王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー

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「……はぁ。わざわざ、あのような紙クズのためにドレスを着る羽目になるとは。時間の無駄以外の何物でもありませんわね」

王立学院の小ホール。
かつては毎晩のように華やかな宴が開かれていた場所だが、今日の空気はどこか沈んでいた。
それもそのはず、主催は財政破綻寸前のウィルフレッド王子。
並べられた食事は乾燥したクラッカーと、質の悪い安ワインばかり。
出席しているのも、義理で断れなかった数校の小貴族たちだけだ。

「ボス、ポジティブに考えましょう! この安っぽいクラッカーの原価を計算して、王家の困窮具合をデータ化する絶好のチャンスですよ!」

隣で地味な侍女服……ではなく、スタイリッシュな「秘書官用ドレス」に身を包んだメリルが、手帳を片手に目を輝かせている。
彼女はすでに、会場内の装飾品がどれだけ質入れされているかをチェックし終えたらしい。

「ラーニャ! よく来たな! やはり君は、私の招きを断れなかったようだな!」

会場の奥から、聞き覚えのある、しかし以前よりどこか余裕のない声が響いた。
現れたのは、ウィルフレッド王子だ。
一応は正装しているが、よく見れば袖口の刺繍はほつれ、靴の輝きも失われている。
だが、その表情だけは、世界を統治する覇者のような不遜さに満ちていた。

「ごきげんよう、ウィルフレッド様。……いえ、現在は公務を停止されているのでしたかしら? ウィルフレッド『さん』とお呼びしたほうがよろしいかしら?」

「ふん、相変わらず可愛げのない口を叩く。だが、今日だけはその無礼を許してやろう。……さあ、そこへ直りなさい」

王子は、背もたれがガタついている椅子(差し押さえを免れた数少ない家具の一つ)にふんぞり返った。
そして、これ以上ないほど「慈悲深い」といった表情で、私を見下ろした。

「ラーニャ。君がこの数日間、どれほど寂しい思いをしていたかは理解している。私を嫉妬させるために、メリルを囲い込み、私の財産を一時的に預かるという暴挙に出た。……その『熱烈なアピール』、しかと受け取ったぞ」

「……は?」

私の口から、思わず素の声が漏れた。
隣でメリルが「……ぷっ」と吹き出し、慌てて口を押さえている。

「分かっている、何も言うな。君は、私に『君がいなければ何もできない』と思い知らせたかったのだろう? 確かに、事務作業が少し滞ったのは事実だ。君の執念深さには感服するよ」

王子は立ち上がり、ゆっくりと私に歩み寄ってきた。
そして、私の肩に手を置こうとしたが……私は音速で回避した。

「触れないでいただけます? ドレスが汚れますわ」

「ははは! まだ強がるか。いいだろう、今日私は、全貴族の前で宣言してやる。……ラーニャ・フォン・アストレア! 私は、君を許してやることにした! 再び私の婚約者として、私の側で働く権利を授けよう!」

会場に、冷え冷えとした沈黙が流れる。
出席していた貴族たちは、ワインを吹き出すのを必死に堪えている。
王子だけが、自分の言葉に感動したように胸を張っていた。

「……あの、ウィルフレッド様。一つ伺ってもよろしいかしら?」

「なんだい? 感謝の言葉なら、後で二人きりの時に聞こう」

「いえ、そうではなく。……頭、打たれました? それとも、藁布団のダニが脳まで回りましたの?」

「……何?」

「あなたが『許す』とおっしゃっているのは、一体どの立場からの発言ですの? 現在、あなたは我が家に対して莫大な負債を抱え、王位継承順位も最下位に転落し、一日の食事さえ満足に取れない状況だと伺っておりますが」

私は扇子をバサリと広げ、王子の顔を扇いだ。
あまりのショックに、彼の顔が引き攣っている。

「それに、婚約者の権利? あんなブラックな労働環境に、誰が戻ると思いますの? 私は現在、有能な秘書と、信頼できるビジネスパートナーに囲まれて、最高に充実した毎日を過ごしておりますのよ」

「う、嘘だ! 君は僕を愛しているはずだ! 僕なしでは生きていけないはずだ!」

「それは、あなたが私なしでは『書類の一枚も書けない』という事実の裏返しではありませんかしら? 自分を必要としてほしいがために、相手の感情を捏造するのはおやめなさい。見苦しいですわよ」

「ラーニャ様、もうこの辺で。王子のMP(メンタルポイント)がもうゼロですよ。ほら、目が泳ぎすぎて魚みたいになってます」

メリルが淡々と補足を入れる。

「ウィルフレッドさん。……今日、私がここに来たのは、あなたの戯言を聞くためではありません。これを渡しに来たのですわ」

私はバッグから、一枚の分厚い書面を取り出した。

「これは……?」

「『最終通告書』です。来月までに返済が滞った場合、この王宮の、あなたが今立っているその『床板』まで剥がして回収させていただきます。……覚悟しておきなさいな」

「床板だと!? 貴様、私を土の上に立たせるつもりか!」

「ええ。土がお似合いですわ。……さあ、メリル。帰りましょう。この場所、カビの臭いがして鼻が曲がりそうですもの」

「了解です、ボス! あ、王子、そのクラッカー不味かったですよ! 次はもっと良いの出してくださいね、あ、お金なかったですね!」

私たちは、呆然と立ち尽くす王子と、嘲笑を隠しきれない貴族たちを背に、颯爽と会場を後にした。

「……ラーニャ……。嘘だ、こんなの嘘だ……! 僕が……僕が物語の主人公なんだぞおおお!」

王子の絶叫が夜空に虚しく響いたが、それに応えるのは冷たい夜風だけだった。
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