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「……ヴィンセント。そこの鏡に映っている、やけに豪華な装飾を施された生き物は誰かしら? まるで、帝国の財宝を全部身に纏って動けなくなった、欲深いカササギのようね。見ていて肩が凝るわ」
帝国皇宮、皇后専用の着付け室。
私は、重厚な深紅のドレスと、星の欠片を散りばめたようなティアラを身に纏い、鏡の中の自分を冷ややかに見つめていた。
今日は、私の「帝国正妃」への就任、および「帝国最高政務官」への正式な任命式典の日だ。
「……何を言うんだ、レーズン。君のその姿こそが、帝国の新たな夜明けそのものだ。……ああ、そのティアラが君の鋭い視線に気圧されて、今にも砕け散りそうに輝いている。……実に、実に美しいよ」
私の背後で、まるで自分が主役であるかのようにうっとりとした表情を浮かべているのは、我が「汚点」ことヴィンセントだ。
彼は私のドレスの裾を、世界で最も壊れやすい硝子細工でも扱うかのような手つきで整えている。
「……ふん。美しい? そんな主観的で不確かな言葉で私を形容しないで。今の私は、帝国の資産価値を十倍に跳ね上げるための『最も効率的な装置』としてここに立っているの。……それを理解できないのなら、あなたのその目はただの節穴だから、今すぐくり抜いてビー玉にでも作り替えなさい」
「……っ、ビー玉! 君が遊んでくれるなら、喜んで提供しよう! ……さあ、レーズン。準備はいいかい? 外には、君という『劇薬』の洗礼を待ちわびる、数万の民衆と、震えの止まらない貴族たちが集まっているよ」
私はふと、かつて王国の夜会で「シワシワの干しぶどう」と罵られた夜のことを思い出した。
あの時、私の価値を理解できず、外見と愛嬌だけで人を判断した無能たちは、今や私の作った「労働再教育プログラム」の中で、泥にまみれてジャガイモを掘っている。
「……シワシワ、ね。……改めて考えると、あの種無しスイカ王子の唯一の功績は、私に最高の『芸名』を与えてくれたことかしら。……凝縮されているからこそ、甘みも毒も一滴で人を狂わせる。……薄っぺらなお花畑令嬢には、一生辿り着けない境地だわ」
「その通りだ。……君は干からびているのではない。……世界中の知性と情熱を、その一身に『凝縮』させた、唯一無二の存在なんだ。……さあ、世界に見せつけてやろう。……君という、世界で最も甘美で、最も残酷なレーズンの味を」
ヴィンセントが、恭しく私の手を取った。
その瞬間、部屋の扉が大きく開かれ、ファンファーレの音が帝都の空を突き抜けた。
バルコニーへ続くレッドカーペット。
私が一歩踏み出すたび、整列した騎士たちが一斉に剣を捧げ、文官たちが畏怖の念を込めて深く頭を下げる。
「……いい、ヴィンセント。私の後ろを歩く時は、影のように静かにしていなさい。……あなたの鼻息が私のドレスを揺らすだけで、私の集中力が0.1パーセント削がれるわ。……それは帝国の損失と同義なのよ、わかっているかしら?」
「……ああ、了解した。呼吸すら止めて、君という真理に従おう」
バルコニーに出た瞬間、地鳴りのような歓声が私を包み込んだ。
何万という民衆。彼らは、かつて自分たちの国を食い潰していた腐敗貴族たちを、たった一ヶ月で一掃した「冷酷な救世主」の名前を呼んでいる。
私は、一切の笑みを浮かべることなく、ただ冷徹に、そして傲然と民衆を見下ろした。
そして、マイク代わりに設置された拡声魔導具に向かって、凛とした声を放つ。
「……静粛に。……私の名前を呼ぶエネルギーがあるのなら、それを明日の労働に回しなさい。……私はあなたたちを救いに来たのではない。……この国の『非効率』を、根絶やしにするために来たのよ」
会場が、一瞬で水を打ったように静まり返った。
誰もが、私の発する「正論」の圧力に、息を呑んでいる。
「……今日から、帝国には『無能』が生存できるスペースはありません。……泣き言を言う暇があるなら、私の作った計算式を理解しなさい。……努力する者には正当な対価を、怠ける者には……私が直々に、最高の『毒舌』という名の地獄を見せてあげるわ」
歓声ではなく、深い沈黙と、それから押し寄せるような「畏怖の拍手」が帝国を包んだ。
これよ。愛嬌を振りまいて人気を得るなんて、二流のやることだわ。
私は私のまま、この世界の理不尽を、私の言葉と知性で塗り替えていく。
「……さらば、シワシワと呼ばれた日々。……今日からこの名前は、あなたたちが一生、畏怖と共に語り継ぐ『帝国の理(ことわり)』になるのよ」
私は扇子を翻し、ヴィンセントを従えて玉座へと向かった。
私の人生の第二章。それは、隠居生活などという生ぬるいものではなく、世界を私の「毒」で染め上げる、史上最強の独裁(という名の完璧な管理)の始まりだった。
帝国皇宮、皇后専用の着付け室。
私は、重厚な深紅のドレスと、星の欠片を散りばめたようなティアラを身に纏い、鏡の中の自分を冷ややかに見つめていた。
今日は、私の「帝国正妃」への就任、および「帝国最高政務官」への正式な任命式典の日だ。
「……何を言うんだ、レーズン。君のその姿こそが、帝国の新たな夜明けそのものだ。……ああ、そのティアラが君の鋭い視線に気圧されて、今にも砕け散りそうに輝いている。……実に、実に美しいよ」
私の背後で、まるで自分が主役であるかのようにうっとりとした表情を浮かべているのは、我が「汚点」ことヴィンセントだ。
彼は私のドレスの裾を、世界で最も壊れやすい硝子細工でも扱うかのような手つきで整えている。
「……ふん。美しい? そんな主観的で不確かな言葉で私を形容しないで。今の私は、帝国の資産価値を十倍に跳ね上げるための『最も効率的な装置』としてここに立っているの。……それを理解できないのなら、あなたのその目はただの節穴だから、今すぐくり抜いてビー玉にでも作り替えなさい」
「……っ、ビー玉! 君が遊んでくれるなら、喜んで提供しよう! ……さあ、レーズン。準備はいいかい? 外には、君という『劇薬』の洗礼を待ちわびる、数万の民衆と、震えの止まらない貴族たちが集まっているよ」
私はふと、かつて王国の夜会で「シワシワの干しぶどう」と罵られた夜のことを思い出した。
あの時、私の価値を理解できず、外見と愛嬌だけで人を判断した無能たちは、今や私の作った「労働再教育プログラム」の中で、泥にまみれてジャガイモを掘っている。
「……シワシワ、ね。……改めて考えると、あの種無しスイカ王子の唯一の功績は、私に最高の『芸名』を与えてくれたことかしら。……凝縮されているからこそ、甘みも毒も一滴で人を狂わせる。……薄っぺらなお花畑令嬢には、一生辿り着けない境地だわ」
「その通りだ。……君は干からびているのではない。……世界中の知性と情熱を、その一身に『凝縮』させた、唯一無二の存在なんだ。……さあ、世界に見せつけてやろう。……君という、世界で最も甘美で、最も残酷なレーズンの味を」
ヴィンセントが、恭しく私の手を取った。
その瞬間、部屋の扉が大きく開かれ、ファンファーレの音が帝都の空を突き抜けた。
バルコニーへ続くレッドカーペット。
私が一歩踏み出すたび、整列した騎士たちが一斉に剣を捧げ、文官たちが畏怖の念を込めて深く頭を下げる。
「……いい、ヴィンセント。私の後ろを歩く時は、影のように静かにしていなさい。……あなたの鼻息が私のドレスを揺らすだけで、私の集中力が0.1パーセント削がれるわ。……それは帝国の損失と同義なのよ、わかっているかしら?」
「……ああ、了解した。呼吸すら止めて、君という真理に従おう」
バルコニーに出た瞬間、地鳴りのような歓声が私を包み込んだ。
何万という民衆。彼らは、かつて自分たちの国を食い潰していた腐敗貴族たちを、たった一ヶ月で一掃した「冷酷な救世主」の名前を呼んでいる。
私は、一切の笑みを浮かべることなく、ただ冷徹に、そして傲然と民衆を見下ろした。
そして、マイク代わりに設置された拡声魔導具に向かって、凛とした声を放つ。
「……静粛に。……私の名前を呼ぶエネルギーがあるのなら、それを明日の労働に回しなさい。……私はあなたたちを救いに来たのではない。……この国の『非効率』を、根絶やしにするために来たのよ」
会場が、一瞬で水を打ったように静まり返った。
誰もが、私の発する「正論」の圧力に、息を呑んでいる。
「……今日から、帝国には『無能』が生存できるスペースはありません。……泣き言を言う暇があるなら、私の作った計算式を理解しなさい。……努力する者には正当な対価を、怠ける者には……私が直々に、最高の『毒舌』という名の地獄を見せてあげるわ」
歓声ではなく、深い沈黙と、それから押し寄せるような「畏怖の拍手」が帝国を包んだ。
これよ。愛嬌を振りまいて人気を得るなんて、二流のやることだわ。
私は私のまま、この世界の理不尽を、私の言葉と知性で塗り替えていく。
「……さらば、シワシワと呼ばれた日々。……今日からこの名前は、あなたたちが一生、畏怖と共に語り継ぐ『帝国の理(ことわり)』になるのよ」
私は扇子を翻し、ヴィンセントを従えて玉座へと向かった。
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