陽のあたる場所【加筆訂正中】

たまゆらりん

文字の大きさ
119 / 134

114

  軽自動車に乗り込むと、美空はシートベルトを着け、助手席に座る俺を横目でみながら話しかけてきた。



「柚希、寂しくなったら、いつでも帰ってきなよ。一人でもいいし、柊くんと一緒でもいいから。ご馳走作って、待ってるよ」

「んっ」



  美空の母親らしい温かい言葉に、鼻の奥がツンとする。
  「あっ、そうだった」と美空は思い出したように、後部座席へ置いてあった、紙袋を差し出してきた。



「陽人くんが柚希に渡してって。連絡はしたの?すごく、心配してるよ」



  陽人……

  久々に聞くその名前に、鼓動が早くなる。



「まだ……連絡してない……そのうち、必ずするから……」



  ーー陽人が……俺を心配してる…………陽人……



  震える手で、美空から紙袋を受け取る。
  ずしりと重い。



『あいつ、何渡してきたんだよ』



  イヤホンからは、ものすごく不機嫌な柊の声が聞こえる。
  紙袋の中身を見る。
 


「漫画……」



  柊に伝える為に、独り言のように呟いた。



「そう。柚希が好きそうな漫画、用意したんだって」



  その言葉に、美空が返事をしてきた。



「……ありがとうって、伝えといて」

「わかった。ちゃんと、陽人くんに連絡しなよ」

「…………うん」



  おしゃべりな美空が止めどなく喋っているうちに、白金市内に入っていた。
  車のBGMは美空が小学生の頃流行っていた、カリスマ女性アーティストの音楽で、美空は未だに彼女のファンだ。俺は小さい頃から聞いていて、古い曲だけど知っている。久々に聞いたから、妙に懐かしく感じた。
  あと15分も走れば、マンションに着く。



  マンション近くの、コンビニの駐車場へ車を停めた。二人で車から降りる。



「ちゃんと野菜食べて、好き嫌いしないでね。睡眠も、しっかり八時間は取るんだよ。あと、柊くんと仲良くね」

「美空、ありがとう」

「具合悪くなったら、柊くんに言って…すぐ病院へ連れて行ってもらってね……我慢しちゃ、ダメだよ……柚希は何でも……いっぱい……我慢……しちゃうん……だから…………」

「美空……泣きすぎ……」



  泣きながら話を続ける美空。
  さっき貰ったポケットティッシュで、美空の涙を拭いた。



「柚希、少し背が伸びたね……」



  美空と同じ位だった背丈がいつの間にか、ほんの少し美空を越していた。

  美空と離れて、1ヶ月も経ってないのに……

  時間の流れを感じた。

  ジリジリと太陽が、駐車場のアスファルトに照りつける。
  あまり汗掻きじゃない俺と美空のこめかみに、玉のような汗が吹き出し、ツーと流れた。



「もうすぐ、夏休みだね……柚希……泊まりに帰ってきなよ……」

「わかった。美空、暑いって。それに、恥ずかしいし……」

「もう少しだけ……なかなか、会えないんだから……」



  少し小さくなった美空が、俺を抱きしめていた。
  泣いたまま、暫く離してくれなかった。










  鍵を開け、クーラーの効いていない、熱気の籠った家の中へ入る。
  外出中の柊とは、まだ電話は繋がったままだ。



『何の漫画?』



  柊に言われ、紙袋から漫画を出してタイトルを伝える。



「“シシリアンの唄”、“異世界からの帰りかた”、“ルートくんは眠らない”、“アイアンマン”、“天空の彼方に”」



  タイトルを読み上げるも、電話の向こうでは手下が柊に声をかけて、深刻な感じで話し始めた。何かトラブルでもあったのだろうか。



『悪ぃ、急用だ。片付いたら、また電話する。……逃げるなよ』



  地元に帰り、陽人の名前を聞いて動揺する俺に柊は警戒し、低い声で脅すように言った。



「逃げないから……」

『絶対、約束守れよ』



  久々に聞く、ゾクッとする冷たい声。直後、電話はすぐに切られた。



  床に並べた漫画に触れる。
  なんとなく、陽人の温もりがするような感じがした。

  それにしても……
  全部1巻ならわかるけど、違う漫画なのにどうして巻数がバラバラなんだろう……



  眺めているうちに、涙が滲んできた。
  巻数の若い順に縦に並べる。



  アイアンマン 1巻
  異世界からの帰りかた 2巻
  シシリアンの唄 3巻
  天空の彼方に 4巻
  ルートくんは眠らない 5巻



  縦読みするとそれは……






  《愛してる》だった。






  今まで抑えていた、気持ちが一気に溢れ出す。

  もう、逢うことも触れることも出来ない、愛しい人。

  戻ることのないあの日々は、夢の中の出来事だって、諦めて心の奥に封印した。

  ずっと閉じ込めていた強い想いは、輝きを取り戻し、鮮やかに蘇る。






  ーー陽人に…………逢いたい…………





 
感想 9

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

元カレに追い出された専門学生がネカフェでP活相手のパパちんぽに理解らせられてトロトロのメロメロになっちゃう話

ルシーアンナ
BL
既婚子持ちバイ×専門学生 Pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27436158 ムーンライトノベルズ https://novel18.syosetu.com/n1512ls/ fujossy https://fujossy.jp/books/31185

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。