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第四章 新しい始まりの日

4 人間のお客様ご来店

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  その声にわたしが振り返るとそこには、小顔で首が細くてショートヘアがよく似合っている人懐っこい笑顔の女性が立っていた。

「あ、真奈まなちゃん!  真奈ちゃんだ~どうしたの?  びっくりした、どうして沖縄にいるの?」

「沖縄旅行に来たのよ。わたしもびっくりしたよ。真理子ちゃんが真っ白なプリーツスカート姿でチラシを配っているんだもん!」

  真奈ちゃんは驚いたと目を見開きそして笑顔を浮かべた。

「えへっ、このプリーツスカート可愛いでしょ。わたし沖縄で古書カフェ店の店長になったんだよ」

  わたしはにっこりと笑い最後の一枚だけ残っていたチラシを真奈ちゃんに差し出した。

  わたしからチラシを受け取る真奈ちゃんこと浜道はまみち真奈ちゃんはこの沖縄に来てからみどりちゃんと離島の竹富島に行った旅先で出会った友達なのだ。

  同じ東京都出身ということもあり人懐っこい笑顔の真奈ちゃんと気がつくと友達になっていて今でも時々手紙やメールをしていた。

「あ、嘘~真奈ちゃんだ~」

  みどりちゃんが真奈ちゃんに気がつきこちらに小走りでやって来た。

「みどりちゃんもチラシ配っていたんだ!」

  真奈ちゃんは、驚いたと言って笑った。

  
ーーー

「わぁ~ここが真理子ちゃんとみどりちゃんが店長を務めている古書カフェ店なんだ!  うわぁ~レトロな雰囲気が漂っているね」

  真奈ちゃんは店内を見渡して言った。

「……あははっ、店長を務めているけどお客さんが全然来なくて、人間のお客さんは真奈ちゃんが初めてのお客さん……あっ、えへっ」

「人間のお客さんはわたしが初めて?」

  真奈ちゃんは不思議そうに小首を傾げた。

「……あははっ、なんでもないよ」

  口を両手で押さえて笑うわたしをみどりちゃんがギロリと睨んでいる視線を感じる。

「へぇーそうなの?  今、なんか人間のお客さんはわたしが初めてだって不思議なことを言ったように聞こえたけど気のせいなのかな?」

  真奈ちゃんは怪訝そうにわたしの顔を見る。動物のお客さんが来たなんて話してもきっと信じてくれないだろう。真理子ちゃんの頭がおかしくなったと思われるのがオチだ。

「もう、真理子ってば変なことを言うんだから。えっとね、まだお客さん一人も来てなくて、猫ちゃんがそこの入口から入って来たことがあるんだよ。真理子はそのことを言ってるのよ」

  みどりちゃんは店の入口を指差して、「可愛い猫ちゃんだったな」なんて一人でうんうんと頷いている。

「なんだ!  そうなんだね。妖怪とかお化けなんかが来たのかなと思ってびっくりしたよ」

  真奈ちゃんは納得したような笑顔をみせた。

 

「真奈ちゃん、わたしが作った沖縄のコーナーがあるんだよ。見てみて」

  話を変えようと思いわたしが作ったシーサーなどが並ぶ沖縄コーナーの一角に真奈ちゃんの腕を掴みぐいーと引っ張り連れて行った。

「もう、真理子ちゃんってばそんなに引っ張らなくても」

「あ、真奈ちゃんごめんね。でも、見てほしくて引っ張ってしまったよ。ほら、ここだよ」

  わたし自慢の沖縄ご当地コーナーを指差して言った。

  大好きなシーサーの置物をずらずらと並べヤンバルクイナなどの可愛らしいぬいぐるみや沖縄の世界と綺麗な青く輝く海などの写真集を置いた素敵な空間なのだ。

「あら、真理子ちゃんらしいね。シーサーがずらずらと並んでいる」

  真奈ちゃんはシーサーの置物を一つ手に取りクスクスと笑った。

「可愛いでしょう?」

  わたしはにっこりと笑った。

「うん、可愛いね。一つお土産に買っていこうかな?」

  真奈ちゃんはなんて嬉しいことを言ってくれるのだろうか。

「わ~い、ありがとう。じゃあ、特別にシーサーを一個おまけにしてあげるね」

  わたしは嬉しくなった。

「シーサーを正面に見て口が開いてる右側が雄で口を閉じているのが左側が雌だよ」

「へぇーそうなんだ。シーサーにも性別があるんだね。おまけしてくれるんだね。ありがとう」

  真奈ちゃんはわたしからシーサーの置物を受け取り嬉しそうに眺めた。

「お買い上げありがとうございま~す」

  真奈ちゃんがまりみど古書カフェ店の人間としてのお客様第一号となったのだ。
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