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第八章 喜びと涙
これからもまりみど古書カフェ店は元気に営業します
しおりを挟む壁に掛かっている時計の針を見ると夜の二十二時を指していた。こんな夜に扉をノックするのは誰かなと不思議に思いながらわたしは扉を開けた。
すると、息を切らした桃谷さんが扉の前に立っていた。
「桃谷さん、こんな時間にどうしたんですか?」
「わたしの猫、茶和に呼ばれた気がして来てしまいました。あ、ごめんなさい。茶和ってなんのことか分かりませんよね?」
桃谷さんは、そう言ってぺこりと頭を下げた。
「茶和ちゃんなら部屋の中にいますよ」
わたしは、にっこりと笑った。
「茶和がここにいるんですか?」
桃谷さんの顔がパッと明るくなった。萎んでいた花が突然開いたようなそんな笑顔だった。
「中へどうぞ」
どうか、神様、桃谷さんの瞳に茶和ちゃんが映りますようにとわたしは願った。
「茶和ちゃん、桃谷さんだよ~」
わたしは、店内でさんぴん茶を飲んでいる茶和ちゃんに向かって言った。
「澄花ちゃんですかにゃん」
茶和ちゃんの可愛らしい声が聞こえてきた。
「茶和、どこにいるの? あ、吉田さんこんばんは」
店の中に入って来た桃谷さんは吉田さんに気づき挨拶をした。
「こんばんは桃谷さん、茶和ちゃんはここにいますよ」
吉田さんは、茶和ちゃんを抱っこして桃谷さんに見せた。
お願いだから茶和ちゃんの可愛らしい姿が桃谷さんに見えますように。わたしは、心の中で強く強く願った。
すると。桃谷さんのその目は大きく見開かれた。
「……あ、茶和? うそ、茶和なの?」
桃谷さんは、吉田さんが抱っこしている茶和ちゃんの頭に手を伸ばしそっと撫でた。
見えたんだ。わたしの願いが届いたんだ。良かったと嬉しくなった。
茶和ちゃんの姿が桃谷さんに見えたんだ。
「澄花ちゃん~会いたかったですにゃん」
「茶和~」
桃谷さんは、茶和ちゃんを吉田さんから受け取り抱っこした。そして、茶和ちゃんの顔に頬をすり寄せ泣いた。
「真理子、桃谷さんと茶和ちゃん良かったね」
「うん、みどりちゃん、良かった~良かったよ」
「真理子、泣いてるの?」
「みどりちゃんこそ!」
気がつくとわたしの頬に伝う涙の温もりを感じた。みどりちゃんも嬉し泣きしていた。
「梅木さん、並木さん、ありがとうございます。茶和ちゃん達が見えるお二人にはきっと何か大きな力があるのかなと思っていましたよ」
吉田さんは猫のような幸せそうな笑顔を浮かべて言った。
吉田さんのその笑顔をずっと見ていたいなと思った。この古書カフェ店に茶和ちゃんに導かれるようにやって来たわたし。
きっと、この古書カフェ店でこれからもたくさんの幸せに出逢えることでしょう。
ハイビスカスのTシャツが眩しい吉田さんはまだまだ謎の人ではあるけれど、分かったことも何個かある。
この古書カフェ店は吉田さんがおじいさんから譲り受けたとのことらしい。けれど、吉田さんはまだ大学生なので店長を探していたとの事。
「えっ、吉田さんはまさかの年下ですか?」
わたしが目を大きく見開き聞くと、
「いいえ、俺は大学を留年しているので二十六歳ですよ」
なんて言ってクスクス笑う。留年なんてくそ食らえらしい。
みどりちゃんは、そんな吉田さんを見て「なんだか真理子と似ている」なんて失礼なことを言って笑う。
このまりみど古書カフェ店は吉田さんが大学を卒業してもわたし達に任せるからお願いしますと言ってわたしとみどりちゃんの肩をぽんぽんと叩いた。
この先の人生は何が起こるか分からないけれど、まりみど古書カフェ店で頑張って行こうかなと思う。
もふもふや不思議な人が集うこのまりみど古書カフェ店は今日も元気に営業中です。
さあ、皆さんいつでも待ってますよ。真理子とじゃんけんぽん対決をしましょうね。
もしかすると可愛らしい動物に会えるかもしれないですよ。癒しの空間にどうぞお越しくださいませ。
「完」
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