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あの時あの場所で

学校そしてまさかのお弁当

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「で、あるからしてーーー」

  先生は、まるでお経を唱えるかのように教科書を読んでいる。

 時折、ごほんごほんと咳をする。

  黒板にはキュキュキュ、カツカツとチョークで文字を書く。

  お腹すいた。お昼まだかな?

 さっきから、わたしのお腹はぐーぐーっ本当にもうお腹は正直なんだから。

  わたしは、窓の外に目をやり窓から見える風景を眺める。誰も居ない校庭、木々に山々が広がる。

   今日はよく晴れている。こんな教室から抜け出して、秋が近づいた空の下を駆け回りたいな。

  
  お経が鳴り響くような退屈な授業も終わり、お昼休みになった。

  あーお腹が空いた。今日もゆかりと真由と机をくっつけてお昼ご飯を食べる。

「やっと授業終わったね。あの先生は教科書を読んでるだけみたいで退屈だよね」

   わたしが思っていることと同じことを真由が言った。

「でしょ、でしょ。眠くなるよね」

  わたしが、眉をさげて言うと、

「本当だよ、あれならテープでも流したらいいんじゃないの」とゆかりも言った。


  
  そんな話をして、お母さんが作ってくれたお弁当を食べようと、お弁当箱の蓋をわたし達三人は同時に開けた。

  え、え……。

  こ、これは何?  

  嘘でしょ!?

  お弁当箱の中身を見たわたしは、固まってしまった。

  だって、だって、そんな。馬鹿な……。

  
「史砂、どうしたの?」

「史砂?」

  わたしの異変に気がついた、ゆかりと真由が尋ねた。

  わたしは、すぐに答えることが出来なかった。

  だって、お弁当箱の中身が、お母さんがこんなお弁当を作ることなんてあるのかな?

   答えはないだ。

  そうなのだ。お弁当箱の中には、黒い黒い、嫌だよ、こんなお弁当。

  
「カ、カラスがお弁当箱の中いるんだよ……」

「え、カラスがお弁当箱の中に?  って史砂、ぼけりんこにも程があるよ」

  ゆかりの呆れたような声が遠くに感じられる。わたしは、暗い真っ暗な谷底にでも突き落とされたそんな感覚に陥る。

  何故、こんなことが起こるの?

  わたしが何かした?

  わからないよ。

  真っ白なご飯の上に真っ黒なのりを使い、カラスのその黒い姿が描かれていた。

「これを見て……」

  わたしは、ゆかりは真由にお弁当をみせた。

  
  わたしのお弁当箱を見た、二人は口をあんぐりと開け、目は飛び出すんじゃないかと言うほど大きく見開いていた。

「ふ、史砂、そのお弁当変わってるね……」

  ゆかりが、怖いとか不気味だよとか言わないのは気を使っているのだろう。作ったような笑みを浮かべている。

「その、のり弁は、真っ黒なカラスだよね?」

  真由も不思議そうな表情をしている。


  
  ご飯の上に真っ黒なカラス。ご飯の上に真っ黒なカラス。カラスがいるよ。

  カラス以外には、真っ赤な梅干しが一つだけだ。こんなお弁当をお母さんが作るはずない。

  では、これは何なの?   このお弁当は……。

  アハハ、カラス弁なんて笑えてくる。まさか、あのカラスがこのお弁当を作ったとでも言うのかな。そんな馬鹿なことあるわけないよ。

  頭がおかしくなりそうだ。

  
「史砂、史砂大丈夫?」

「ちょっとどうしたのよ?」

   ゆかりと真由の心配そうな声が頭の中に聞こえてくる。聞こえてくるけれど、遠くから降ってくるような、そんな感覚だ。

「史砂ってば……」

  ゆかりがわたしの肩をぽんぽんと叩いた。

「あ、ゆかり……。ごめんね、お昼中だよね。お弁当食べないとね」

 わたしは、お箸箱からお箸を取り出した。
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