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第7話

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未だに信じられない。
会えないと思っていたあの美少年と、
何気ない会話ができた。
しかも二人で連れションなんて…
口元が緩む。

俺は今、あの美少年のトイレを待っている。
さすがに中まで入るのは良くないと思い、入口の手前の壁に寄りかかっているが…
まさか年下だったなんて…

辺りを見渡せば、外は日が沈んでいた。
暗くなるのは時間の問題だろう。
休日の日の入りの時間帯となると、明かりの少ない校舎の中は、いつもより暗く感じる。

「待ちました?」

「うわあああああ!!!!!!」

ああああああああ、もう、なんで静かに忍び寄ってくるんだよ!!!
一層心臓の音が大きく感じる。
怯えながら彼の顔を見ると彼は大声ではないが、笑っていた。

「そんなにびっくりしなくても」

ああ、もう、そんな顔で笑わないでくれ。
どんどん自分が恥ずかしくなってくる。

「あ、なんて呼べばいいですか?」

へっ?、と首を傾げたが、ニックネームで呼んで欲しいわけでもないな、
と考えたので、

「七瀬、でいいよ、」

「わかりました。先輩なので、さんをつけますけど。俺のことは白野、でいいですよ。」

微笑みながら話すものだから、顔を直視できない。
とにかく、何でもいいから話をしよう。

話題を考えていると、あちらの方から声をかけてくれた。

「七瀬さん、LINO交換できますか?」

「あっ、うん!全然大丈夫!」

まさかの連絡先交換。
テンションはこれでもかというほど上がった。
表情には出ていたかわからないが、本当の本当の本当に嬉しかった。

俺は携帯を開いてすぐ、LINOをたちあげ、ID入力の画面にした。
すると白野は俺から携帯を奪い、慣れた手つきで自分のIDを入力した。
はい、と本の数秒で打ち終わり、再び画面を見て見ると『白野』という文字が追加されていた。

「今日の練習終わったら、俺も追加しておきますね。」

ただただ嬉しかった。
来てよかった。
そう思い、俺は頷いて笑い返した。


すると白野は黙り込んで俺を見つめた。
白野は少し微笑んではいるが、先ほどの雰囲気とは全く違い、別人のようだった。
少し怖くなり、何か悪いことをしてしまったのか、と思い返したが、見当たらなかった。
思わず目線を下に向けた。

それと同時に、白野が俺に近づいて来た。
何をされるのかわからず、肩をすくめ、目を瞑った。

首筋にぬるっとした感触がした。
一瞬何が起こったかわからなかった。
ぱっ、と顔を上げ、白野を見た。
舌舐めずりをし、俺の顔を見て微笑んだ。
すぐに白野が自分の首筋を舐めたことがわかった。

「な、、、、っっ!?」

白野は俺の反応を見るや否や、ニコッと笑い、この場の空気を遮るように、

「じゃっ、またLINOで!!」

そう叫びながら、俺に手を振って体育館へと走っていった。
後ろ姿が見えなくなるまで、俺は見つめていた。
いや、固まっていたというべきなのか。
ぽかんと、なんども瞬きをしながら立ち尽くしていた。


自分の顔の熱さで我に帰った。
足の力が抜けて、しゃがみこんだ。
多分耳まで赤くなっているだろう。

「っっ~~~~~~!」

急に首筋を舐められたことに驚いた。
しかも、あの彼に。
彼は何を考えたのかはわからない。
でも、嫌ではなかった。
心臓がうるさい。



なんなんだ。





この感情は。



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