた涙が溢れて、陽菜にも見せられないほどの顔になっていたのである。
そしてそのまま陽菜は一人でバーホワイトへ行った。
平日であったため店内も人が少なく、ちょうど今日はマスターが休みだった。
「圭お疲れ様。マルガリータちょうだい。」
「了解。はるちゃんもお疲れ様。」
陽菜は圭の作る美味しいカクテルと料理を堪能しながら、夕方あった出来事を話した。
圭は仕事をしながらであるが、親身に聞いてくれた。
「茜さん良かったね。俺、すごく安心したよ。」
「うん。私も。匠くん、茜のこと好きだったんだね。」
「あれ?はるちゃんは気付いてなかったの?匠の茜さんへの思いは結構分かりやすかったよ。」
圭はそう言うと陽菜の鈍感さに笑った。
確かに匠は茜によくちょっかいを出して喧嘩をしたりもしてたが、それは匠の愛情の裏返しだったのかと思い返した。
まあ圭はバーテンダーとして二人のやりとりも自分より多く見ていただろうし、人の感情に敏感だろうと陽菜は思った。
「何か二人をくっつける方法ないかなぁ?」
「うーん。とりあえず匠が素直になって、茜さんがちゃんとその話を聞くといいよね。」
「そうだよね。圭と私が一緒の休みの日に、2人を呼んで話し合いをしない?」
来週の半ばに二人のシフトが合った唯一の休日があった。
茜と匠のシフトと合わせるのは難しいかもしれないが、少しでも時間を合わせられるよう調整しようと陽菜はさっそく茜に連絡した。
「圭、ありがとうね。せっかくのお休みなのに。」
「大丈夫だよ。はるちゃんとデートしたかったから、ちょっと残念ではあるけど。」
「デート…?」
陽菜は顔を赤らめ、圭の言った気になる単語を復唱した。
前々から陽菜は圭から、その休みの日に予定を空けておいてほしいと言われていた。
ちなみにシフトの合わない二人はデートのように外に出かけたことは一度もなかった。
「うん。もし時間があったら、カフェでも行こう。」
「やった。どこかおしゃれなカフェ、調べておくねはるちゃん。」
圭は満面の笑顔を見せて喜び、恥ずかしくなった陽菜はつい顔を逸らした。
そして茜からも夕方なら匠と陽菜の家に集まれると連絡があった。
無事に話し合いの場を設ける約束をすることができ、陽菜と圭は一先ず安心したのであった。
しかしその前に大変なことが起きるとは、誰も想定していなかっただろう。
匠は両親からネグレクトという虐待に遭い、入所時は話すこともままらなかった。
そんな匠を茜は誰よりも気にかけて懸命に面倒を見てくれたのだという。
高校を卒業し孤児院を出た匠は、職が続かず転々としていた。
そして最終的にはホストクラブに身を置くこととなった。
しかし茜はそんな匠をいつでも応援してくれていたのだという。
今もホストクラブに通い、匠が頂点を取れるよう支えてくれていた。
匠はずっと茜を慕い恋をしていた。
しかし仕事柄もあるし、今更照れ臭くて気持ちを伝えられずにいたのであった。
「赤ちゃんができたって聞いて、めっちゃ嬉しかったです。俺、ホストから足洗って昼職見つけて、茜と結婚して子供を養っていきたいです。」
そう言う匠は前を向いて、笑っていた。
しかし出勤前なのにこちらが心配になる程涙を流したため、目が腫れていた。
普段は調子が良く楽観的な匠が、そんなに感情的になるほど茜を想っていたことに陽菜は自分のことのように感動した。
「それをちゃんと茜に話さないとね。」
「でも俺の話、ちゃんと聞いてくれますかね?また今日みたいになりそうで。」
「そうだよね。茜っていつも一人で自分のこと決めるよね。」
「それに、茜の不安な気持ちも痛いほど分かるんです。俺たち、親の愛情を知らないので…。」
「そっか…。」
そう、それが茜が子供を産む産まない、匠と結婚する結婚しない以前の一番の二人の問題だと陽菜は感じていた。
これから親になろうとする二人。
母親となる茜だけでなく、匠までもが辛い過去を持っていたからだ。
「一人にだけ、今日聞いた匠くんの話をしてもいい?私だけじゃ、自信がなくて。」
「圭くんにですか?」
「うん。圭にはちゃんと両親もいて関係も良好だから、茜と匠くんが温かい家族を築けるよう助言を受けられるかなと思って。」
「分かりました。俺たちのことなのに巻き込んじゃって本当にすみません。どうかよろしくお願いします。」
匠はそう言って席を立つと、陽菜に深く頭を下げた。
陽菜はまだ自分は何もできていないからと、匠を座らせようとしたが匠は体勢を崩さなかった。
匠はまた涙が溢れて、陽菜にも見せられないほどの顔になっていたのである。
そしてそのまま陽菜は一人でバーホワイトへ行った。
平日であったため店内も人が少なく、ちょうど今日はマスターが休みだった。
「圭お疲れ様。マルガリータちょうだい。」
「了解。はるちゃんもお疲れ様。」
陽菜は圭の作る美味しいカクテルと料理を堪能しながら、夕方あった出来事を話した。
圭は仕事をしながらであるが、親身に聞いてくれた。
「茜さん良かったね。俺、すごく安心したよ。」
「うん。私も。匠くん、茜のこと好きだったんだね。」
「あれ?はるちゃんは気付いてなかったの?匠の茜さんへの思いは結構分かりやすかったよ。」
圭はそう言うと陽菜の鈍感さに笑った。
確かに匠は茜によくちょっかいを出して喧嘩をしたりもしてたが、それは匠の愛情の裏返しだったのかと思い返した。
まあ圭はバーテンダーとして二人のやりとりも自分より多く見ていただろうし、人の感情に敏感だろうと陽菜は思った。
「何か二人をくっつける方法ないかなぁ?」
「うーん。とりあえず匠が素直になって、茜さんがちゃんとその話を聞くといいよね。」
「そうだよね。圭と私が一緒の休みの日に、2人を呼んで話し合いをしない?」
来週の半ばに二人のシフトが合った唯一の休日があった。
茜と匠のシフトと合わせるのは難しいかもしれないが、少しでも時間を合わせられるよう調整しようと陽菜はさっそく茜に連絡した。
「圭、ありがとうね。せっかくのお休みなのに。」
「大丈夫だよ。はるちゃんとデートしたかったから、ちょっと残念ではあるけど。」
「デート…?」
陽菜は顔を赤らめ、圭の言った気になる単語を復唱した。
前々から陽菜は圭から、その休みの日に予定を空けておいてほしいと言われていた。
ちなみにシフトの合わない二人はデートのように外に出かけたことは一度もなかった。
「うん。もし時間があったら、カフェでも行こう。」
「やった。どこかおしゃれなカフェ、調べておくねはるちゃん。」
圭は満面の笑顔を見せて喜び、恥ずかしくなった陽菜はつい顔を逸らした。
そして茜からも夕方なら匠と陽菜の家に集まれると連絡があった。
無事に話し合いの場を設ける約束をすることができ、陽菜と圭は一先ず安心したのであった。
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