お黙りなさい!婚約破棄された毒舌令嬢は甘くない毒を吐く

ちゃっぴー

文字の大きさ
25 / 28

25

「……ちょっと、ヴィンセント。あちらの赤い絨毯の上に、ひどく色褪せた大きなジャガイモが転がっているわ。帝国の掃除係は、廊下に生ゴミを放置するのが仕事なのかしら? 見ていられないから、今すぐ焼却処分してちょうだい」

帝都、アストラ宮廷の謁見の間。
私はヴィンセントの隣に座り、床に突っ伏している「かつての主君」を冷たく見下ろした。
そこにいたのは、王国の国王――セドリック王子の父親である。
かつての威厳は霧散し、着ているマントは虫に食われ、王冠は今にもずり落ちそうなほど、その姿は哀れだった。

「レーズン様……っ! 頼む、この通りだ! 我が国に戻ってきてくれ! いや、戻らなくてもいい、せめて財政支援の凍結を解除し、有能な文官を派遣してはくれまいか!」

国王は、公衆の面前で額を床に擦り付けた。いわゆる『土下座』である。
周囲の帝国貴族たちは、一国の王がそこまで落ちぶれた姿に、驚愕を通り越して失笑を漏らしている。

「支援の凍結解除? ……あら、驚いたわ。私を『害悪』と呼んで追放したのはどこのどなたかしら? あなたの息子さんは、私のことを『シワシワの干しぶどう』とまで仰ったのよ。……その干しぶどうがいないと、あなたの国は種さえまけない不毛の地になってしまったのかしら?」

「セドリックの非礼は、この私が命を懸けて謝罪する! あの愚か者は既に地下牢へぶち込み、王位継承権も剥奪した! だから……だから、王国を救ってくれ!」

私は手に持っていた扇子をパサリと閉じ、国王の鼻先を静かに示した。

「……命を懸けて? あなたの命に、一体どれほどの市場価値があると思っているの? 今の王国は、累積債務が国家予算の三百年分を超えているわ。あなたの心臓一つを売ったところで、一日の利息分にもならない。……数字も読めない王様に率いられた国民が、本当に不憫でならないわ」

「う、ううっ……。なんという、恐ろしい言葉を……」

「言葉ではありません、『現実』を申し上げているのよ。……ヴィンセント、あの方のその無駄に広い背中。見てちょうだい、税金で肥え太った脂肪が、後悔でプルプルと震えているわ。……芸術的なまでの無能の結晶ね」

隣で私の「断罪」を特等席で眺めていたヴィンセントが、恍惚とした吐息を漏らした。

「……素晴らしいよ、レーズン。一国の王を、ただの『脂肪の塊』として定義し直すその冷徹さ。……陛下、お聞きになられたか? 彼女にとって、君の謝罪はノイズにすらならない。……君の国が滅びるのは、神の裁きではなく、彼女という『論理』による必然なんだ」

ヴィンセントはそう言うと、私の肩にそっと手を置いた。

「……レーズン。この男、まだ利用価値はあるかな? もし不要なら、今すぐ王国の領土を帝国の『ゴミ処理場』として併合の手続きを開始するが」

「ゴミ処理場? ……まあ、名案ね。あの国には、セドリック殿下のような『燃えないゴミ』が大量に放置されているもの。……でもヴィンセント、それは非効率だわ。……ガルフさん、あの方に契約書を渡しなさい」

ガルフが、音もなく一枚の羊皮紙を国王の前に差し出した。

「それは何だね……?」

「『王国全権委譲およびアストラ帝国属領化同意書』よ。……今日からあなたの国は消滅し、帝国の『オセロ特別行政区』として私の管理下に置かれるわ。……あなたは、そこで生涯、私が作成した『無能改善カリキュラム』をこなしながら、一兵卒として働きなさい。……それが、あなたのせいで飢えた民への、唯一の贖罪よ」

国王は震える手でその契約書を受け取った。
拒否すれば、国は完全に崩壊し、自分も野垂れ死ぬだけだ。
彼は泣きながら、自らの指を噛み切り、血でその書類にサインをした。

「……よろしい。これで、私の人生における『王国』という負債が、ようやくゼロになったわ。……さあ、ヴィンセント。不愉快な生き物は早く退場させて。……私の次の仕事は、帝国のガタガタな税制を三日で再構築することなのよ。……一分でも遅れたら、あなたのその自慢の髪を、全部レーズンの形に刈り込んであげるから」

「……っ、全部レーズンの形に! ああ、それはそれで見てみたい気がするが、君の仕事を邪魔するわけにはいかないな! ……ガルフ、この元王様をすぐに農場へ運べ。……明日から、彼は自分の手でジャガイモを育てる喜びを知るだろう」

国王は、兵士たちに連れられて、這いずるように謁見の間を去っていった。
一国の終焉。それは、あまりにもあっけなく、私の「毒」と「数字」によって処理された。

「……さて。これでようやく、私のデスクに積まれていた『王国問題』のフォルダをゴミ箱に入れられるわね。……ヴィンセント、紅茶のおかわりを持ってきなさい。……温度が一度でもズレていたら、あなたのことを今日から『ぬるま湯皇子』と呼ぶわよ」

「……了解した、私の女王。……沸騰した私の情熱を込めて、最高の温度で淹れてみせよう」

私は背筋を伸ばし、新しくなった帝国の地図を眺めた。
悪役令嬢と呼ばれた女が、一国を飲み込み、新たな帝国の秩序を築いていく。
……ふふ。婚約破棄なんて、最高のスタートラインだったわね。
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

愛を知った私は、もう二度と跪きません

阿里
恋愛
泥だらけのドレス、冷え切った食事、終わりのない書類仕事。 家族のために尽くしてきたエカテリーナに返されたのは、あまりにも残酷な追放宣告だった。 「呪われた男にでも喰われてこい」 そう笑って送り出した彼らは知らなかった。辺境伯ゼノスが、誰よりも強く、美しく、そして執着心が強い男だということを。 彼の手によって「価値ある女」へと生まれ変わったエカテリーナ。 その輝きに目が眩み、後悔して這いつくばる元家族たち。 「エカテリーナ様、どうかお助けを!」 かつて私を虐げた人たちの悲鳴を聞きながら、私は最愛の夫の腕の中で、静かに微笑む。

悪役令嬢は激怒した

松本雀
恋愛
悪役令嬢は激怒した。 必ず、かの厚顔無恥な簒奪者を排除せねばならぬと決意した。 ローザリンデ・フォン・シュヴァルツェンベルクには、政治のことはわからぬ。流行のドレスにも疎い。けれど悪には人一倍敏感であった。なにせ、自分が悪役令嬢だったからである。 ◇ 悪役令嬢ローザリンデは、王太子に断罪され辺境に追放された。 だが薬草園を耕す日々は存外悪くなく、「悪役令嬢時代より充実してるわ」と満足していた——はずだった。 ある日、社交界に新たな悪役令嬢が君臨し、自分が「先代」呼ばわりされていると知り大激怒。悪役令嬢の座を賭けて王都に殴り込む。 完璧な縦ロール、完璧な高笑い、完璧な紅茶のかけ方。何もかもが洗練された現役悪役令嬢クラリッサを相手に、高笑い対決、ドレスの威圧感対決、嫌味対決と、誰も得をしない真剣勝負が幕を開ける。 力押しの元悪役令嬢と技巧派の現役悪役令嬢。戦いの果てに二人が見つけるものとは……?

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた

アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。 高校生くらいから何十回も告白した。 全て「好きなの」 「ごめん、断る」 その繰り返しだった。 だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。 紛らわしいと思う。 彼に好きな人がいるわけではない。 まだそれなら諦めがつく。 彼はカイル=クレシア23歳 イケメンでモテる。 私はアリア=ナターシャ20歳 普通で人には可愛い方だと言われた。 そんなある日 私が20歳になった時だった。 両親が見合い話を持ってきた。 最後の告白をしようと思った。 ダメなら見合いをすると言った。 その見合い相手に溺愛される。

必要とされなくても、私はここにいます

あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。 口出ししない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 ただ静かに、そこにいるだけ。 そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。 張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。 何かを勝ち取る物語ではない。 誰かを打ち負かす物語でもない。 それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。 これは、 声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、 何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。