陽のあたる場所【加筆訂正中】

たまゆらりん

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119 ~成都 side~

  僕とせいじぃは、『夏休みの自由研究』と称して、白金市にある樋浦建設本社へ見学を申し込んでいた。

  今、会社の中で見学をしてる。
  案内役の女性は僕らと同じくらいの子供がいるらしく、穏やかで優しそうなお母さんって感じの人だった。社内の案内や説明をとても丁寧にしてくれて、「夏休み中、宿題いっぱいで大変よね。うちの子は毎年、ギリギリまでやらないのよ」と愚痴を溢していた。

  「少しメモした物を整理しても良いですか?」とお願いすると、「大丈夫よ、遠慮しないでゆっくりしていって。事務所の方にいるから、終わったら声掛けてね」と応接室へ案内をしてくれた上に、麦茶まで出してくれた。

  女性が部屋をあとにしたのを見届けると、これから脱出するはるはる達へ声をかけた。



「陽人も柚希も、気を付けて行くんだぞ」

「今のところ、会社の方で柊の動きは、何もないよぉ」



  予め会議室や休憩所、地下の駐車場と……
  柊が立ち寄りそうな場所へは、そういう仕事を生業にしている業者へ頼んで、前もって盗聴器を仕掛けてあった。

  他にも探偵を雇って柊の身辺を調査したり、ゆずゆずの居場所や学校を探したり……

  その資金や今回の作戦で掛かる費用は、全て佐倉家が出してくれる。
  せいじぃが父親に、援助してもらえるように懇願したみたいだ。
  父親は人助けになるならと、二つ返事で快諾してくれた上に、佐倉家が昔から付き合いのある業者を紹介してくれたり、いろいろと協力してくれた。
  大人の協力者が、せいじぃの父親がいてくれたお陰で、子供だけでは難しい事もクリアする事が出来た。



  僕が樋浦建設への潜入担当に選ばれたのは、僕の特技が役に立つからだろう。
  僕には、絶対音感と相対音感がある。
  それに加え、傾聴力が人より優れていた。
  右耳に盗聴器用の、左耳にスマホ用のイヤホンを付け、更に周りの音に気を付けながら、それぞれの音を聞き分けて理解する事が出来る。
  所謂、聖徳太子みたいな能力だ。

  せいじぃもそれぞれのイヤホンを持っているけれど、盗聴器用をメインに付け、動きがあったらスマホ用を付けて会話に参加する感じだ。



「会議は、まだまだ続きそうだ。その方が、こっちには都合が良いけどな」

「柊は苛立ってるねぇ……はるはるが宅配業者に扮して家に行った辺りから、ずっと指で机を叩いてる。スマホで監視カメラを、チェックしていたんだろうねぇ」



  会議は長らく続き、話し合いをしていたけど、意見が対立していて話がまとまらない。難航していて煮詰まってる感じだ。
  一人の男が「早いけど、ちょっと休憩にします」と言うと、ガタガタと椅子を引くが聞こえた。



「今から休憩に、入るみたいだよぉ」

『監視カメラの方は問題ないよ。ユズ先輩は、家を出た事になってるから』



  僕の言葉に、稀瑠空が即座に状況を教えてくれる。



『俺と柚希も順調に、予定してた逃亡経路を走ってる。柊の見張りにも気付かれてないし、順調だよ』



  はるはるも、現在の状況を教えてくれた。



「柊は喫煙所に移動した。静かだから、多分周りに人はいないようだ。スマホの操作音が聞こえる。今から電話をかけるのかもしれない。念の為、二人とも用心しろ」

『わかった』

『プルルルルル……』

『…………柊からだ』

『柚希に電話がかかってきた。今から、電話に出るよ。柚希、落ち着いてね』



  小さくゆずゆずが『うん』て言う声が聞こえた後、着信音が消えた。


『はい……』



  ゆずゆずが電話に出たみたいだ。



『今、どこにいる?』

『学校だよ。教室へ向かってる。どうしたの?』

『休憩になったから、心配で電話した』

『そっか……もう、教室へ入るから……』

『…………勉強、頑張れよ。会議が長引きそうで、迎えに行けるかわからない。その時はタクシー拾って、うちへ真っ直ぐ帰れよ』

『…………わかった』



  電話を切る音がして、ジッポが開く金属音とジリジリと火がつく音がした後、フゥーと煙を吐き出す音が聞こえる。
  その煙草の吸い方ですら、間隔が短く余裕がない。
  やっぱり、苛ついてる。
  操作音がするから、再びスマホを弄り出したみたいだ。



『3年C組の樋浦柚希の保護者です。お世話になってます。柚希と連絡がつかなくて……補習へは出てますか?……ええ、……はい。……本人から、欠席の連絡があった…………わかりました。ご迷惑おかけして、申し訳ございません。はい、失礼します』



  『ふざけんなよ!』という怒鳴り声と、ドンッと壁を殴りつける音がした後、乱暴なドアの開閉音がして、喫煙所から柊は出ていった。



「柊に気付かれた。柚希と陽人は安全な場所へ逃げろ。柚希のスマホは、追跡されるから電源を切った方がいい」

『ありがとう、征爾。電源切ったよ』

「柊の車のエンジン音が聞こえる……!そっちへ向かうかもぉ。はるはる、気を付けてっ!」

『わかった。ありがとう、成都』



  エンジンをかけて直ぐに車を発進させ、タイヤを鳴らしながら車は慌ただしく走り出した。






  ゆずゆずが拐われた、あの日の悔しさをーーー

  一度も忘れた事はない。
  もう二度と、あんな思いなんてしたくない。

  毎日のようにみんなで集まり、何度も作戦を考えては練り直して、漸く今日の決行へと漕ぎ着けた。






「はるはる、あとは頼んだよぉ!」

「陽人、よろしくな」

『ハル先輩、お願いします』

『はるさん、気合い入れてねっ』

《陽人先輩、柚希先輩をお願いします!》



『みんな、ありがとう。ここまで来れたのも、みんなのお陰だよ……本当に、感謝してる…………必ず、柚希を救い出すから』



  みんなの願いを背負い、そして愛する人を守る為、はるはるは力強く答えた。


 
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