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ちんすこう作りの始まりです(自己紹介)

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  所狭しと駄菓子が並んでいる棚の奥におばぁの住居がある。

「めんそ~れ、狭いけどどうぞ」

  ちんすこう作りに集まった五人のメンバーとわたし達はおばぁに着いて歩く。

  おばぁが住居スペースに繋がる木製の扉を開けた。

  部屋の中に入るとわたしのおばぁの家と似たなんだか懐かしい匂いがした。その匂いを嗅いでいると優しい田舎のおばぁの微笑みが頭の中に浮かぶ。おばぁ、元気にしているかな?

  そんなことを考えていると、

「さあ、荷物は棚に置いて、ちんすこう作りを始めますよ。その前に自己紹介でもしましょうか。あ、その前に割烹着を着てくださいね」とおばぁが言った。

  わたし達は棚に荷物を置き、紫色の割烹着を着込みキッチンのテーブル前に集まった。

  そして、改めて集まったちんすこう作りのメンバーの顔を見ると下は小学生から上は七十代くらいのおばぁまでと様々であった。

「本日はおばぁのちんすこう作りにお集まり頂きありがとうございます。駄菓子屋の店主城浜おばぁです」

  おばぁはにこやかに微笑みを浮かべた。


  おばぁの表情は初めてこの駄菓子屋に来た時に見た沈んだ表情と随分違い明るくなっているのだった。

  うふふ、おばぁが笑顔になってくれたのでわたしは嬉しくなる。

「さてさて、右の方から順番に一言どうぞ~」

  おばぁのその声に美川さんが挨拶をした。

「こんにちは。美川よしおです。趣味はサーターアンダギー作りです。今日はちんすこうを作るということなのでワクワクしています。みなさんよろしくお願いします」と挨拶をした。

   美川さんの趣味はサーターアンダギー作りだったのかと思うとちょっと可笑しくて笑ってしまいそうになった。だから毎日サーターアンダギーを食べさせてくれるのね。

  なんて、うふふと笑っていると、

「愛可さんの番ですよ」と美川に肘をつつかれた。

「あ、はい!」

  わたしは、すっかり次が自分の番であることを忘れていたのだった。

  これは美川さんのサーターアンダギーのせいなんだから。みんながわたしを見ているようで恥ずかしいではないか。

「こ、こっ、こんにちは幸川」と言ったところでわたしの右隣に立っているきらりちゃんが、

「あはは、こ、こってニワトリみたいだね~」なんて言って笑った。

  すると、ちんすこう作りのメンバーのみなさんがわたしの方をちらりと見た。そしてそのうちの何人かが笑った。

  恥ずかしい。穴があったら入りたいとはこういうことを言うのだろうか?  きらりちゃん恨むよ。わたしはきらりちゃんをギロリと睨みそれから挨拶を続けた。

「すみません……幸川愛可です。ちんすこう作りは初めてなのでおばぁに教えてもらえることを楽しみにしています。みなさんよろしくお願いします」

  わたしは、なんとか挨拶を終えぺこりと頭を下げた。

「ありがとう。愛可さん、おばぁと頑張りましょう」

  おばぁは優しい笑みを浮かべた。そして、「では、次はお隣のお嬢ちゃんだよ」と言った。

「は~い、斎川きらりです。ちんすこう作りを楽しみにしています。みなさんよろしくお願いします。頑張ります」

  なんだ思ったよりきらりちゃんの普通の挨拶ではないか。

  続いて利香ちゃんが挨拶をした。「森下利香です。よろしくお願いします」の一言だった。


  その後も自己紹介が続いた。

本川有利ほんかわゆうりです。小学六年生です。よろしくお願いします。隣は弟のほら、挨拶するんだよ」

「あ、僕は丸久まるひさ。小ニだよ」

  有利ちゃんはおだんご頭が可愛らしい女の子で丸久君は大きな目が可愛らしい男の子。可愛らしい姉弟だ。


  続いて、「中野香なかのかおりです。二十歳です。おばぁの駄菓子屋に小学生の頃通っていました。懐かしくてちんすこう作りに参加をすることにしました。よろしくお願いします」

「おっ、これは香ちゃんではないか!  まさかあの香ちゃんかね?」

「あはは、あの香ちゃんっておばぁ覚えているの?」

  香さんがクスクス笑うと、「もちろん覚えているさね。ツインテールが可愛らしくてちんすこうが大好きだった香ちゃんだよね」と答えておばぁは胸を張った。

「わっ、おばぁ覚えていてくれたの。嬉しいです。そうそうちんすこうよく食べたな」

  香さんはうふふと笑いたまらなく懐かしいという表情をしている。

  わたし達がチラシを配ったことで香さんがおばぁのことを思い出してくれたのであれば嬉しいなと思った。

「今日はちんすこうを一緒に作ろ!」

  おばぁは満面の笑みを浮かべた。

  そして、最後はおばぁと同年代かなと思われる女性だった。

「こんにちは。牧城まきしろほのかです。城浜おばぁとは小中学校の同級生です。富佐ふさちゃんは昔から料理が上手でした。あの頃を思い出してちんすこう作りを楽しみたいと思います。よろしくお願いします」

  ほのかおばぁはそう言ってニコニコと笑った。

  当たり前だけどおばぁ達にも小中学生時代があったんだなと思い二人のおばぁの顔を交互に眺めた。その頃から変わらない友情が続くなんて羨ましく思えた。

「みなさん、ありがとう。では、いよいよちんすこう作りを開始したいなと思います」

  おばぁはそう言って紫色の割烹着の袖を捲った。

「ちんすこうは琉球王朝時代からある沖縄の伝統のお菓子です。作り方はとても簡単ですよ。では、みなさん手を洗ってくださいね」

「は~い」と返事をして参加者のわたし達は洗面所で手を洗った。

  そして、テーブルに戻るとちんすこう作りの材料が準備されていた。

「みなさん。材料を用意しました。ちんすこうは簡単に作れるからさね」

「わ~い!  早く食べたいな~」

「きらりちゃんてばまだまだ食べられないよ。作らなきゃね」

  わたしは、きらりちゃんの肩をぽんぽんと叩いた。すると、きらりちゃんは振り返りエヘヘと舌を出した。
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