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死んだお兄ちゃんに会いたい

お兄ちゃんに会いたい

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  お兄ちゃんが生き返りますように。

  わたしは、お兄ちゃんが生き返ってくれるのであれば、なんでもします。だから、どうかお兄ちゃんをこの世に戻してください。

「お願いします」

  煉瓦造りの展望台の下でわたしは手を合わせて祈った。

  そう、この展望台の下でお祈りをすると、一つだけ願いを叶えてくれるという言い伝えがあったのだ。
わたしは、この言い伝えが本当だと信じている。

   だから、毎日祈っているのだ。

   信じている。というか信じないと、本当だと思わないと生きていくのが辛い。

   大好きだったお兄ちゃん、あなたにどうかまた会えますように。

  そして、わたしは展望台の階段をゆっくり一段一段上る。お兄ちゃんが事故で死んだ時は哀しくて苦しくて、何も手につかなかった。

   死んだなんて嘘でしょと思った。

   だけど……。

   わたしの大好きなお兄ちゃんは、もうこの世にいない。信じられない、信じたくなかった。

  だけど、辛いけれどこれが現実のようだ。

  こんなにも辛い現実なんて受け入れたくなかった。
この煉瓦造りの展望台の上から、小さな町を見渡すことができる。わたしの通う中学校も見える。

  そして、遥か遠くの知らない世界を見ることができる。わたしの住むこの町とは全然違う世界を……。

  だけど、わたしはこの町以外のことには興味がないのだ。

  わたしは、毎日ここへ来て、「お兄ちゃんにどうか会わせてください」と祈る。

   だって、この町こそがお兄ちゃんの生きた証しがある場所なのだから……。
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