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第二章 中西真紀
卒業アルバム
しおりを挟む上の部屋から聞こえてきた物音はうるさくて嫌になったけれどさや荘のこの部屋は気に入った。今日からここがわたしの部屋になる。
わたしは台所に行き飲み終えたティーカップを洗い水切りカゴに置く。そして、部屋に戻りゆっくりと本でも読もうかなと部屋の隅に置かれた本棚の前に立つ。
本棚の一番下の段には雑誌などが並べられている。その中にある雑誌を適当に読もうかなと思い手にしたその時、分厚いハードカバーの卒業アルバムが目に入った。
これは……。
中学校の卒業アルバムだ。
引っ越し業者が本棚に本を適当に並べてくれたのだから本や雑誌以外の物が並んでることは不思議ではないのだけど……。
この卒業アルバムは見たくないので実家の押入れの奥にしまっているはずなのにどうしてここにあるのだろうか?
なんだかゾッとして冷や汗が出た。
嫌な思い出したくない記憶が体の底からじわりじわりと込み上げてくる。
中学時代に嫌な思い出がある。毎日不安や恐怖を感じていた。
わたしは中学最後のクラス替えで友達である由美やほのかと同じクラスになれた。
これでこの一年間を楽しく過ごせるなと思いわたしは嬉しくてニマニマと笑っていた。
「真紀ちゃ~ん! また同じクラスになれたね。やったね、また一年間よろしくね」
「うん、由美ちゃんこちらこそよろしくね。楽しい中学最後の年になりそうだね」
わたしと由美は手を取り合い喜んだ。
そして、
「真紀ちゃ~ん、由美ちゃ~ん、やったね、やったね! 同じクラスだね~」
ほのかも嬉しそうに笑顔を浮かべこちらに駆け寄ってきた。
「ほのかちゃ~ん、わたしも嬉しいよ。一年間よろしくね」
「中学最後の楽しい思い出を作ろうね」
わたしと由美は笑顔を浮かべて答えた。
そう、楽しい思い出をたくさん作れると思っていた。由美とほのかが同じクラスにいてくれるとわたしは無敵だと思っていた。
しかし、現実はわたしが思い描いていたものと大きく違っていたのだった。
あの子がわたしと同じクラスになったからだ。
わたしとよく似た外見のあの子と同じクラスになったから思い描いていた現実がガラガラと音を立てて崩れ落ちたのだ。
わたしは本棚の一番下の段にある卒業アルバムの背表紙を眺め溜め息をついた。
忘れていたあの子の悲しそうな顔を思い出してしまった。
思い出したくなくて心に鍵をかけていたのに……。
わたしは、あの子とよく似たショートヘアも真っ黒に日焼けした肌も嫌だなと思っていた。あの子に似ていることが嫌でとても嫌で……。
だって、あの子……麗奈ちゃんは田本さん達にいじめられていたのだから。
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