チーター (cheater)

ヨル

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第10話 敵地偵察(リーナサイド)

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リーナは意を決して大きな足跡を追って茂みへ入る。しばらく突き進むと開けた野原のような場所に辿りついた。そこで、ようやく2体のオーク達の後ろ姿を目で捉えることができた。

2体のオークは、ともに大木を根っこから引っこ抜いた状態で肩に担ぎ、何かを話しながら野原を真っ直ぐに歩いていた。

その姿は、2~3m近くある巨体でやや緑色をした肌をしていた。その肉体は背中や肩の筋肉の形が、遠目からでも見て取れるほど、無駄のない肉体だった。あの筋肉から生み出されるパワー…

人間が一度でも攻撃を受ければ、ただでは済まない理由がなんとなくわかる。
一定の距離を保ちながら、後をつけるリーナ。

そして、とうとうオーク達の基地に辿り着いた。
少し離れた高地の茂みから、敵陣を観察する。
幸いなことに敵陣は、いま居る場所より低地にあるため、陣営全体が見渡せる。

オーク達は、隙間なく大きな丸太を地面に打ち立てて壁を作り、基地全体を覆っていた。出入り口は東西南北の4箇所のみのようだ。
出入り口には、オークの門番が両端に1体ずつおり、門を入った先には真っ直ぐに道が伸びている。

その突き当たりには、一番大きなテントのような建物があり、その周りを囲むように小さなテントが建てられていた。テントのような建物は、見た感じとても簡易的なもので、ただ木の支柱・骨組みに布を1枚張ったような感じだった。
中心のテントから十字に東西南北の4方向へそれぞれ通り道が伸びている。

全体の規模は、先程までリーナ達がいたサルダンの村と同等かそれ以上であった。
前に聞いた話では、ここに約1000体のオーク達が居るという。

(思った以上に規模が大きい…それに、これほどの基地を作り、警備を張るほどの知能を彼らは持っている。)

リーナは、思わず足がすくんでしまう。

(誠、こんな強大な敵に1人で挑もうとしてるんだ…私も少しでも助けになるよう、頑張らなきゃ!)

そう思うと、ここで引き返す訳にはいかない。
自分がもし戦うなら、敵の『何を』知りたいか考えた。

(既に敵の規模とだいたいの人数、種族の基本的なステータスはわかってる。オーク達がいままでの戦闘で魔法やスキルなどの不思議な力を使ったと言う話は一度も聞いたことがない。おそらくは、[そもそも能力が無い]か、あるいは[種族でスキルが固定されている]かのどちらかのはずだわ。
オークの特徴は、体が頑丈で剛力なこと…となるとスキルがあったと仮定して、どちらかの特徴を強化しているに違いない。

闘う上で、何を知りたいか。もし私だったら…

①敵が使っている武器の種類や防具等の装備。
②軍の指揮を取る総指揮官の居場所。
③今後の侵攻予定など、敵の動きがわかればなお良しかな。そして、④だいたいの設備や配置かな…)

敵について調べたいことを、事前に頭の中でリストアップし、侵入方法を考える。
2体の門番は、アカルシア王国や他の町や村に近いからかひどく警戒はしている。

先程の後をつけた2体のオークも、基地内に入る際、見た目からして顔パスかと思いきや、そうという訳ではないようだ。距離が遠くて言葉は聞き取れなかったが仕草からいって、おそらく何か合言葉のようなものを確認していた。

変装やスキルで見た目を真似した者など、外部の侵入者が基地内に入らぬよう、警備を徹底しているようだった。これでは、リーナの『透過』スキルを持ってしてもそう簡単には侵入できない。

自身の姿や影は消せる…たが、体を消すことは出来ない。そのため、スキルを使っていても相手は自分の体に触れることができるし、移動時に発する足音や呼吸音、匂い、かき分けた草木の揺れなどは常に起こる。つまり、真正面から堂々と敵の存在を無視して侵入できるわけではないのだ。
敵に近づき過ぎることは、リーナにとって危険な死のリスクとなるため避けなければならない。

(門番は2体、いまの警戒レベルで真ん中を通れば確実に敵に気付かれる…なら、どうしようかな。)

リーナは茂みの中で考え込む。
太陽が眩しいくらいに輝いていた。

(太陽が眩しい…14時か15時ぐらいかな。誠はいま頃、どうしてるんだろう。私を探してくれてたりするのかな?はは、なんてね…)

その時、ドーンッという大きな物音がオークの基地の方角から聞こえた。
門番も一瞬、後ろを振り返り門番同士で何か話し込んでいる。
リーナがいる高地の茂みからは、その物音の正体がすぐにわかった。

先程、後をつけていた2体のオーク内、1体が肩に担いでいた大木を、道につまずいて地面に落としたのだ。
周囲のオーク達も、突然の出来事に何事かとざわついている。

(この状況、どっかで見たことあるような…)

「はっ・・・!!」

リーナの頭の中に、ある記憶がよぎる。

(フラッシュバンの時だ。ジェイドが起爆してしまい、爆発寸前に急いで窓の外に投げた後だ!宿を出たら、村人達が強い光と音を感じて何事かと混乱してざわついてた…)

「まるで、人間みたい…」

その後の様子を遠くから見ていると、つまずいて転けたオークに近くに居たオークが駆け寄り、手を貸して立ち上がらせた。そして、体についた土や塵を払ってあげ、転けたオークに何かを伝えた。すると、地面に落とした大木の片側を持ち上げ始め、運ぶのを手伝い始めた。
不注意を責めることもせず、ただ自分だけ良ければそれでいいというわけでもなく、他者を思いやり、協力していた。それはまるで、人間だった。

「いや、違う。人間と同じなんだ…」

リーナは、これから始まる戦争のことを考えながら、オーク達を見ていてなんだか切ない気持ちになった。
戦争となると、彼らと殺し合うことになる。
いままでの進軍で、オーク達が敵対した様々な種族や自国の兵士達、その他の人間を散々殺しまくっていることは、火を見るよりも明らかだろう。
現にここに基地を作って場所を占拠しているのだから。

だがしかし、誰かを殺したやつならば、そいつを殺してもいいというのは果たして正しいのだろうか?
家族や友達がやつらに殺されたとなれば、殺した者の死を望むだろう。
だが、殺した者にも家族が居て友達がいる。
つまり、報復を続ければ、殺った殺られたを輪廻のように永遠に繰り返すことになるだろう。
だがこれは戦争…もしそうなったとしても、仕方がないと言えるだろう。
殺るか、殺られるかの世界…それが戦争なのだから。

そもそもオーク達の種族は、スライムなどとは違い、自分の複写や分裂なんかで自然発生するような種族ではない。つまり…

「…家族とかいるのかな?」

リーナは、ふと考えてしまう。
戦争に余計な詮索や情など不用なことはわかっている。だが、そうせずにはいらない。

指示通りに動く傀儡やロボットのように、なにひとつ感じず、ただただ目の前の敵をひとり残らず殺し続けることができれば、立派な兵士だろう。
だが、それはもう人間ではない。
心を持たないと言うことは、ある意味、人間を辞めると言うことだ。

「そもそも何で進軍するんだろ…調べたいな。」

素材を加工して基地を作り、他者との協力もできる高度な知能を持っている。
目的がわかれば、殺し合わなくても済むかもしれない。

リーナは、思考を戻して先程の様子を思い出す。

(オーク達は音に反応していた…これなら、門番の注意を引くことができるかも。)

基地侵入への算段が立った。

ただ、いま中へ侵入したとしても、基地内ではオーク達が至るところに点在している。
テント内で休む者、道を歩く者、道端で仲間と話す者、火を囲み食事をする者などバラバラだ。
これでは、こちらが気をつけていてもばったり鉢合わせする恐れがある。

(こうなったら、日が沈むのを待って寝静まったところを潜入するしかない!)

ちょうど陽が傾き始め、夕方ぐらいになっていた。
リーナは、夜になるまでそのままオーク軍の基地内を監視することにした。


同刻、誠は町の中央にあるアーシャがいる神殿を目指して進んでいた。その場所は、すぐにわかった。
なぜなら、この町で一番高い塔のような建物が中央付近に見えていたからだ。

神殿ということは、神に近い場所…本来なら、山の上など空が地上より近い、標高の高いところに建てるはずだ。平地で山がないとなると、建物自体を高く高く作るはずだ。

「きっとあそこに違いないな。」

誠は、町の中の様子を見ながら、塔のような一番高い建物を目指すことにした…
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