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あの子の影に怯えて

この部屋に居たくない

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わたしは、濡れたジャンバーを脱ぎ急いで部屋着に着替えた。本当ならベッドに横になりゆっくりと休みたいのに、今はそんな気分になれない。

昨日の夜の恐怖と先程の白い影が気になってしょうがない。今日はこの部屋で寝るなんて堪えれない。

って、あ、そうだ。違う部屋に移ればいいんだ。そんな簡単なことにも気がつかなかったなんてわたしは馬鹿だ。空いている部屋ならたくさんある。

でもだよ、部屋を変わったからと言って、あの、『未央ちゃん』と囁く声は聞こえなくなるのだろうか……。

  
分からない。分からない。だけど、なんでもいいや。とりあえずは部屋を移ろう。

もしかしたら、あの『未央ちゃん……』の囁き声が聞こえなくなる可能性はある。わたしはそう思い荷物をまとめて部屋を出た。

部屋を出ると赤色の絨毯が敷かれた長い廊下がずっと続いている。そこにそれぞれの客室のドアがたくさんある。どの部屋がいいかな。誰も入っていない部屋を荷物を持ちながら物色するわたし。

と、その時ポンポンと肩を叩かれた。

思わず、びっくりして「ぎゃっ!」と声を出してしまった。恐る恐る後ろを振り返ると、京香ちゃんが立っていた。


  
「もう、未央ちゃんってば、どうしてそんなにびっくりしてるのよー?」

京香ちゃんはそう言って不思議そうな顔をしてわたしを見た。

「だって、突然現れるんだもん。びっくりしたよ」

「そっか、びっくりさせちゃったね。あれ?  未央ちゃんその荷物?  まさか帰るとか?」

京香ちゃんは、わたしが手に持っているボストンバッグを指差して尋ねた。

「ううん、違うのこれは。部屋を移ろうかなと思って……」

「え、どうして?」

「なんとなく、今の部屋はあまり好きになれなくて」

えへへっとわたしは笑って誤魔化した。


  京香ちゃんは、「ふ~ん、そうなんだ」と言って自分の部屋の扉を開けて部屋に入った。特にわたしの言ったことに興味を示さなかった。

わたしの部屋は京香ちゃんの隣の部屋だった。適当に部屋を選び、今度は京香ちゃんの真向かいの部屋に移る。

新しく選んだ部屋も大体の造りは同じで、木製の重厚感のあるクラシカルな机に本棚、食器棚などの家具が置かれていた。

やはりテレビは置かれていなかった。

木の香りが心地よい。

今度は何も起こらないと良いのだけど。
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