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~エピローグ~
~美桜の道~
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一方、現代日本。
こちらも同じく二人が倒れた日の翌日。
美桜の部屋に徹、結、要、それに原さんや峰岸君が揃っていた。
原さんや峰岸君に関しては、要が悪いとは思ったが、美桜の携帯を使って呼んだのだ。
五人はいまだ目を覚まさない美桜の寝顔を心配な表情で見つめていた。
「う…うーん……。」
皆が見守る中美桜は目を覚まし、まだぼやんやりとしている中、頭だけを動かし、現状を把握しようと辺りを見渡した。
「……カノン…ちゃん?大丈夫?」
目が覚めた美桜の顔を、覗き込みながら声を掛けたのは原さんだった。
「……いのり…ちゃん…?どうして…ここに…学校は…。というより…ここ…日本?」
美桜はゆっくり体を起こし、何度も瞬きをして意識を覚醒するのに努めた。
「…今夏休みだよ…。えっと…カノンちゃん?それとも…美桜ちゃん?」
「夏休み……。(てことは日本ですね…。)…私…美桜です…。」
美桜の意識が段々とはっきりし、少しだけ状況を把握したところで、原さんに抱き着かれた。
「美桜ちゃん!!良かった~!!また倒れたって聞いたから、どうなるかと不安だったんだよ~!!おかえり!!!」
「い、いのりちゃん…。ご心配お掛けしました……ただいまです。」
原さんは抱き着いていた体を離し、少し涙を浮かべながらも安堵した表情を浮かべた。
「本当…よかった…。おかえり…美桜ちゃん…。」
「雅…君…ただいまです。」
「美桜………美桜!!おかえりなさい!!無事に目覚めてくれてよかった!!」
原さんの次に峰岸君が声を掛け、美桜に優しく微笑んだ。
美桜も峰岸君に応えるように微笑みを返した。
峰岸君の次に声を掛けたのは母の結だった。
結は、目が覚めてくれた事に嬉しさが込み上げ、美桜を抱きしめた。
「お母さん…ただいま…。」
美桜を抱きしめる結の後ろに立ち、少し腰をかがめて結の体に手を添えながら、父、徹も声を掛けてきた。
「おかえり…美桜…。皆心配していたんだ…よかった…目が覚めてくれて…。」
「お父さん…ただいま…。……えっと…お兄ちゃんも…?」
美桜は徹の『皆』と言う言葉に要の方をチラッと見ると、不愛想な表情をした要が結と徹の後ろに立っていた。
美桜を抱きしめていた結が体を離し、美桜に優しく微笑んだ。
「不愛想に見えるけど、一番心配していたのよ。」
「そうなの?」
「……別に…。だけどまぁ…おかえり…。」
「相変わらず素直じゃないね、お兄ちゃんは…。こういう時くらい、素直になればいいのに。」
「父さんまで…。俺が素直になるとか…今更だろ…。」
「……ふ…ふふっ…。」
美桜は家族のやり取りを眺めていたが、温かな雰囲気に安心からか自然と笑顔になり、笑いがこぼれた。
そんな美桜の様子を要は怪訝な表情を浮かべ、他の皆は疑問の表情を浮かべた。
「な…なんだよ…。」
「ううん…なんか…戻ってきたんだなぁって思って…。
私…向こうの世界でよくめまいで倒れて…何度も真っ白い世界の夢を見て…このまま夢から覚めないんじゃないかって思って…。
すごく寂しくて、心細くて…でも、今回見た夢でカノンちゃんに会えて、ちゃんと家に戻ってこれて…家族がいて…友達がいて…好きな人がいる…。
こんなに嬉しい事はないなって思って…。
私…一人じゃないなって思った。
皆…待っててくれて…心配してくれてありがとう。」
美桜は皆にフワッと微笑みを向けた。
「…美桜ちゃん…敬語…。」
「あ、ご、ごめんなさい…。」
「ううん…。そのまま…敬語なしがいいな…。」
美桜の言葉や笑顔に原さんが思いを伝えた。
「たしかに…原さんの言う通り…敬語なしがいいな。
すぐに全部は敬語が抜けないと思うけど…でも…僕も敬語なしの美桜ちゃんがいいな…。」
「……私…今まで自信がなくて…時々お兄ちゃんの言う通りに従って、いつの間にか敬語もクセみたいに身に沁み込んで…。
努力しても認めてもらえなくて…見向きもされなくて…一人だなって思って…。
でも…不思議な体験をして、私のアイディアとか認められて…周りの人達の笑顔が増えて…自信がいつの間にか持てるようになって…。
考えたり、行動するだけじゃダメで…自分の考えとか意見とか…伝え方に気を付けながら言葉にしないと伝わらないって学んで…。
カノンちゃんや、今までの体験のおかげで一人じゃないってわかって…。
家族とも距離縮まって…好きな人とも結ばれて…友達ともさらに仲良くなって…。
そんな大切な人達に『敬語なくてもいいよ』って言われるのは、なんだか…もっと仲良くなれたみたいで素直に嬉しい…。
……ありがとう。」
美桜はたどたどしくも、敬語をなくす事を意識しながら話した。
「……悪かったよ…。」
「ううん…。
もしかしたら…お兄ちゃんとの事がなかったら、カノンちゃんに会う事も、アルストロメリア王国に行く事も、雅君やいのりちゃんと距離を縮める事もなかったと思う…。
そう思うと、過去の事があって、今の私があるから……全部が悪い事じゃないよ…。
将来の夢も決まったしね。」
「…強くなったな…。」
要は力強く言う美桜の言葉に眉を下げながらも、滅多に見せない微笑みを美桜に向けた。
そんな二人のやり取りを見ていた徹が、美桜に疑問を投げ掛けた。
「将来の夢って?」
「…パティシエになりたい。
私…前はいろんな事につまらないって思っていたの…。
でも、いろんな体験をして、自分の考えを出す事で喜んでくれる人もいるって知ったから…。
だから…これからは、そんな言葉が出ないくらいちゃんと自分の考えを伝えていこうと思うの。
それで多くの笑顔を咲かせたい。」
美桜の言葉に皆は優しい笑顔を浮かべた。
「美桜の夢…素敵ね…。
私達に出来る事があったら、何でも言ってね。
全力で協力するわ。」
結は拳をグッと作り、意気込みを入れた。
「ふふっ…うん。
その時はよろしくね、お母さん…。
(私…本当にもぅ一人じゃない…。皆がいる…。
もぅ、つまらないって投げ出すのはやめる。
私…不思議な体験をしてよかった。
憧れのお嬢様の生活も出来たし…最後にお嬢様口調で話すなら…
中身が入れ替わったのでつまらないって言った事、前言撤回致しますわ!!)」
美桜は、自信満々に『夢を叶えてみせる』と皆に満面の笑みを見せた。
~美桜編・完~
こちらも同じく二人が倒れた日の翌日。
美桜の部屋に徹、結、要、それに原さんや峰岸君が揃っていた。
原さんや峰岸君に関しては、要が悪いとは思ったが、美桜の携帯を使って呼んだのだ。
五人はいまだ目を覚まさない美桜の寝顔を心配な表情で見つめていた。
「う…うーん……。」
皆が見守る中美桜は目を覚まし、まだぼやんやりとしている中、頭だけを動かし、現状を把握しようと辺りを見渡した。
「……カノン…ちゃん?大丈夫?」
目が覚めた美桜の顔を、覗き込みながら声を掛けたのは原さんだった。
「……いのり…ちゃん…?どうして…ここに…学校は…。というより…ここ…日本?」
美桜はゆっくり体を起こし、何度も瞬きをして意識を覚醒するのに努めた。
「…今夏休みだよ…。えっと…カノンちゃん?それとも…美桜ちゃん?」
「夏休み……。(てことは日本ですね…。)…私…美桜です…。」
美桜の意識が段々とはっきりし、少しだけ状況を把握したところで、原さんに抱き着かれた。
「美桜ちゃん!!良かった~!!また倒れたって聞いたから、どうなるかと不安だったんだよ~!!おかえり!!!」
「い、いのりちゃん…。ご心配お掛けしました……ただいまです。」
原さんは抱き着いていた体を離し、少し涙を浮かべながらも安堵した表情を浮かべた。
「本当…よかった…。おかえり…美桜ちゃん…。」
「雅…君…ただいまです。」
「美桜………美桜!!おかえりなさい!!無事に目覚めてくれてよかった!!」
原さんの次に峰岸君が声を掛け、美桜に優しく微笑んだ。
美桜も峰岸君に応えるように微笑みを返した。
峰岸君の次に声を掛けたのは母の結だった。
結は、目が覚めてくれた事に嬉しさが込み上げ、美桜を抱きしめた。
「お母さん…ただいま…。」
美桜を抱きしめる結の後ろに立ち、少し腰をかがめて結の体に手を添えながら、父、徹も声を掛けてきた。
「おかえり…美桜…。皆心配していたんだ…よかった…目が覚めてくれて…。」
「お父さん…ただいま…。……えっと…お兄ちゃんも…?」
美桜は徹の『皆』と言う言葉に要の方をチラッと見ると、不愛想な表情をした要が結と徹の後ろに立っていた。
美桜を抱きしめていた結が体を離し、美桜に優しく微笑んだ。
「不愛想に見えるけど、一番心配していたのよ。」
「そうなの?」
「……別に…。だけどまぁ…おかえり…。」
「相変わらず素直じゃないね、お兄ちゃんは…。こういう時くらい、素直になればいいのに。」
「父さんまで…。俺が素直になるとか…今更だろ…。」
「……ふ…ふふっ…。」
美桜は家族のやり取りを眺めていたが、温かな雰囲気に安心からか自然と笑顔になり、笑いがこぼれた。
そんな美桜の様子を要は怪訝な表情を浮かべ、他の皆は疑問の表情を浮かべた。
「な…なんだよ…。」
「ううん…なんか…戻ってきたんだなぁって思って…。
私…向こうの世界でよくめまいで倒れて…何度も真っ白い世界の夢を見て…このまま夢から覚めないんじゃないかって思って…。
すごく寂しくて、心細くて…でも、今回見た夢でカノンちゃんに会えて、ちゃんと家に戻ってこれて…家族がいて…友達がいて…好きな人がいる…。
こんなに嬉しい事はないなって思って…。
私…一人じゃないなって思った。
皆…待っててくれて…心配してくれてありがとう。」
美桜は皆にフワッと微笑みを向けた。
「…美桜ちゃん…敬語…。」
「あ、ご、ごめんなさい…。」
「ううん…。そのまま…敬語なしがいいな…。」
美桜の言葉や笑顔に原さんが思いを伝えた。
「たしかに…原さんの言う通り…敬語なしがいいな。
すぐに全部は敬語が抜けないと思うけど…でも…僕も敬語なしの美桜ちゃんがいいな…。」
「……私…今まで自信がなくて…時々お兄ちゃんの言う通りに従って、いつの間にか敬語もクセみたいに身に沁み込んで…。
努力しても認めてもらえなくて…見向きもされなくて…一人だなって思って…。
でも…不思議な体験をして、私のアイディアとか認められて…周りの人達の笑顔が増えて…自信がいつの間にか持てるようになって…。
考えたり、行動するだけじゃダメで…自分の考えとか意見とか…伝え方に気を付けながら言葉にしないと伝わらないって学んで…。
カノンちゃんや、今までの体験のおかげで一人じゃないってわかって…。
家族とも距離縮まって…好きな人とも結ばれて…友達ともさらに仲良くなって…。
そんな大切な人達に『敬語なくてもいいよ』って言われるのは、なんだか…もっと仲良くなれたみたいで素直に嬉しい…。
……ありがとう。」
美桜はたどたどしくも、敬語をなくす事を意識しながら話した。
「……悪かったよ…。」
「ううん…。
もしかしたら…お兄ちゃんとの事がなかったら、カノンちゃんに会う事も、アルストロメリア王国に行く事も、雅君やいのりちゃんと距離を縮める事もなかったと思う…。
そう思うと、過去の事があって、今の私があるから……全部が悪い事じゃないよ…。
将来の夢も決まったしね。」
「…強くなったな…。」
要は力強く言う美桜の言葉に眉を下げながらも、滅多に見せない微笑みを美桜に向けた。
そんな二人のやり取りを見ていた徹が、美桜に疑問を投げ掛けた。
「将来の夢って?」
「…パティシエになりたい。
私…前はいろんな事につまらないって思っていたの…。
でも、いろんな体験をして、自分の考えを出す事で喜んでくれる人もいるって知ったから…。
だから…これからは、そんな言葉が出ないくらいちゃんと自分の考えを伝えていこうと思うの。
それで多くの笑顔を咲かせたい。」
美桜の言葉に皆は優しい笑顔を浮かべた。
「美桜の夢…素敵ね…。
私達に出来る事があったら、何でも言ってね。
全力で協力するわ。」
結は拳をグッと作り、意気込みを入れた。
「ふふっ…うん。
その時はよろしくね、お母さん…。
(私…本当にもぅ一人じゃない…。皆がいる…。
もぅ、つまらないって投げ出すのはやめる。
私…不思議な体験をしてよかった。
憧れのお嬢様の生活も出来たし…最後にお嬢様口調で話すなら…
中身が入れ替わったのでつまらないって言った事、前言撤回致しますわ!!)」
美桜は、自信満々に『夢を叶えてみせる』と皆に満面の笑みを見せた。
~美桜編・完~
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