felice〜彼氏なしアラサーですがバーテンダーと同居してます〜

hina

文字の大きさ
32 / 35
第七夜 恋と夢の着地点

「なんでこんなことになっちゃったんだろう…。」

街中のベンチにかけた陽菜は狼狽えていた。

まさに後悔先に立たずってところだ。
陽菜は寂しさや嫉妬の負の感情に任せて、とんでもないことをしてしまった。

「てかせっかくだしまだ飲もうよ、陽菜。夜は長いよ。」
「いや家に帰ります…。」

懐かしい相手を置いて、陽菜はとぼとぼと帰り道を歩いて行った。


時間は遡る、四時間前のことだった。
午後8時、バーホワイトにて。

「いらっしゃいませ。陽菜さん。」
「いらっしゃい。あれ、どうしたの陽菜ちゃん。また超優良物件と一緒にいるなんて。」
「マスターその言い方。」
「その方が噂の人ですね!」

マスターと新人バーテンダーから黄色い声を浴びせられ、陽菜は顔を引き攣りながら、噂の徹とソファー席へと座った。
そもそもどうしてまた徹と一緒にいるのかー発端は先週いきなり徹から連絡がきたことにあった。

ー大切なものをホテルに忘れてきたから、次の休日にそっちに行く。また近況聞かせてくれないか。

という徹の連絡に、心細かった陽菜は泣きついてしまったのである。
そして全く陽菜らしくない、圭を嫉妬させよう計画が始まった。

計画は最も簡単だ。
バーに徹と一緒に行き、ソファー席で二人楽しくお酒を飲むこと。
徹は単純な若い男ならそれだけでヤキモチを焼いて、向き合ってくれるようになると言っていた。

そんな言葉を鵜呑みするほど、ここ数ヶ月の陽菜の寂しさは確固たるものだった。
そして作戦施行、しばらくして遅番の圭が店に訪れるのであった。

「いらっしゃいませ。はるちゃん。徹さんもまた来てたんですか、ごゆっくり。」

出勤してから料理を配膳するついでに挨拶に現れた圭はいつもと変わらず、笑顔で接客をしあっさりと帰っていった。
そしてバーテンダーでは若い新人に指導しながら、和気藹々と笑い合う声が聞こえて来る。

結果、嫉妬したのは陽菜だった。
そして若い者同士の二人を見ると、一気に自信がなくなり落ち込んだ。
そんな陽菜を宥める徹、こちらもこちらでいい雰囲気が漂ってしまったのである。

若い女のバーテンダーは日付が変わる前に、退勤して行った。
落ち着いた店内を見計らい、徹は私用で電話をしてくるからと言い陽菜をバーカウンターに座らせた。

「まだ飲めそう?何か作ろうか?」
「テキーラショットで。」
「いいけど。どうかした?」

いつもと変わらない顔で対応する圭に、陽菜は苛々していた。
しかし内心は圭も気持ちが大きく揺さぶられていたことをやけ酒に走った陽菜は知らなかった。

「徹さん、またはるちゃんに会いに来たんだね。」
「そう、お休みだったから。」
「徹さんとはるちゃん、お似合いだよね。」
「お似合い…?」

圭がつい漏らした本音に、陽菜は信じられない顔をした。
ー自分たちは両思いではなかったのか。

そしてお似合いといえば、嫌というほど見てしまった圭と若い女性バーテンダーのツーショットが頭をよぎる。
陽菜の苛々は最も簡単に爆発してしまった。

「圭こそ、若い女の子と仲良さそうだね。そのまま二人でバーテンをして、ホワイトに残ったらいいんじゃない?」
「え?」
「私のことなんて気にしなくていいから。こんなおばさん。」
「はるちゃんだって徹さんとこのままより戻すの?また会うなんて、しかもホワイトに連れてくるなんていい度胸してるよね二人とも。俺、はるちゃんがそんな人だと思わなかった。」

それは陽菜と圭が初めて感情的に喧嘩をした瞬間だった。
キッチンで調理していたマスターが一気に険悪になった雰囲気を察した出てきた。

「まだお客さんいるんだから。痴話喧嘩はダメだよ。」
「痴話喧嘩じゃないよ、マスター。私達付き合ってもないもの。」
「はるちゃん…。」
「陽菜、ごめんお待たせ。」

そんな絶妙のタイミングで、徹が店内に帰ってきた。
マスターの目配せに何か悪いことが起きたことを察した徹は陽菜をソファー席に戻した。
陽菜はテキーラショットにやられたのか顔が真っ赤で、千鳥足でふらつくのを徹が身体に触れて支えていた。

「作戦失敗。帰ろう、徹。」
「うん。帰ろっか。」

そして陽菜は徹の腕を掴みながら、バーホワイトから出て行った。
その様子を圭はずっと儚げに見つめていたのを、陽菜は気付きもしなかった。

そして深夜の寒空に当たると、お酒に強い陽菜はすぐに酔いが解けて顔が真っ青になった。
悪いのは徹でも圭でもない、明らかに浅はかだった自分である。

ちょっと圭に焼きもちを妬いてほしかっただけなのに、逆に自分の心が嫉妬に蝕まれあらぬことを口走ってしまった。
一体どんな顔で家に帰ったらいいんだろう。
隣に未だにアプローチしてくる徹の声は、陽菜には聞こえてこなかった。

結局その日、圭は陽菜の家に帰って来なかった。
陽菜は落ち着かず眠れぬまま朝になり、後悔で何事も手につかなかった。

「どうしたら、いいんだろう。」



感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜ ※AI不使用です。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。