悪役令嬢として婚約破棄され、地獄の追放先へ。

ちゃっぴー

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「……止まれ! 全員作業を中断しろ! これ以上掘り進めてはならん!」

北国の雪原に、イグニスの鋭い制止の声が響き渡りました。
ネイビー式・魔力熱伝導パイプラインの敷設工事は、宮殿から数キロ離れた地点で、突如として暗礁に乗り上げたのです。

毛皮のフードを深く被り、着膨れしてアザラシのようになったネイビーが、ソリの中から顔を出しました。

「どうしましたの、イグニス様? 私の『全北国・サウナ化計画』を邪魔する石板でも出てきましたの?」

「石板ならよかったんだがな。……見ろ、掘り起こした地層の奥だ。青白く光る巨大な『鱗』が見えるだろう」

イグニスが指さした先には、岩盤の一部だと思っていた場所に、規則正しく並んだ硬質な鱗の重なりがありました。
それは大地の魔力を吸い上げ、周囲の空気を物理的に凍らせるほどの絶対零度を放っています。

「……まさか、これって。伝説の『氷晶古代竜(アイス・エンシェント・ドラゴン)』の尻尾かしら?」

「その通りだ。この下に本体が眠っている。……こいつは数千年の眠りについているはずだが、お前が熱々のパイプを通そうとしたせいで、温度変化を察知して目覚めかけているぞ」

その言葉を裏付けるように、ズズズ……と大地が震え始めました。
地面の割れ目から、これまでの北国の寒さを「涼しい」と感じるほどの、凄まじい冷気が噴き出してきます。

「ヒッ……!? 寒い! 寒すぎますわ! 私の三層構造カイロが、一瞬で石のように冷たくなりましたわよ!?」

ネイビーはガタガタと歯を鳴らし、即座にイグニスの背中に飛びつきました。
しかし、今回の冷気は「歩く暖房」であるイグニスですら、少し眉をひそめるほどの手強さでした。

「……グルルル……」

地底から、地響きのような唸り声が聞こえてきました。
もしこの伝説の竜が完全に目覚め、怒りに任せて冷気のブレスを吐き出せば、北国どころか王国全土が氷河期に逆戻りしてしまいます。

「……イグニス様、戦って倒せませんの? あなたのその暑苦しい炎で、焼き鳥にしてしまうとか」

「無茶を言うな。相手は神話時代の生き物だぞ。戦えば最低でも一ヶ月は吹雪が止まらん。……お前、一ヶ月間も太陽の見えない極寒に耐えられるのか?」

「無理ですわ! 三日で干物……いえ、氷漬けの令嬢になってしまいますわ!」

ネイビーは必死に頭を回転させました。
戦えば寒くなる。逃げても寒くなる。
ならば、残された道はただ一つです。

「……イグニス様。この竜、要するに『寒がり』だから、大地の冷たい場所でじっとしているのでしょう?」

「いや、氷竜なんだから寒いのが好きなんじゃないか?」

「いいえ! 生物である以上、温かくて心地よい場所を嫌うはずがありませんわ! ……いいですか、作戦変更ですわよ。この竜を倒すのではなく……『ダメにする』のです!」

ネイビーはセバスを呼び寄せ、予備の魔力パイプと、ありったけの最高級毛布を持ってこさせました。

「何をするつもりだ、ネイビー」

「名付けて『究極・龍神コタツ』作戦ですわ! イグニス様、あの鱗の隙間に、あなたの熱魔法を最大出力で注ぎ込んでください! ただし、攻撃ではなく『日だまりの温もり』をイメージして!」

イグニスは首を傾げつつも、ネイビーに言われた通り、竜の尻尾付近に手をかざしました。
燃え盛る炎ではなく、春の陽光のような、柔らかく力強い熱をゆっくりと流し込んでいきます。

さらにネイビーは、その周囲を断熱材と毛布で覆い、即席の巨大な「保温空間」を作り上げました。

「さあ、おっきなトカゲさん……。ここ、とっても温かいですよ。もうお外で吹雪を吹かせるなんて、面倒なことはやめて、ここでずっとぬくぬくしていなさいな……」

ネイビーが魔法瓶に入った熱々の甘いお湯(竜用)を、地割れの隙間に流し込みます。
すると、大地を揺らしていた怒りの咆哮が、次第に「グルル……」という満足げな喉鳴りに変わっていきました。

「……信じられん。竜が、丸くなって寝始めたぞ」

「ふふふ、当然ですわ。一度この温もりを知ってしまったら、もう冷たい雪山には戻れませんもの。……この竜、今日から私たちの『地熱発電所』……いえ、『守護神』として、このパイプラインを温める手伝いをしてもらいましょう!」

ネイビーの言葉通り、温められた竜は完全に戦意を喪失し、むしろ熱源であるパイプラインを抱きしめるようにして、再び深い眠り(という名の二度寝)に入りました。
それどころか、竜の魔力とイグニスの熱が共鳴し、パイプラインを流れる熱量は当初の三倍にまで跳ね上がったのです。

「……お前、本当に恐ろしい女だな。神話の怪物まで手懐けるとは」

「あら、私はただ、平和に温まりたいだけですわよ? ……さあ、イグニス様。竜も寝たことですし、私たちもあそこの毛布の山で、次の工程まで暖を取りましょう?」

「……お前なぁ。……まあ、いいか。少し疲れたしな」

イグニスは溜息をつきながらも、自分に縋り付いてくるネイビーを外套で包み込みました。

こうして、北国最大の危機は、ネイビーの「寒さへの執念」によって、史上最も温かな結末を迎えたのです。
しかしその頃、王都ではアレン王子が、ネイビーの評判が良すぎることに業を煮やし、自ら北国へ「視察」に来る準備を進めていました。
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