黒の棺の超越者《オーバード》 ー蠢く平行世界で『最硬』の異能学園生活ー

浅木夢見道

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第2章 東雲学園編 新生活とオリエンテーション

050 オリエンテーション合宿、開始

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「いい天気だね、レイラ」
「……うん。いい天気」
「……だから、喜多見さんも遠くを見よう。その方がいいよ」
「ううぅ…すいませぇん……どうしても船には弱くってぇ…」

 オリエンテーション合宿初日。東雲学園高等部の一年生たちは、海の上にいた。



 急遽発表されたオリエンテーション合宿の告知から2日間という短い準備期間は無情にも過ぎていき、オリエンテーション合宿の日はやってきた。



 当日の朝、集合場所のグラウンドに着くと、合宿用に荷物を詰め込んだ学園指定のボストンバッグの中身を検められ、真也は学園港へと案内される。

 東雲学園は埋立地を丸々利用したものであるため、学園専用の港が存在する。
 真也は入学してすぐ、一度港を見に行ったことがあったが、その時にはなかった巨大な3隻の船が、真也を出迎えた。

 3隻全て真っ黒で、巨大な甲板を持ち、平べったい独特なフォルムをしていた。
 真也が過去に見た…前の世界で見た船で似た形が思い浮かばなかったため、一瞬、船であると分からなかったほどだ。

 港へ着いた一年生たちは、学園職員によってクラスに応じて船へ次々と乗り込まされており、真也は、Aクラス、Fクラス、そして非オーバードの1組が割り当てられた船へと案内される。

 特に説明もないまま、目まぐるしく移動させられた真也が甲板へと上がると、見慣れた顔が見えた。

「お、間宮、おはよう」

 真也に声をかけてきたのは直樹だった。クラス毎に出欠を確認させられているらしく、委員長である直樹が、出席を取っているようだった。

 乗船した生徒達の出席が確認されると、一年生たちは何も伝えられぬまま、船は学園港を離れていった。



 そしてそのまま甲板に待機させられ、不意にうずくまった美咲を介抱しつつ今に至る。

 その間、いまだ合宿について何の説明も為されておらず、美咲が弱りだしてから10分以上経過したこともあり、真也は不安になってきた。

「喜多見、大丈夫?」
「はいぃ……すいませぇん…」

 美咲の背をさするレイラの顔は、心配そうではあるが、それと同時にレイラの顔色もまた、優れないものだった。

「どうしたの、レイラ。まだ眠い?」
「そうじゃ、ない。いや、眠い、けど。
 ……実は昨日、父から連絡、あった」
「へえ、レイラのお父さんから?」
「うん、それで……」

 レイラは真也に何かを伝えようと口を開いた。
 しかし、それが言葉の形を取る前に、甲板に備え付けられたスピーカーから音声が流れてくる。

『一年生の皆さん、今からクラス内で30分以内に同性で二人組を作ってください。
 それが今回の合宿でのバディとなります。二人組ができたら、それぞれ担任に報告、腕章と合宿のしおりを受け取り、船内へと移動してください』

 その言葉と同時に、船内から教員たちが出てくる。その中に、江島の姿もあった。

 真也は、二人組というものにいい思い出があまりなかった。
 前の世界では知り合いが多かったものの、二人組を作れ、と言われるとあぶれやすい存在であった。

 しかし、放送終了後とともに真也の服の袖が引かれる。

「なあ、間宮、組んでくれ」

 そこには、伊織が立っていた。
 今回は伊織がいたおかげですんなりと二人組を作れた真也はホッと胸をなでおろす。

「ああ、いいよ。むしろ頼む」
「うん」

 伊織にとっては、選択肢が真也しかなかったため、こっそりと異能を使ってまで速度を上げて彼の元へとたどり着いたのだった。

「じゃあ、報告に行こうか」

 急かすように真也の腕を引く伊織に、真也は慌てて美咲とレイラの方を見る。

「あ、でも喜多見さんが」
「……喜多見さん、船弱いの?」
「すいませぇん……」
「大丈夫、私が見てる。そのまま、喜多見と組む」

 レイラは真也にそう告げると、ゆっくりと美咲を立たせる。
 美咲は口にハンカチを当て、ふらつきながらも立ち上がり、真也と伊織に「どうぞ、私のことはお構いなくぅ……」と力なくこぼした。

 真也の気が変わる前に報告を済ませたい伊織に袖を引っ張られ、真也は引きずられながらもレイラに声をかける。

「分かった、喜多見さんを頼んだ、レイラ」
「構わない」
「うっぷ……すみませぇん……」

 美咲はもはや、すみません、を繰り返すのみになっていた。

 真也と伊織は、バディの相手を必死に探す人の群れをかき分け、担任の江島の前までやってきた。
 2人が江島の前に到着すると、江島は耳をピンと立て、2人に確認する。

「ふむ、押切と間宮がバディで間違いないか?」
「はい」

 真也の返答を聞き、江島は手に持ったバインダーの上にペンを走らせる。
 おそらく、それぞれのバディを記録しているのだろう。

「では、これを」

  江島は記入が終わると、腕から下げていた紙袋を漁り、真也に『214』と書かれた腕章2つと、オリエンテーションのしおりを2部、手渡した。

 しおり、というよりも報告書や作戦概要書類といった方がしっくりくるような分厚いしおりには、でかでかと『期間限定二次機密』と書かれていた。

「では、しおりの通りに行動するように。船内に入って良し」

 江島の言葉に従い船内に入ると、広い部屋に出た。
 椅子とテーブルなどが置かれているが、そのどれもが無骨で、全て固定されている。

 規模は大型フェリーのようだが、内装の節々から感じられる実用性第一という雰囲気が、この船が軍用船であることを窺わせる。

 真也と伊織は、ペア組むのが早かったためか、船内に人の姿は少ない。
 真也は通行の邪魔にならないよう、端っこの方でしおりを確認する。
 冒頭1ページ目は目次、それをめくると、船上での部屋割りについて書かれていた。

 真也はしおりに目を滑らせ、要点を伊織へと告げる。

「割り当ての部屋は腕章番号と同じ、か。2人部屋なんだ」
「2人部屋か。助かる。あんまり同じ部屋に知らない人がいると辛いからさ」
「んー、でも、2人だけってのも辛くないか?」
「……間宮は辛いの?」

 伊織の反応に、真也は手を振って否定する。

「いや、別に。そういう人もいるだろうな、って話。俺は伊織と2人部屋でも平気だよ」
「そっか。ボクも間宮となら、狭い部屋に2人でも平気かな」

 伊織が過去、中等部の修学旅行で過ごした4人部屋は、地獄だった。
 伊織の容姿に同室の男子達がそわそわし、話す言葉が片っ端から下心を含んでいた。
 それに比べれば、下心の無い真也との2人部屋は、伊織にとって天国だった。

 そんな過去を知る由もない真也は、伊織の含みのある言い方に気付かなかったが、お互い気兼ねなく合宿を過ごせそうな雰囲気に胸をなで下ろす。

「上手いことペア組めてよかったな」
「うん。ボクと組んでくれてありがとうな、間宮」

 真也と伊織は友情を噛み締めながら、振り分けられた部屋へと向かった。

214と書かれた2人部屋は狭いものだったが、シャワー室が併設されており、伊織はホッとした。
 学校行事での外泊、その際に伊織が突き当たる問題の大半は、これで解消されたも同然だった。

 部屋は二段ベッドと事務机、椅子が2つ。その全てがきっちりと固定されていた。

「伊織、上と下、どっちがいい?」
「どっちでもいいよ」
「じゃあさ、俺、寝相が悪いから下でいい?」
「ん、じゃあボクが上だね」

 そんな会話と共に真也と伊織はボストンバッグをベッドの上に放り投げる。

 その後、下の段のベッド……真也のベッドの上に2人して腰掛けると、しおりの2ページ目以降を確認した。
 『A、Fクラス、1組行き先』と書かれており、どうやら、行き先が同じロシアでも、船ごとに違う場所へと向かっているらしい。

 他のクラスがどこへ行くのかは、真也たちの持つしおりには書かれていなかった。

 初日、船上にて一泊。

 2日目早朝、オホーツク港に入港。(ロシア、ハバロフスク地方)

 さも平然と書かれた文字に、真也が驚く。

「え、行き先ロシアなの!?」
「今年も国外か…」

 驚く真也とは対照的に、伊織はどこか達観していた。
 毎年、オリエンテーション合宿後に一年生がどこへ行ったかというのは東雲学園の春の噂話の最たるものだった。
 国内、国外はランダムなようで、伊織が知る限り、2年連続の国外となる。

 しかし、合宿予定地が国外の時もあると知らなかった真也は、大いに焦る。

「え、どうしよう、パスポート持ってないよ」
「え? 候補生とはいえ国疫軍人だから平気だよ」

 伊織は、この世界では当たり前のことを真也へと告げる。
 しかしながら、この世界の当たり前をあまり知らない真也は、国疫軍人ならば自由に海外へ行けるという事は衝撃だった。

「そ、そうなんだ…」
「はぁ……間宮、ほんとに異世界から来たんだね。モノを知らなさすぎ」
「う、ごめん」

 ばつが悪そうに頭を掻く真也に、伊織は微笑みながら励ます。

「ああ、いいよ。仕方ないさ。ボクが色々教えてあげるから」

 そう告げる伊織の微笑みは、どこか優越感を感じさせるものだった。



「えーっと、船ごとに別の営巣地に向かう。
活動は、A、Fクラスで合同の大隊扱い。
 ……え、作戦オペが1組の学生なのか。めんどくさいな……」

 2人は引き続きしおりを読み進め、オリエンテーション合宿の詳細を得ていた。

「営巣地、トレーニング、もう一度営巣地での軍務。ハードだね」

 しおりによれば、初日は船内で一泊。翌日ロシアに到着後すぐに営巣地での実戦訓練。
 その後2日間のトレーニングと座学を挟んで、また営巣地へと行く、というスケジュールだった。

「まあ、詳細は教えられてないけど、毎年ハードだってのは言われてたからね。むしろ……」

 伊織は顔をしかめて、その表情を形作らせた原因のページを真也へと向け、指を指す。

「この、2回目の営巣地で一泊、ってのが辛い」
「たしかに。F級とはいえ、つらいね」

 営巣地内部での一泊。真也には予想もつかないものだったが、それが大変そうであることは容易に感じ取ることができた。

「ま、今日1日せいぜいゆっくりしよう」

 そう言ってしおりを事務机へと放り投げた伊織は、ごろん、と真也のベッドに横たわる。
 真也はそんな伊織に、申し訳なさそうに口を開く。

「……あのさ、伊織」
「なに?」

 心地好さそうに耳を揺らしていた伊織は、真也へと目線だけ向ける。
 悠々自適、という言葉が似合いそうな伊織へと、心苦しいながらも真也はバディとして、言葉を告げた。

「今日はこのあと、授業…だって……」

 その言葉に、伊織の目が細くなり、うさ耳はだらんと力をなくす。

「……最悪!」

 そう叫び、伊織はごろごろとベッドの上を転がった。
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