55 / 83
お兄ちゃんと本
家
しおりを挟むその日はずっと保健室で寝ていた。家に帰るとお母さんが、心配そうにわたしの顔を見た。
担任の先生から電話があったらしくて、食堂の仕事はお父さんとパートさんに任せて、お母さんは、早めに夕飯を作ってくれた。
「いっぱい食べて大きくなるんだよ」
お母さんは、柔らかい笑顔を浮かべて言った。
「うん、まだまだこれから大きくなるよ」
わたしは、口を大きく開けて肉じゃがをむしゃむしゃと頬張った。
お母さんが作ってくれたご飯は美味しくてなにより、お母さんの気持ちがこもっていて涙が出そうになった。
「美味しいよ」
わたしは、そういいながら精一杯の笑顔を浮かべてご飯を食べる。
そんなわたしをお母さんは、ニコニコ眺めている。
「そう言ってもらえると作ったかいがあるわ」
美味しいよ。本当に美味しい。肉じゃがのじゃがいももホクホクしていた。
「さあさあ、もっと食べてね」
お母さんは、そういいながらわたしのお茶碗にご飯を山盛り盛りつけた。
そして、わたしの目の前に、「どうぞ」と言って置いた。
「お母さん、そんなに食べられないよ」
だって、わたしのお茶碗にははみ出しそうなくらい大量なご飯が盛られているんだから。
「食べないとまた貧血起こしたら大変よ」
そう言ってお母さんはじっとわたしの顔を見た。
「分かった」
わたしは、お母さんに心配をかけたくないので、ご飯を口いっぱいに頬張った。
よく味わって食べるとご飯の味が甘くて美味しいな。お母さんに全部話したくなる。話してしまおうかな。
そう思うけれど、わたしを見つめるお母さんの表情が優し過ぎてやっぱり言えない。
お母さん、わたし、カラスにね追いつめられているの、それから今日はトイレに閉じ込められたんだよ……。
ねえ、お母さん、ねえ、お母さん、お母さん。本当は、お母さんーって言って泣きたいよ。
わたしは、まだ子供なんだからお母さんに甘えたい。だけど言えない。
「史砂ちゃん、どうかした?」
お母さんは、わたしの様子が変だと心配したみたいだ。心配そうにわたしを見つめ眉間に皺を寄せている。
「な、なんでもないよ~、あ、お茶飲みたいなと思って、お母さん喉渇いた~」
わたしは、無邪気そうな子供らしい笑顔を作ってみた。上手く表情がつくれたかは分からないけれど。
「お茶持ってくるわね」と言ってパタパタと台所に行くお母さんの後ろ姿を見つめると、なんだか眩しくて泣いてしまいそうになる。
わたしは、お母さんに淹れてもらったお茶を飲み、デザートにはおはぎを食べた。
おはぎとお茶はよく合い美味しかった。
今日は、疲れたから早く寝るねと言ってわたしは、二階の自室に早めに戻った。
部屋の明かりは点けないで、布団を敷いて横になる。だけど、寝つけない、保健室でも眠ったのであまり眠たくない。
起きていると、いろいろ考えてしまうから早く寝たいのに。
わたしは、眠ることを諦めて、布団から出た。
明かりを点けて、勉強机に座る。
カラスの本が机の上に置かれていて目をそらしたくなる。それからもう一枚のメモ書きが挟まっていた本もある。
わたしは、カラスの本ともう一冊の本を脇によけて、メモ書き二枚を机の真ん中に置いた。
わたしは、ただぼんやりとメモ書きを眺めた。それからしばらく何も考えないで机に肘をつき静かに目を閉じた。
息を吸って吐いてを繰り返し心を落ち着けた。
そして、わたしは目を開けた。
わたしは、メモ書きを開いてみた。
お兄ちゃんのあまり綺麗とはいえない文字で、『あのカラスの鳴き声が頭から離れない。夜眠る時に思い出す。そして、黒いカラスが出てくる夢を見た。カラスが、空を飛び木の枝に止まりカーカーッと鳴く』と書かれているのを眺めた。
あの黒くて黒くて、わたしを追いつめるカラスの姿が頭に浮かんだ。
あいつは、わたしだけではなくてお兄ちゃんのことも追いつめていたんだから本当に許せない。
まだ、他にもメモ書きはあるかもしれない。探してみよう。
わたしは、お兄ちゃんの部屋に向かい扉を開けた。
お兄ちゃんの部屋の明かりを点けた。
勉強机の引き出しをもう一度開けてみたけれど特にこれといったものはやっぱりなかった。
それから、本棚ももう一度確認して、それからベットの下も覗いてみた。
埃がすこし溜まっているだけで特に何もないや。だけど、これじゃまるで家捜しみたいだよね……。
思わずおかしくなって笑ってしまった。
わたしは、もう一度部屋中を見渡し、メタルラックの収納棚も覗いてみた。
収納棚の中には、雑誌やDVDなどが置かれていた。この映画観たかったんだよなと思うものもあるし、アクション映画とかわたしの好みとは大きくかけ離れているものもある。
ついでだから何か借りて行こうかなとSFタッチぽい海外ドラマを手に取った。
「お兄ちゃん、これ借りるね」と言っておく。
特に何もないかなと思ったその時、濃い青色の背表紙の何となく気になるものが目に入ったので、手に取った。
なんだろ? 日記帳かな?
わたしは、背表紙が濃い青色の分厚いノートをぱらぱらと捲ってみた。
そこには、お兄ちゃんの文字でぎっしりと何かが書かれていた。
やっぱり、日記帳みたいだ。
「お兄ちゃん、ごめんね……。読ませてもらうね」
わたしは、お兄ちゃんに詫びを入れてから、その分厚い日記帳を読み始めた。
そのノートにはいろいろと書かれていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる