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第4話

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運命の土曜日。
この日を少し楽しみにしていた。
友人からの誘いも断り、少し目覚まし時計を早めにセットした。
密かに体育館に行ってみようと考えたのだ。


しかし、今俺は草をむしっている。


なぜだ。

遡ること5時間前。

「真緒、あんた今暇?」

俺に声をかけたのは母だった。

「いや……忙しくはないけど…」

ギクッとした。
このパターンは母に頼み事をされるか、部屋を掃除しろのどちらかだ。
午後から向かおうと思っていたものだから、油断した。
俺はベットの上で携帯ゲームをしていたのだ。
やばい、と思った頃にはもう遅かった。

「今からばあちゃんの家行くから、支度して。」

「…なんで急に?」

「あんた、最後にばあちゃんに会ったの、いつ?たまには、ばあちゃんに顔見せに行ったらどうなのよ。」

(それ今日じゃなきゃだめ!?)

と、叫びたかったが、気持ちを押し殺した。
確かに、祖母の家には車で20分ほどの距離でありながらも、1年以上行っていなかった。
断る理由が見つからない、と、がっかりしながら支度をした。

そして案の定、祖母は喜んでいた。
畑でとれたメロンもご馳走してくれ、甘くてとてもおいしかった。(妹がほとんど食べたのだが、それは許してやろう。)
その後は腰が悪くなってきたという祖母のために、母と妹と俺で畑仕事を手伝うことになった。
虫がだめな俺は、震えながらトマトが植えてあるあたりの草をむしった。


そして今にあたる。

ここ数日でこんなにも後悔が溢れてくるものだろうか。
今日会えないとなると、次はいつになるんだろう。
小さくため息をついた。

1時間ほど経つと、少し休もう、と家の中に入った。
汗をかくのがあまり好きじゃない俺は、タオルを肌身離さず握りしめていた。
外では何かしらの虫が鳴いていた。
それに混じって、祖母と母と妹との会話が聞こえてきた。
遠くではあったが、聞き耳をたてることにした。
内容は部活の話だった。
春季大会で2位だったとか、なんとか。
そういえば、彼のチームの成績はどうだったのだろう。
あの様子だと、いい成績を残しているのではないか。
なんて考えていた。
すると、妹の口から、思いもよらない言葉が出てきた。

「今日、男子練習試合なんだって。夜の8時まであるって、がっかりしてたよ。」

えぇっ!?と、思わず叫んでしまった。
時計に目を向けた。
6時を過ぎていた。
家からよりも、祖母の家からのほうが学校までは距離が近い。
自転車では10分ほどで着くはずだ。
まだ、間に合う。

気づけば足が動いていた。

「えぇっっ!?お兄ちゃんどこ行くの!?」

「ちょっと、忘れ物した!!!!
取りに行ってくる!!!!すぐ戻るから!!」

咄嗟に出た言葉で返事を済まし、自転車の鍵片手に玄関を飛び出した。

祖父のであろう、少しボロの自転車にまたがり、ペダルを強くこぎだした。



外は夕日が照りつけていた。


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