上 下
62 / 111

六話目 おばぁとゴーヤチャンプルー

しおりを挟む
  朝、目を覚ますと田舎のおばぁの家に遊びに行こうと思い立った。駄菓子屋のおばぁの笑顔を見ることはできたけれど、わたしのおばぁの笑顔はしばらく見ていない。

  あの優しくて柔らかいおばぁの笑顔を見たのは果たしていつの日だったのだろうか?

  おばぁに会いたいな。そう思うとじっとしていられなくてわたしは慌てて出かける準備をした。

  その時。玄関のチャイムがピンポンピンポンピンポンと鳴ったかと思うと、

「愛可~遊びましょう」ときらりちゃんの元気な声が聞こえてきた。

 わたしは、玄関のドアを開けて、「きらりちゃんおはよう。今日はおばぁの家に遊びに行くからまたね」とドアを閉めようとした。

 すると、きらりちゃんは「わたしも行く~」と言った。

「えっ!?  きらりちゃんも着いてくるの」

「……どうしてきらりちゃんはついてきてるのかな?」

「うーん、それは暇だからかな?」

  きらりちゃんはゴーヤアイスをペロペロと舐めながらわたしの後をついてくる。

「暇だからってね。わたしおばぁの家に行くんだよ」

「ふ~ん、わたし愛可のおばぁを見てみたいな。愛可みたいにのほほんとした顔なのかな?」

  きらりちゃんは美味しそうにゴーヤアイスを舐めながら笑っている。

「きらりちゃん!  わたしみたいにのほほんとした顔かなって失礼じゃない」

  わたしは、きらりちゃんの顔をキッと睨んだのだけど、きらりちゃんはフフンと澄まし顔なんだから憎たらしいのだ。

「あのね、わたし船に乗るんだけど」

「あ、今日お母さんからおこづかい貰ったからお金ならあるよ~」

  きらりちゃんはそう言って猫の財布を振り回す。

「あっそ、勝手にしたら」

  どうせついてくるなと言ってもついてくるのだろうから仕方がない。わたしはふぅーと溜め息をついた。
「楽しい~楽しい~船旅だ~ルンルンランラン~」

  きらりちゃんはゴーヤアイスを食べながらそれはもう嬉しそうに歌を歌っている。

「きらりちゃんってば暑いのに元気だね」

  わたしは、麦わら帽子を被り元気よく歩くきらりちゃんをちらりと見て言った。

「ふふん、だって、わたしは愛可と違って若いもんね」

「あのね、きらりちゃんは若いって言うか小学生でしょ」

「そうだよ。小学生だもん、若いのだ~ルンルンランラン~船旅~ランラン」

  元気に歌うきらりちゃんは可愛らしくて憎たらしくもあるのだった。

  太陽がキラキラと輝く沖縄の町をわたしときらりちゃんはてくてく歩いた。

  それからしばらくすると、きらりちゃんが、「ねえ、愛可~まだ着かないの?  暑いよ、喉がカラカラだよ~」とごねる。

「もう少しで着くよ。あれ?  若いきらりちゃんは元気じゃなかったのかな?」

「あ、愛可って意地悪だね」

  きらりちゃんはぷくぷく頬を膨らませた。その顔が風船のように見えてきて思わず笑ってしまったのだ。

「きらりちゃん着いたよ」

「わっ、着いたの?  やったね。わたしはもうクタクタだよ」

  なんて小学生のくせに年寄りみたいなことを言うきらりちゃんなのだ。

「あはは、子供なのに年寄りみたいだね。ほら、とまりんだよ」

  わたしが船乗り場を指差すときらりちゃんは、「わ~い、船だよ~久しぶりだな。嬉しいな」と言いながらピョンピョン飛び跳ねた。

  やっぱりきらりちゃんは子供だなと思うと微笑ましい気持ちになる。

  とまりんとは、沖縄本島と離島の渡嘉敷島、座間味島、粟国島、渡名喜島、久米島などを結ぶ船舶が発着する旅客ターミナルなのだ。

  わたしも久しぶりの船なのできらりちゃんじゃないけれどウキウキしてきた。

「さあ、船券を買って出発だよ~」
しおりを挟む

処理中です...