うさぎの涙

鏡 彬

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うさぎ達は集う。

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「敬人お兄ちゃんはコーヒー、将臣おじさんはカフェインレスのお茶!」
そう言ってテレビ台に、お茶とコーヒーとジュースを置く。
まさか、さっきの話は聞いてなかっただろうか……思い悩み嫌な考えだけが私の頭を過ぎった。
「遅かったじゃないか、珠美。」
何かに気づいたかのように将臣が言った。
「うん、近くのコンビニがわからなくて……」
珠美が嘘をついてることは、すぐにわかった。何故なら、珠美は何度も、この病院に私の見舞いに来ているのだ。
「珠美……?」
黙る珠美に私は声を掛ける。振り向いた珠美の目には涙が沢山溜まっている。
「目にホコリが入っちゃったの……」
将臣が「大丈夫か?」と珠美の肩に触れようとすると……
「触らないで!嘘つき!」
そう言って珠美は病室から走って出て行った。将臣が追いかけようとするが、私は、それを止めてSPに連絡をさせた。
「ゲームオーバーだ、敬人。」
「案外、早かったな……私も戻る覚悟をしよう。」
そう言って橋本医師を呼び、自宅療養とリハビリと往診を頼むことにして……私は再び、あの家に帰ることを決心した。
勿論、将臣と珠美も一緒に暮らせるように、リフォームを頼み、それまでは将臣が現在、住んでいる都内のマンションに住まわせてもらうことにした。
車椅子での移動は将臣が全てやってくれる。
帰る前に将臣が行きつけの美容室に寄って、長ったらしい髪の毛を切った。髭も綺麗に剃って、洋服も何着か新調した。
珠美は、私が将臣の自宅に帰ってきてから数分後SPの男に抱き抱えられ帰ってきた。
私が前にいた公園のダンボールを建て直し、その中に居たそうだ。
そうだ、あそこも綺麗にしなければいけないな……だが思い出が沢山ありすぎる。暫くは、あそこに残しておこう。張さんに、お願いして住んでもらおう。それがいい。お礼にも、いくついでに……
将臣の家は広く、1人で住むには余っていた。3LDK無駄なものはなくキッチンも綺麗に手入れされている。
「随分、良い家を選んだな。お袋さんは、どうしたんだ。」
すると将臣の顔が沈んだ。
「死んだよ……高校を卒業してすぐだった。働かなくても俺が頑張ると言ったのに、働き続けて心筋梗塞で……」
「すまない、辛い思いをさせたな……」
「いいんだ、最期が綺麗だったからさ。死ぬこと知ってたのか、知らなかったかは知らねえけどさ。敬人くんのこと大事にするのよって、いいお友達に出逢えたわね。って笑って仕事に行ったんだ。だから、いいんだ……」
そう言って泣きながら笑う、将臣が私には、やはり羨ましく思えた。
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