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第7話 親愛/対立
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「やっぱり、自然はいいね~。こんな風景見たの久々だ。」
誠は、リーナと共にのんびりと一本道を歩いていた。
周囲は見渡す限り野原で、真っ直ぐ伸びる一本道の先には森、その奥の方には山々が見える。
周囲に人工物はない。唯一あるのは、真っ直ぐに舗装された道だけである。舗装とは言っても、その部分だけ土を掘り返して固めた、地面の土が剥き出しになっている簡易的なものだが…
「この世界では、こんな光景がほとんどですよ。誠がいた世界は、こんな感じじゃないんですか?」
リーナが不思議そうに首を傾げながら聞く。
「俺が元いた世界は、真逆だったよ。周囲に見えるのは、全てコンクリートでできた建物ばかり。それが敷き詰められ、その隙間を埋めるように道がある。
都会の方じゃ、都市開発をやり過ぎて自然なんてほとんど残っていないんだ。そんな人工物に囲まれて、人々がひしめき合って暮らしてる。息苦しいもんさ…」
「コンクリート?」
リーナが不思議そうな表情で尋ねた。
「あぁ、この世界でいう頑丈な一枚の岩壁みたいなもんだ。」
「なるほど…四方八方、どこを見ても岩壁でそれに囲まれて暮らすのはなんだか閉鎖的で嫌な光景ですね。
まるで、牢獄にいるみたいで。」
「まぁ、文明が発達し人々が暮らし易さを追求した結果なんだろうけどな。木造に比べて燃えにくいし耐久性があるから。それに低い建物より、高い建物にした方が収容スペースが増えて利益につながるから、わざわざそり立つ壁のように高い建物を造ってるんだ。」
「あまり良いとは思えませんね…」
「だろ?人間が便利さを追求し過ぎた結果、本来あったはずの心の安定さを破壊し、それを置き去りにして行ってると俺は思うんだ。
現に、閉鎖的な空間にいることで、精神的に不安定になる人が増えて来たり、都会に住んでる人がわざわざ地方まで遠出して、山や森でキャンプをし始めたりしてるしね…」
「自然ってやっぱり大切なんですね。」
「そう思うよ。人間も本来は動物の一種、自然と隣り合って何万年、何億年と一緒に暮して来た。それを、急にほんの数百年の内に自ら創り出した人工物によって周りを囲み、生活し始めたんだ。違和感や不快感みたいなアレルギー症状が出て当然さ。」
「人類のルーツを辿ればってやつですね!」
「あぁ、俺は常に前に進み続けるよりも、時には振り返ることの方が大事なことだと思うんだ。」
「ルーツ……家族の場合も同じですね。自分が居て両親が居て、その両親にも更に親がいる。血筋を辿れば果てしなくどこまでも昔へ続く。そして、もしそのどこかで少しの誤差や違う変化があれば、いまの自分は存在しない。」
リーナが切なそうに言う。
「確かにな。両親か…」
誠が宙を見上げながら言った。
「誠の両親は、いまどうしてるんですか?」
すると、誠が急に立ち止まり、俯きながら言った。
「あぁ…話してなかったな。……母親はもう病気で他界してる。父親はいまのところ、行方不明。いつの間にか2人とも居なくなったんだ、俺のことをひとり置いて。その後も見受けが居ないから、ずっと孤児院で過ごしてきた… いまの俺には、もう誰も居ないんだ。」
前髪で表情は見えなかったが、その言葉から孤独と哀愁が漂っていた。
リーナはしばらく黙り込み、誠の目の前へ来た。
すると誠の顔に両手を添え、自分の方へ向けながら目を見てひとこと言った。
「私が居るじゃないですか!」
そう言うと、リーナはニッコリと微笑んだ。
誠はハッとしたような表情になり、つられて笑顔を浮かべた。そして、溢れ出る感情が頬をつたう。
「ははっ!そうだな、ありがとう。」
「まったく酷いですよ。傍にいる私のことを忘れるなんて!」
両腕を組み、プンプンとした様子で、そっぽを向いて冗談めかしにリーナが言った。
「ごめん、ごめん。悪かったよ。」
誠もわかっていた。彼女なりに自分を励まそうとしてくれているのだと。
するとリーナは誠を優しく抱きしめ、胸元で真面目なトーンの声で言った。
「いつでも私が傍に居るから、無理しないでね。」
リーナの姿は、まるで小さな子をなだめる母親のようだった。
ポツリポツリと降る小さな水滴で、リーナの着ている巫女の服が濡れる。
「小雨が降って来たな…」
「?…えぇ、そうですね。」
(まったく誠は、強がりなんだから…)
リーナは、誠を抱きしめたまま、その背中を優しくゆっくりとしたリズムでトン、トンと穏やかに叩く。
いままで誰に言うことも見せることもなかった、誠の心の奥底に秘めていた感情のダムが決壊したのだった。
誠は、次第に心が軽くなっていくのを感じていた。
「だって……かっこ悪いじゃん…」
「かっこうなんてどうでもいいんですよ。誠が勇敢で優しい人なのは知ってます。それで十分じゃないですか!」
青く澄み渡る空に、穏やかな陽の光が彼らを照らしていた。
しばらくして、誠が落ち着きを取り戻した後、再び彼らは歩き出した。
野原を抜け、木々が生い茂る森へ入る。
「その…ありがとな。」
「ふふ、構いませんよ。いつでも頼って下さいね。」
「あぁ、よろしく頼む。」
誠は照れたように言った。彼の表情にもう曇りの色は無かった。
「もっと甘えてくれてもいいんですよ?そうだ!宿に着いたら、今日は膝枕してあげましょっか??」
リーナがからかうように、悪戯な笑みを浮かべて言う。
「うん。じゃあ、よろしく。」
誠は少し赤面しながらも、それを肯定した。
「へ??」
リーナは、呆気に取られていた。
以前のように断られることを見越して言ったからだ。
段々と顔が誠以上に紅くなっていくリーナ。
「からかったつもりだったなのに…素直になりましたね。まぁ、私は嬉しいですが…」
そっぽを向きながらも、照れるリーナ。
リーナは誠が徐々に自分のことを受け入れ始めてくれていることが純粋に嬉しかった。
「あはは、自分から言っておいて、いまさら恥ずかしくなったのか?リーナ。」
誠は、リーナをからかい返す。
「べ、別に恥ずかしくないですよ。たくさんしてあげます!妻として当然ですから。」
「妻もだけど、半分はまるで母さんみたいだ。」
誠が無邪気に笑う。
「母親か…いずれなりたいものですね。」
「本物の母親になるには、まだまだこれからさ。取り敢えず戦をさっさと終わらせないとね!」
「そうですね!」
「こっから先の道は、どう進めばいいんだ?」
「ここを真っ直ぐ行って、突き当たりの道を左に曲がります。あとは、そのまま進めばリゼッタという町へ着きますよ。ちなみに、右へ曲がればアカルシア王国へ行けます。オーク達が残留している基地の近くを通る道なので、いまは危険ですけどね。」
「なるほど、その分かれ道を右へ行けば基地があるのか…」
誠は、オーク達の基地を襲撃する算段をしていた。
「1人で勝手に行かないでくださいよ?」
「え?」
どうやら、算段していたことがバレていたらしい。
リーナには、お見通しだったようだ。
「顔を見れば分かります。それに以前、誠が1人で行くと言っていましたが、心配なので私も行きます。」
「ダメ!それだけは、絶対にダメ!!流石に王女を戦場に連れて行く訳にはいかないよ。兄が居なくなって、いまの王位継承権はリーナしか持ってないんだろ?もし、死んじまったら国の後継者が居なくなる。そうなったら、どうするんだよ?」
思わず立ち止まり、リーナへ言う。
「国のことなんて、この際どうでもいいです。私の道は、私が決めます!」
噛み付くように反論する、リーナ。
「国のことを荷が重いと感じてるのはわかる…その歳でしっかりと自分の意思で生き方を選択しているのは、とても素晴らしいことだと思う。
だけどさ、自分よがりの生き方じゃダメだよ?
周囲の人がついて来れなくなるから。」
「それは…そうですが。」
リーナは、不服そうに目を逸らす。
「それに、オークの強さや怖さはリーナが一番よく知ってるでしょ?危ないから、来ちゃダメだ。」
誠は、玉砕覚悟だった。安全に戦うための策はある。
それでも、予想と現実は大きく異なるのが世の常。
もしかしたら、自分は死ぬのかもしれない。
だが、自らが望む理想を貫くためには戦う他ない。
愛してしまった、たった1人の女性のために。
敵を知った上で、強襲する策は既に考えてある。
しかし、それは自分1人で戦う場合…
もし、その女性がついて来てしまったら、たとえ自分の片腕を無くそうが、瀕死になろうが意地でも守り通し、元いた国へ帰さなければならない。
仲間を守りながら戦うのと、自分だけで戦うのでは大きく訳が違う。
この戦で勝利したとしても、彼女が生存していなければ、それは敗北と同じだ。
なんとしても、危険な地へ行かせる訳には行かない。
「で、でも!私だって戦います!必ず役に立てます!!誠がひとりで行って、帰って来るかもわからないのに、ただ待ち続けるなんて耐えられません!!」
彼女の言葉の根底にあったのは、誠が戦へ行ってもう二度と自分の元へ帰って来ないかもしれないという、漠然とした不安だった。
そして、2年前に起きた変えられない過去への後悔…
だからこそ、リーナは誠と共に行動したかったのだ。
たとえそれが、自分の命を危険にさらすことになろうとも。共に死ぬ覚悟さえ既に持っていた。
だから、リーナは……食い下がらなかった。
「私には、姿を消せる『透過』のスキルがあります。だから、自分の身は自分で守れます!」
「でもそれは姿が見えなくなるだけで、攻撃を受けない訳ではないだろ?
現に初めて会った時、姿は消えてたけど身体に触れれたじゃん!危ないから来るなって!」
両者の押し問答が続き、挙げ句の果てに言い合いになった。どちらにも、一切悪気はない。
相手を想うからこそ、自分の意見を譲れない。
お互いがお互いの身を心配するが故のこと。
そして言い合いの末に、とうとうリーナがしびれを切らしてしまった。
「もう、誠のバカ!知らない!!」
リーナは涙を流しながら、突然、背を向けたかと思うと、その場から消えてしまった。
彼女は、自身が持つ『透過』のスキルを使ったのだ。
「え、ちょ、リーナ!?おい!待てよ!!どこに行く気だよ!戻って来いって!」
誠は引き止めるが、その言葉は届かない。
この場から去って行く足音だけが聞こえた。
誠は、リーナと共にのんびりと一本道を歩いていた。
周囲は見渡す限り野原で、真っ直ぐ伸びる一本道の先には森、その奥の方には山々が見える。
周囲に人工物はない。唯一あるのは、真っ直ぐに舗装された道だけである。舗装とは言っても、その部分だけ土を掘り返して固めた、地面の土が剥き出しになっている簡易的なものだが…
「この世界では、こんな光景がほとんどですよ。誠がいた世界は、こんな感じじゃないんですか?」
リーナが不思議そうに首を傾げながら聞く。
「俺が元いた世界は、真逆だったよ。周囲に見えるのは、全てコンクリートでできた建物ばかり。それが敷き詰められ、その隙間を埋めるように道がある。
都会の方じゃ、都市開発をやり過ぎて自然なんてほとんど残っていないんだ。そんな人工物に囲まれて、人々がひしめき合って暮らしてる。息苦しいもんさ…」
「コンクリート?」
リーナが不思議そうな表情で尋ねた。
「あぁ、この世界でいう頑丈な一枚の岩壁みたいなもんだ。」
「なるほど…四方八方、どこを見ても岩壁でそれに囲まれて暮らすのはなんだか閉鎖的で嫌な光景ですね。
まるで、牢獄にいるみたいで。」
「まぁ、文明が発達し人々が暮らし易さを追求した結果なんだろうけどな。木造に比べて燃えにくいし耐久性があるから。それに低い建物より、高い建物にした方が収容スペースが増えて利益につながるから、わざわざそり立つ壁のように高い建物を造ってるんだ。」
「あまり良いとは思えませんね…」
「だろ?人間が便利さを追求し過ぎた結果、本来あったはずの心の安定さを破壊し、それを置き去りにして行ってると俺は思うんだ。
現に、閉鎖的な空間にいることで、精神的に不安定になる人が増えて来たり、都会に住んでる人がわざわざ地方まで遠出して、山や森でキャンプをし始めたりしてるしね…」
「自然ってやっぱり大切なんですね。」
「そう思うよ。人間も本来は動物の一種、自然と隣り合って何万年、何億年と一緒に暮して来た。それを、急にほんの数百年の内に自ら創り出した人工物によって周りを囲み、生活し始めたんだ。違和感や不快感みたいなアレルギー症状が出て当然さ。」
「人類のルーツを辿ればってやつですね!」
「あぁ、俺は常に前に進み続けるよりも、時には振り返ることの方が大事なことだと思うんだ。」
「ルーツ……家族の場合も同じですね。自分が居て両親が居て、その両親にも更に親がいる。血筋を辿れば果てしなくどこまでも昔へ続く。そして、もしそのどこかで少しの誤差や違う変化があれば、いまの自分は存在しない。」
リーナが切なそうに言う。
「確かにな。両親か…」
誠が宙を見上げながら言った。
「誠の両親は、いまどうしてるんですか?」
すると、誠が急に立ち止まり、俯きながら言った。
「あぁ…話してなかったな。……母親はもう病気で他界してる。父親はいまのところ、行方不明。いつの間にか2人とも居なくなったんだ、俺のことをひとり置いて。その後も見受けが居ないから、ずっと孤児院で過ごしてきた… いまの俺には、もう誰も居ないんだ。」
前髪で表情は見えなかったが、その言葉から孤独と哀愁が漂っていた。
リーナはしばらく黙り込み、誠の目の前へ来た。
すると誠の顔に両手を添え、自分の方へ向けながら目を見てひとこと言った。
「私が居るじゃないですか!」
そう言うと、リーナはニッコリと微笑んだ。
誠はハッとしたような表情になり、つられて笑顔を浮かべた。そして、溢れ出る感情が頬をつたう。
「ははっ!そうだな、ありがとう。」
「まったく酷いですよ。傍にいる私のことを忘れるなんて!」
両腕を組み、プンプンとした様子で、そっぽを向いて冗談めかしにリーナが言った。
「ごめん、ごめん。悪かったよ。」
誠もわかっていた。彼女なりに自分を励まそうとしてくれているのだと。
するとリーナは誠を優しく抱きしめ、胸元で真面目なトーンの声で言った。
「いつでも私が傍に居るから、無理しないでね。」
リーナの姿は、まるで小さな子をなだめる母親のようだった。
ポツリポツリと降る小さな水滴で、リーナの着ている巫女の服が濡れる。
「小雨が降って来たな…」
「?…えぇ、そうですね。」
(まったく誠は、強がりなんだから…)
リーナは、誠を抱きしめたまま、その背中を優しくゆっくりとしたリズムでトン、トンと穏やかに叩く。
いままで誰に言うことも見せることもなかった、誠の心の奥底に秘めていた感情のダムが決壊したのだった。
誠は、次第に心が軽くなっていくのを感じていた。
「だって……かっこ悪いじゃん…」
「かっこうなんてどうでもいいんですよ。誠が勇敢で優しい人なのは知ってます。それで十分じゃないですか!」
青く澄み渡る空に、穏やかな陽の光が彼らを照らしていた。
しばらくして、誠が落ち着きを取り戻した後、再び彼らは歩き出した。
野原を抜け、木々が生い茂る森へ入る。
「その…ありがとな。」
「ふふ、構いませんよ。いつでも頼って下さいね。」
「あぁ、よろしく頼む。」
誠は照れたように言った。彼の表情にもう曇りの色は無かった。
「もっと甘えてくれてもいいんですよ?そうだ!宿に着いたら、今日は膝枕してあげましょっか??」
リーナがからかうように、悪戯な笑みを浮かべて言う。
「うん。じゃあ、よろしく。」
誠は少し赤面しながらも、それを肯定した。
「へ??」
リーナは、呆気に取られていた。
以前のように断られることを見越して言ったからだ。
段々と顔が誠以上に紅くなっていくリーナ。
「からかったつもりだったなのに…素直になりましたね。まぁ、私は嬉しいですが…」
そっぽを向きながらも、照れるリーナ。
リーナは誠が徐々に自分のことを受け入れ始めてくれていることが純粋に嬉しかった。
「あはは、自分から言っておいて、いまさら恥ずかしくなったのか?リーナ。」
誠は、リーナをからかい返す。
「べ、別に恥ずかしくないですよ。たくさんしてあげます!妻として当然ですから。」
「妻もだけど、半分はまるで母さんみたいだ。」
誠が無邪気に笑う。
「母親か…いずれなりたいものですね。」
「本物の母親になるには、まだまだこれからさ。取り敢えず戦をさっさと終わらせないとね!」
「そうですね!」
「こっから先の道は、どう進めばいいんだ?」
「ここを真っ直ぐ行って、突き当たりの道を左に曲がります。あとは、そのまま進めばリゼッタという町へ着きますよ。ちなみに、右へ曲がればアカルシア王国へ行けます。オーク達が残留している基地の近くを通る道なので、いまは危険ですけどね。」
「なるほど、その分かれ道を右へ行けば基地があるのか…」
誠は、オーク達の基地を襲撃する算段をしていた。
「1人で勝手に行かないでくださいよ?」
「え?」
どうやら、算段していたことがバレていたらしい。
リーナには、お見通しだったようだ。
「顔を見れば分かります。それに以前、誠が1人で行くと言っていましたが、心配なので私も行きます。」
「ダメ!それだけは、絶対にダメ!!流石に王女を戦場に連れて行く訳にはいかないよ。兄が居なくなって、いまの王位継承権はリーナしか持ってないんだろ?もし、死んじまったら国の後継者が居なくなる。そうなったら、どうするんだよ?」
思わず立ち止まり、リーナへ言う。
「国のことなんて、この際どうでもいいです。私の道は、私が決めます!」
噛み付くように反論する、リーナ。
「国のことを荷が重いと感じてるのはわかる…その歳でしっかりと自分の意思で生き方を選択しているのは、とても素晴らしいことだと思う。
だけどさ、自分よがりの生き方じゃダメだよ?
周囲の人がついて来れなくなるから。」
「それは…そうですが。」
リーナは、不服そうに目を逸らす。
「それに、オークの強さや怖さはリーナが一番よく知ってるでしょ?危ないから、来ちゃダメだ。」
誠は、玉砕覚悟だった。安全に戦うための策はある。
それでも、予想と現実は大きく異なるのが世の常。
もしかしたら、自分は死ぬのかもしれない。
だが、自らが望む理想を貫くためには戦う他ない。
愛してしまった、たった1人の女性のために。
敵を知った上で、強襲する策は既に考えてある。
しかし、それは自分1人で戦う場合…
もし、その女性がついて来てしまったら、たとえ自分の片腕を無くそうが、瀕死になろうが意地でも守り通し、元いた国へ帰さなければならない。
仲間を守りながら戦うのと、自分だけで戦うのでは大きく訳が違う。
この戦で勝利したとしても、彼女が生存していなければ、それは敗北と同じだ。
なんとしても、危険な地へ行かせる訳には行かない。
「で、でも!私だって戦います!必ず役に立てます!!誠がひとりで行って、帰って来るかもわからないのに、ただ待ち続けるなんて耐えられません!!」
彼女の言葉の根底にあったのは、誠が戦へ行ってもう二度と自分の元へ帰って来ないかもしれないという、漠然とした不安だった。
そして、2年前に起きた変えられない過去への後悔…
だからこそ、リーナは誠と共に行動したかったのだ。
たとえそれが、自分の命を危険にさらすことになろうとも。共に死ぬ覚悟さえ既に持っていた。
だから、リーナは……食い下がらなかった。
「私には、姿を消せる『透過』のスキルがあります。だから、自分の身は自分で守れます!」
「でもそれは姿が見えなくなるだけで、攻撃を受けない訳ではないだろ?
現に初めて会った時、姿は消えてたけど身体に触れれたじゃん!危ないから来るなって!」
両者の押し問答が続き、挙げ句の果てに言い合いになった。どちらにも、一切悪気はない。
相手を想うからこそ、自分の意見を譲れない。
お互いがお互いの身を心配するが故のこと。
そして言い合いの末に、とうとうリーナがしびれを切らしてしまった。
「もう、誠のバカ!知らない!!」
リーナは涙を流しながら、突然、背を向けたかと思うと、その場から消えてしまった。
彼女は、自身が持つ『透過』のスキルを使ったのだ。
「え、ちょ、リーナ!?おい!待てよ!!どこに行く気だよ!戻って来いって!」
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