虐げられた仮面の姫は破滅王の秘密を知る

涼月

文字の大きさ
21 / 36

温かな鼓動(エクレールside)

しおりを挟む
 か、可愛過ぎるだろ!

 俺は心臓をグワッと鷲掴みされたような感覚になった。
 対人免疫が無い上に、女性への免疫も無い。
 そんな俺に、この笑顔は危険過ぎる。
 この笑顔は、俺の何かを破壊する。

 ティアナ姫の無垢な笑顔が、こんなに破壊力を持っているとは、恐ろしい。

 いや、嬉し過ぎる。

 ニヤける顔をどうにかしようと思ったら、超絶変顔になってしまったらしい。
 目の前のティアナ姫が固まっていた。

 マズイ! 早く大丈夫だと伝えなければ。

 そして、ふと冷静になる。
 こんなに心臓がバクバクしているのに、魔力が暴走していない。

 良かった。彼女を傷つけないで済んだ。

 体中の力が抜けてしまうほどの安堵感に包まれた。

「え、笑顔が……素敵だ」

 ぱあっと赤くなるティアナ姫の顔。

 あ……ダメだ。トドメを刺されてしまった。

 彼女の白い肌に触れたい。
 柔らかな金の髪を撫でたい。
 細い肩を抱きしめたい。
 優しい言葉を紡ぐ唇に……

 ごくりと唾を飲み込んで、我に返る。

 俺は何をしようと思ったんだ?

 吸い寄せられる威力に逆らって、必死の思いで視線を外した。

「これでもう、この執務室では仮面を外していられるだろう」
「はい。ありがとうございました」
「別に、礼を言われるようなことじゃない。そなたの権利だ」

 もっと一緒にいたい。そんな欲望を無理やり抑えこんで俺は立ち上がった。

「今日はこれで」
「そうですよね。お疲れになられましたよね」
「別に、疲れてはいない」
「……良かったぁ」

 良かっただと! 優し過ぎる。

 過剰反応を続ける心臓。
 今までは恐怖を呼び起こすだけだったこの鼓動が、今は温かな想いを伴って体中を駆け巡っている。

 彼女と出会えて良かった―――

 切実にそう思った。

「ティアナ姫」
「はい」

 真っ直ぐに俺を見つめる瞳は曇りない翠。

「ありがとう」
「はい!」

 嬉しそうな笑顔が、俺をまた癒してくれた。


 パタリと扉を閉じてから、俺は我慢し続けていた歓喜を爆発させる。

 よっしゃー!

 右手を天へと突き上げてから、ベッドへ飛び込む。
 ごろごろと布団の上で身もだえしながら、先ほどまでの出来事を頭の中で反芻した。

 俺の妻は可愛すぎる!
 妻……良い響きだ。

 しばらくそうやって、バクバクの心臓を味わい続けていたら、急にチクリと痛みが走った。

 これは……怒りだ。

 俺の大切なティアナを苦しめたローグ王。
 許さん!
 
 バチバチバチっと体から電気が発し始める。

 まずい! また暴走してしまう! 
 ようやく、魔力のコントロールができるようになったのに。
 嫌だ。もう、元に戻りたくない!

 俺は必死でティアナの顔を思い出そうとした。

 そうだ! 

 まずは、あの仮面は処分させよう。

 代りに俺が新しい仮面を。俺とお揃いの仮面を作ってあげよう。

 怒りの次に訪れた楽しい想像で、なんとか暴走を食い止めることができたようだ。
 初めての成功体験に、俺はまた嬉しくなる。

 ティアナ姫、ありがとう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...