12 / 28
12
王城の会議室。そこは重苦しい空気と、埃を被ったような古い伝統が支配する場所だった。
私の目の前には、眉間に深い皺を刻んだ老人たちがずらりと並んでいる。王宮の「典礼儀礼省」の重鎮たちだ。
「バレンシア伯爵。王位継承の準備として、まずは三ヶ月に及ぶ『断食浄化の儀』と、毎日六時間の『古式典礼講習』を受けていただきますぞ」
筆頭魔術師の老人が、カサカサの指で分厚い教本を叩いた。
私は隣に座るセシル様の顔を盗み見る。心なしか、その美しい肌が絶望でくすんで見えた。
「お待ちになって。そんな時代遅れのメニュー、即刻却下ですわ」
私は扇で机を叩き、老人たちの言葉を遮った。
「な、なんだと!? アスタール公爵令嬢、これは数百年続く神聖な伝統なのだぞ!」
「三行で却下理由を説明しますわね」
私は優雅に立ち上がり、教本を一瞥した。
「一つ、断食は肌のハリを失わせ、セシル様の『至宝の美貌』に致命的なダメージを与えます」
「二つ、六時間の講習などは集中力の欠如を招き、姿勢を悪くするだけの無駄な時間ですわ」
「三つ、そもそも、その教本の装丁がひどく古臭くて、セシル様の指先に触れさせるのも忍びないんですの。……全部やり直しですわね」
老人たちは絶句し、顔を真っ赤にしたり青くしたりと忙しい。
「伝統を……伝統を何だと思っているのだ! 見た目ばかりを優先して、王の威厳が保てるはずがなかろう!」
「威厳? あら、勘違いしないでくださいませ。セシル様がそこに立っているだけで、民衆はひれ伏しますわよ。なぜなら、彼は『美しい』から。古臭い知識でガチガチに固まった、偏屈な王様なんて誰も求めていませんわ」
私はセシル様の肩に手を置き、その完璧な姿勢をアピールした。
「セシル様。あなたが王になるために必要なのは、カビの生えた教本ではなく、現代の政治を把握するための『効率的な対話』と、その美しさを維持するための『適度な休息』ですわ」
「……ノノカ。私は、この老人たちを説得しろと言ったのだが、喧嘩を売れとは言っていないぞ」
セシル様が困ったように、けれど少しだけ嬉しそうに呟いた。
「喧嘩ではありませんわ。これは『リフォーム』です。王宮のルールがあまりに非効率で美しくないから、私が磨き上げて差し上げているだけですわ」
私は老人たちに向き直り、不敵な笑みを浮かべた。
「これからは、王宮内のドレスコードも私の監修で変更しますわ。重すぎる冠や、肩が凝るだけの無駄な勲章は廃止。軽やかで機能的、かつセシル様の脚の長さを強調するデザインを導入しますの」
「そ、そんな勝手なことが許されるわけ……」
「許されますわ。陛下はすでに、セシル様の教育方針を私に一任すると仰っていますもの。……文句がある方は、私の父に直接仰ってくださいな。あ、父は今、殿下の不正調査でかなり機嫌が悪いですけれど」
公爵家の名前を出した瞬間、老人たちは一斉に沈黙した。
「セシル様。まずは、この淀んだ空気を入れ替えるところから始めましょう。窓を全開に! そして最高級のアロマを用意して。美しい政治は、良い香りの中から生まれるものですわ」
「……ノノカ。貴様が王宮を支配する日も、そう遠くなさそうだな」
セシル様が観念したように、ふっと微笑んだ。
その笑顔があまりに神々しくて、反対していた老人たちの中からも、思わず感嘆の声が漏れた。
「ほら、見てください。あなたの笑顔一つで、この頑固な方々も毒気を抜かれましたわ。……美しさは、最高の外交手段ですわね」
私は勝利を確信し、セシル様と共に、新しい「王宮」の創造に向けて一歩を踏み出した。
私の目の前には、眉間に深い皺を刻んだ老人たちがずらりと並んでいる。王宮の「典礼儀礼省」の重鎮たちだ。
「バレンシア伯爵。王位継承の準備として、まずは三ヶ月に及ぶ『断食浄化の儀』と、毎日六時間の『古式典礼講習』を受けていただきますぞ」
筆頭魔術師の老人が、カサカサの指で分厚い教本を叩いた。
私は隣に座るセシル様の顔を盗み見る。心なしか、その美しい肌が絶望でくすんで見えた。
「お待ちになって。そんな時代遅れのメニュー、即刻却下ですわ」
私は扇で机を叩き、老人たちの言葉を遮った。
「な、なんだと!? アスタール公爵令嬢、これは数百年続く神聖な伝統なのだぞ!」
「三行で却下理由を説明しますわね」
私は優雅に立ち上がり、教本を一瞥した。
「一つ、断食は肌のハリを失わせ、セシル様の『至宝の美貌』に致命的なダメージを与えます」
「二つ、六時間の講習などは集中力の欠如を招き、姿勢を悪くするだけの無駄な時間ですわ」
「三つ、そもそも、その教本の装丁がひどく古臭くて、セシル様の指先に触れさせるのも忍びないんですの。……全部やり直しですわね」
老人たちは絶句し、顔を真っ赤にしたり青くしたりと忙しい。
「伝統を……伝統を何だと思っているのだ! 見た目ばかりを優先して、王の威厳が保てるはずがなかろう!」
「威厳? あら、勘違いしないでくださいませ。セシル様がそこに立っているだけで、民衆はひれ伏しますわよ。なぜなら、彼は『美しい』から。古臭い知識でガチガチに固まった、偏屈な王様なんて誰も求めていませんわ」
私はセシル様の肩に手を置き、その完璧な姿勢をアピールした。
「セシル様。あなたが王になるために必要なのは、カビの生えた教本ではなく、現代の政治を把握するための『効率的な対話』と、その美しさを維持するための『適度な休息』ですわ」
「……ノノカ。私は、この老人たちを説得しろと言ったのだが、喧嘩を売れとは言っていないぞ」
セシル様が困ったように、けれど少しだけ嬉しそうに呟いた。
「喧嘩ではありませんわ。これは『リフォーム』です。王宮のルールがあまりに非効率で美しくないから、私が磨き上げて差し上げているだけですわ」
私は老人たちに向き直り、不敵な笑みを浮かべた。
「これからは、王宮内のドレスコードも私の監修で変更しますわ。重すぎる冠や、肩が凝るだけの無駄な勲章は廃止。軽やかで機能的、かつセシル様の脚の長さを強調するデザインを導入しますの」
「そ、そんな勝手なことが許されるわけ……」
「許されますわ。陛下はすでに、セシル様の教育方針を私に一任すると仰っていますもの。……文句がある方は、私の父に直接仰ってくださいな。あ、父は今、殿下の不正調査でかなり機嫌が悪いですけれど」
公爵家の名前を出した瞬間、老人たちは一斉に沈黙した。
「セシル様。まずは、この淀んだ空気を入れ替えるところから始めましょう。窓を全開に! そして最高級のアロマを用意して。美しい政治は、良い香りの中から生まれるものですわ」
「……ノノカ。貴様が王宮を支配する日も、そう遠くなさそうだな」
セシル様が観念したように、ふっと微笑んだ。
その笑顔があまりに神々しくて、反対していた老人たちの中からも、思わず感嘆の声が漏れた。
「ほら、見てください。あなたの笑顔一つで、この頑固な方々も毒気を抜かれましたわ。……美しさは、最高の外交手段ですわね」
私は勝利を確信し、セシル様と共に、新しい「王宮」の創造に向けて一歩を踏み出した。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
【完結】帳簿係の地味令嬢、商会の不正を見抜いて王宮に見出されました。
夏灯みかん
恋愛
王都の商工会議所で働く、地味な帳簿係エミリー。
真面目に記録をつけることだけが取り柄の彼女は、同僚から軽く扱われ、雑用を押しつけられる日々を送っていた。
そんなある日――エミリーは、孤児院への配給物資の記録に、わずかな“ズレ”があることに気づく。
数量は合っている。
だが、なぜか中身の重量だけが減っている。
違和感を覚えたエミリーは、自ら倉庫へ足を運び、現物を確認する。
そこで見つけたのは、帳簿では見えない“静かな不正”だった。
しかしその矢先――不正の責任を押しつけられ、職場から追い出されそうになってしまう。
それでもエミリーは諦めない。ただ一つ、自分が積み上げてきた“記録”を信じて。
「では、正式な監査をお願いいたします」
やがてその記録は、王宮の政務監査官リオンの目に留まり――
隠されていた不正はすべて暴かれる。
そして、彼女を軽んじていた者たちは、その代償を支払うことになる。
これは、地味で目立たなかった一人の帳簿係が、
“正しく記録した”ことで不正を暴き、王宮に見出されるまでの物語。
悪役令嬢まさかの『家出』
にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。
一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。
ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。
帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!
夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?
里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。
そんな時、夫は陰でこう言った。
「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」
立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。
リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。
男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。
***************************
本編完結済み。番外編を不定期更新中。
「やり直したい」と泣きつかれても困ります。不倫に溺れた三年間で私の心は死に絶えました〜捨てられた元妻、御曹司の傍らで元夫を静かに切り捨てる〜
唯崎りいち
恋愛
三年間の夫の不倫で心も生活も壊れた私。偶然出会ったレトルト食品に救われ、Webデザインで再出発。過去に縛られず、自分の人生を取り戻す静かな再生の物語。
『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ
夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」
華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!