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愛可ちゃんを見つけたあの日

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「愛可ちゃんて女の子をですか。それってわたしなんですよね?」

「はい、そうですよ。だから愛可さん、君をスカウトしたんですよ。愛可と言う名前を聞いてこの子だ~と心の中でガッツポーズをしましたよ」

「そうだったんですね。ガッツポーズってなんだかあの時怖い顔をしていましたよね」

  わたしは、美川さんと初めて会ったあの日を思い出した。

『美味しそうにご飯を食べている愛可さんの幸せそうな笑顔に感動して注文することを忘れていましたよ。それにしても名前も素晴らしいじゃないですか』

と言った眉目秀麗な美川さんはわたしの顔をギロリと睨みつけていたような気がする。まさか心の中でガッツポーズしていたなんて信じられない。

「これが俺の地顔ですから」

「あ、そうなんですね」

「はい、そうですよ。俺はめちゃくちゃ感動しましたよ。やっとあの愛可ちゃんを見つけたとね」

  美川さんはそう言って両手でガッツポーズを作った。

「ありがとうございます」

「あはは、愛可さんも初めて会った時から変わらないですね。感動が薄いですよね」

「あはは、確かにそう言っていましたよね」

  そう、初めて会った日の美川さんは、幸せの運び屋の名刺をわたしに渡した。その名刺を見たわたしの反応に美川さんは。

『愛可さん。はぁって何ですか?  ここは素晴らしいと感動するところなんですよ』

本当に感動の薄い人ですよね。わぁ~素敵なお仕事ですねとかそういったリアクションにはならないのですか?』

  なんて言ってたなと思い出した。無表情なクセにまったくね。

 


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