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「……ちょっと、ヴィンセント。あちらの赤い絨毯の上に、ひどく色褪せた大きなジャガイモが転がっているわ。帝国の掃除係は、廊下に生ゴミを放置するのが仕事なのかしら? 見ていられないから、今すぐ焼却処分してちょうだい」
帝都、アストラ宮廷の謁見の間。
私はヴィンセントの隣に座り、床に突っ伏している「かつての主君」を冷たく見下ろした。
そこにいたのは、王国の国王――セドリック王子の父親である。
かつての威厳は霧散し、着ているマントは虫に食われ、王冠は今にもずり落ちそうなほど、その姿は哀れだった。
「レーズン様……っ! 頼む、この通りだ! 我が国に戻ってきてくれ! いや、戻らなくてもいい、せめて財政支援の凍結を解除し、有能な文官を派遣してはくれまいか!」
国王は、公衆の面前で額を床に擦り付けた。いわゆる『土下座』である。
周囲の帝国貴族たちは、一国の王がそこまで落ちぶれた姿に、驚愕を通り越して失笑を漏らしている。
「支援の凍結解除? ……あら、驚いたわ。私を『害悪』と呼んで追放したのはどこのどなたかしら? あなたの息子さんは、私のことを『シワシワの干しぶどう』とまで仰ったのよ。……その干しぶどうがいないと、あなたの国は種さえまけない不毛の地になってしまったのかしら?」
「セドリックの非礼は、この私が命を懸けて謝罪する! あの愚か者は既に地下牢へぶち込み、王位継承権も剥奪した! だから……だから、王国を救ってくれ!」
私は手に持っていた扇子をパサリと閉じ、国王の鼻先を静かに示した。
「……命を懸けて? あなたの命に、一体どれほどの市場価値があると思っているの? 今の王国は、累積債務が国家予算の三百年分を超えているわ。あなたの心臓一つを売ったところで、一日の利息分にもならない。……数字も読めない王様に率いられた国民が、本当に不憫でならないわ」
「う、ううっ……。なんという、恐ろしい言葉を……」
「言葉ではありません、『現実』を申し上げているのよ。……ヴィンセント、あの方のその無駄に広い背中。見てちょうだい、税金で肥え太った脂肪が、後悔でプルプルと震えているわ。……芸術的なまでの無能の結晶ね」
隣で私の「断罪」を特等席で眺めていたヴィンセントが、恍惚とした吐息を漏らした。
「……素晴らしいよ、レーズン。一国の王を、ただの『脂肪の塊』として定義し直すその冷徹さ。……陛下、お聞きになられたか? 彼女にとって、君の謝罪はノイズにすらならない。……君の国が滅びるのは、神の裁きではなく、彼女という『論理』による必然なんだ」
ヴィンセントはそう言うと、私の肩にそっと手を置いた。
「……レーズン。この男、まだ利用価値はあるかな? もし不要なら、今すぐ王国の領土を帝国の『ゴミ処理場』として併合の手続きを開始するが」
「ゴミ処理場? ……まあ、名案ね。あの国には、セドリック殿下のような『燃えないゴミ』が大量に放置されているもの。……でもヴィンセント、それは非効率だわ。……ガルフさん、あの方に契約書を渡しなさい」
ガルフが、音もなく一枚の羊皮紙を国王の前に差し出した。
「それは何だね……?」
「『王国全権委譲およびアストラ帝国属領化同意書』よ。……今日からあなたの国は消滅し、帝国の『オセロ特別行政区』として私の管理下に置かれるわ。……あなたは、そこで生涯、私が作成した『無能改善カリキュラム』をこなしながら、一兵卒として働きなさい。……それが、あなたのせいで飢えた民への、唯一の贖罪よ」
国王は震える手でその契約書を受け取った。
拒否すれば、国は完全に崩壊し、自分も野垂れ死ぬだけだ。
彼は泣きながら、自らの指を噛み切り、血でその書類にサインをした。
「……よろしい。これで、私の人生における『王国』という負債が、ようやくゼロになったわ。……さあ、ヴィンセント。不愉快な生き物は早く退場させて。……私の次の仕事は、帝国のガタガタな税制を三日で再構築することなのよ。……一分でも遅れたら、あなたのその自慢の髪を、全部レーズンの形に刈り込んであげるから」
「……っ、全部レーズンの形に! ああ、それはそれで見てみたい気がするが、君の仕事を邪魔するわけにはいかないな! ……ガルフ、この元王様をすぐに農場へ運べ。……明日から、彼は自分の手でジャガイモを育てる喜びを知るだろう」
国王は、兵士たちに連れられて、這いずるように謁見の間を去っていった。
一国の終焉。それは、あまりにもあっけなく、私の「毒」と「数字」によって処理された。
「……さて。これでようやく、私のデスクに積まれていた『王国問題』のフォルダをゴミ箱に入れられるわね。……ヴィンセント、紅茶のおかわりを持ってきなさい。……温度が一度でもズレていたら、あなたのことを今日から『ぬるま湯皇子』と呼ぶわよ」
「……了解した、私の女王。……沸騰した私の情熱を込めて、最高の温度で淹れてみせよう」
私は背筋を伸ばし、新しくなった帝国の地図を眺めた。
悪役令嬢と呼ばれた女が、一国を飲み込み、新たな帝国の秩序を築いていく。
……ふふ。婚約破棄なんて、最高のスタートラインだったわね。
帝都、アストラ宮廷の謁見の間。
私はヴィンセントの隣に座り、床に突っ伏している「かつての主君」を冷たく見下ろした。
そこにいたのは、王国の国王――セドリック王子の父親である。
かつての威厳は霧散し、着ているマントは虫に食われ、王冠は今にもずり落ちそうなほど、その姿は哀れだった。
「レーズン様……っ! 頼む、この通りだ! 我が国に戻ってきてくれ! いや、戻らなくてもいい、せめて財政支援の凍結を解除し、有能な文官を派遣してはくれまいか!」
国王は、公衆の面前で額を床に擦り付けた。いわゆる『土下座』である。
周囲の帝国貴族たちは、一国の王がそこまで落ちぶれた姿に、驚愕を通り越して失笑を漏らしている。
「支援の凍結解除? ……あら、驚いたわ。私を『害悪』と呼んで追放したのはどこのどなたかしら? あなたの息子さんは、私のことを『シワシワの干しぶどう』とまで仰ったのよ。……その干しぶどうがいないと、あなたの国は種さえまけない不毛の地になってしまったのかしら?」
「セドリックの非礼は、この私が命を懸けて謝罪する! あの愚か者は既に地下牢へぶち込み、王位継承権も剥奪した! だから……だから、王国を救ってくれ!」
私は手に持っていた扇子をパサリと閉じ、国王の鼻先を静かに示した。
「……命を懸けて? あなたの命に、一体どれほどの市場価値があると思っているの? 今の王国は、累積債務が国家予算の三百年分を超えているわ。あなたの心臓一つを売ったところで、一日の利息分にもならない。……数字も読めない王様に率いられた国民が、本当に不憫でならないわ」
「う、ううっ……。なんという、恐ろしい言葉を……」
「言葉ではありません、『現実』を申し上げているのよ。……ヴィンセント、あの方のその無駄に広い背中。見てちょうだい、税金で肥え太った脂肪が、後悔でプルプルと震えているわ。……芸術的なまでの無能の結晶ね」
隣で私の「断罪」を特等席で眺めていたヴィンセントが、恍惚とした吐息を漏らした。
「……素晴らしいよ、レーズン。一国の王を、ただの『脂肪の塊』として定義し直すその冷徹さ。……陛下、お聞きになられたか? 彼女にとって、君の謝罪はノイズにすらならない。……君の国が滅びるのは、神の裁きではなく、彼女という『論理』による必然なんだ」
ヴィンセントはそう言うと、私の肩にそっと手を置いた。
「……レーズン。この男、まだ利用価値はあるかな? もし不要なら、今すぐ王国の領土を帝国の『ゴミ処理場』として併合の手続きを開始するが」
「ゴミ処理場? ……まあ、名案ね。あの国には、セドリック殿下のような『燃えないゴミ』が大量に放置されているもの。……でもヴィンセント、それは非効率だわ。……ガルフさん、あの方に契約書を渡しなさい」
ガルフが、音もなく一枚の羊皮紙を国王の前に差し出した。
「それは何だね……?」
「『王国全権委譲およびアストラ帝国属領化同意書』よ。……今日からあなたの国は消滅し、帝国の『オセロ特別行政区』として私の管理下に置かれるわ。……あなたは、そこで生涯、私が作成した『無能改善カリキュラム』をこなしながら、一兵卒として働きなさい。……それが、あなたのせいで飢えた民への、唯一の贖罪よ」
国王は震える手でその契約書を受け取った。
拒否すれば、国は完全に崩壊し、自分も野垂れ死ぬだけだ。
彼は泣きながら、自らの指を噛み切り、血でその書類にサインをした。
「……よろしい。これで、私の人生における『王国』という負債が、ようやくゼロになったわ。……さあ、ヴィンセント。不愉快な生き物は早く退場させて。……私の次の仕事は、帝国のガタガタな税制を三日で再構築することなのよ。……一分でも遅れたら、あなたのその自慢の髪を、全部レーズンの形に刈り込んであげるから」
「……っ、全部レーズンの形に! ああ、それはそれで見てみたい気がするが、君の仕事を邪魔するわけにはいかないな! ……ガルフ、この元王様をすぐに農場へ運べ。……明日から、彼は自分の手でジャガイモを育てる喜びを知るだろう」
国王は、兵士たちに連れられて、這いずるように謁見の間を去っていった。
一国の終焉。それは、あまりにもあっけなく、私の「毒」と「数字」によって処理された。
「……さて。これでようやく、私のデスクに積まれていた『王国問題』のフォルダをゴミ箱に入れられるわね。……ヴィンセント、紅茶のおかわりを持ってきなさい。……温度が一度でもズレていたら、あなたのことを今日から『ぬるま湯皇子』と呼ぶわよ」
「……了解した、私の女王。……沸騰した私の情熱を込めて、最高の温度で淹れてみせよう」
私は背筋を伸ばし、新しくなった帝国の地図を眺めた。
悪役令嬢と呼ばれた女が、一国を飲み込み、新たな帝国の秩序を築いていく。
……ふふ。婚約破棄なんて、最高のスタートラインだったわね。
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