アニマルズ

鏡 彬

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象のサチコ

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私の名前はサチコ。
生まれたのは、もう何十年前の話かしら……
今日も、また檻の中にいます。
檻の外には草を持った子供達、カメラという機械を持つ大人達。
この草も食べ飽きたのよね、飼育員さん。出来ればリンゴが食べたいわ。
サチコは飼育員の田中さんが大好き。
だけど田中さんも、もう65歳になるのよね。
人間の寿命は私達に比べたら酷く短い。
私が、ここに来た時、田中さんは言ってくれた。最後までサチコの面倒は俺が見てやるからって……嬉しかったなぁ。
もう、あれから何年経つのかしら。
5年は経ったのかしら。
私よりリーリーの方が人気になってきて、私を見る人も草をくれる子供達も減ったわね。
そう言えば今日は田中さんが、まだ来ない。
田中さんは、どこ?
田中さんは、どこ?
ワオキツネザル担当の、お姉さん。田中さんは、どこ?
私が長い鼻を近づけて聞くと、お姉さんは私の鼻を抱き締めて泣いている。

なぜ……?

サチコ、明日カラハ新シイ人ガ来ルノヨ。
田中サンハ、モウ来レナイノ、ワカッテネ。

そう言って私の大好きなリンゴを置いてった。
ねえ、お姉さん……私、リンゴより田中さんがいいよ……


リンゴは要らないから、田中さんに逢いたい

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